休み時間、復習
先日、目の前でヒカリちゃんが”雷”の魔法を使うところを見た。ああいう風に使えば俺も出来るんじゃないかと、“雷”の変換器を持ち出し、俺は再び外壁近辺の荒野の上までやってくる。
何もない草原、ちょうどいい岩や切り株が点々と落ちている。風が吹けば野花を揺らす、視界の向こうにはそびえたつ高い壁が見えている。
俺は、体内の魔力に意識を伸ばし、意識を集中させていく。風が吹いて、俺の前髪を僅かに揺らしていく。
以前に試した“雷”の魔法は、キララさんのやり方を真似していた。魔力を強力に爆発させるような、それがキララさんの使い方、しかし俺がそれを真似すると、どうも自分の手に多少のダメージを受けてしまう。じゃあキララさんはどうやっているのかと聞いてみると、彼女は多少の自分へのダメージを無視して思いっきり敵へと放っているようだった。バカだった。
ヒカリちゃんが使う魔法は、少ない魔力で効率的、瞬間的に使用していたようなので、俺が目指すべきは多分あっちだろう。
体の中に魔力の準備が出来てきた。俺は、ヒカリちゃんが魔法を使っていた時の姿を思い浮かべ、目の前の魔力に投影していく―
*
「調査が終わったので続きをやっていいですよ」
先生からの連絡があって、“シルベヤマ”へのアクセスが再度解禁された。
「先生、結局あそこで何があってたんですか?」
「そうですね……簡潔に言うと、遠い場所とを繋ぐ穴が開いていて、そこからやばめのモンスターが湧いて出てきていました」
俺たち? ではないな。
「やばめのモンスター」
「強さはそんなでもないですが、周囲への悪影響を考えるとやばい感じの、ですね」
「もう大丈夫なんですか?」
「穴は発見され、ふさがれており、侵入した個体も軒並み騎士団の方が掃討されていきました。もう大丈夫でしょう」
俺は、先生の顔をじっと見上げる。
「でも、先生は俺たちが行く前もここは大丈夫って思ってたんですよね?」
「外の世界に安全な場所などありません、キョウゲツさん。向かってください」
*
前回、ヒカリちゃんやキララさんに付いて行って、六合目まで到達地点を更新したものの、そのままの俺では、六合目からのモンスターに実力不足を感じていた。よって俺は復習のため、一人四合目地点まで戻って来た。
穴の外に出ると、森の中の景色、木々の切れ目から下って広がっていく森の景色が見える。何度か見た景色だ。
俺は一人、そこから登っていく山道を見上げる。
「じゃあ行くか」
シルベヤマの環境は特殊であり、山の頂上に行くほど龍脈の深度が深く、下へ降りるほど深度が浅くなっていく。深度が上がるほど、つまりこの山では標高が高くなるほどモンスターが強力に、より厄介になっていく傾向がある。
俺は今日一人でやってきたが、この四―六区間でのモンスターを俺一人で相手するのはまぁきつい、が、だからこそいい練習にはなるだろう。道は前回見た、種類やその傾向も、前回の登山でいくらか見ている。ある程度戦闘だけに集中できるはずだ。
さっさとモンスターの方から出て来てくれないかと考えながら、荒い山道を登り続ける。この登山を始めてから、多少足腰が強くなった気がする。息が切れる頻度も、心なしか少なくなってきている。
ピーヒョロロロー、と、叫びながら近づいてくる影がある。俺は片手に魔力を溜め、どこかから来るその襲撃を警戒する。
木々の合間を飛んでいる影がある。なかなか視認しづらいが、鳥型の影、おそらく前回ヒカリちゃんが倒していた奴だろう。俺はそれが来るのを立ち止まって待つ。
飛ぶ影は、あちらこちらを迂回して俺を警戒しているようだったが、やがて動かない俺に痺れを切らしたのか、俺より後方、高く飛んでそのまま俺の元へと降りてくる。
俺は、十分に近づくまで気づかない振りをして引き付ける、射程内に入った、そう思った途端、俺は振り返りその手を掲げる。
「“雷よ(ライトニング)!”」
手の平から放射状に放たれる雷、それは急降下してきた鳥の影に、過たず命中、鳥は痙攣しながら地面へと落ちる。特徴的な鋭く尖ったクチバシ、適切な対処をしなければ、その先端は俺に突き刺さるか、あるいは体に穴を開けるかしていたのだろう。こえぇ。でも、俺で倒した。
確かな手ごたえを感じながら、俺は地面に落ちたドロップ品を、一人袋の中に集めていく。




