第百四十五話、元素暴走―IV
「あいつは海に落ちた! 俺たちは今から山の斜面を下って海まで移動する!」
俺はキララに魔法で介護されつつ溶岩池を脱し、火山の頂上の縁にやって来てほかのみんなと合流する。
「待って!」
と、サクラが俺を呼び止め駆け寄ってくる。彼女はそのまま俺へと寄って来て、腕と、彼女の額とが、俺の体の側面に当てられる。
「“友好の証明”!」
桜色の鮮やかな光が辺りに満ちる。途端に、俺の心の底から元気が湧き上がってくる。
「もう夜も遅いでしょ! 私の分の元気も使って!」
「ありがと!」
と、バックパックの中からオチバも出てくる。手には、あの巨大なハンマーも持って。
「私は……私も何も出来ないが……これは、持っていくか……?」
「重い! 要らない!」
「……」
すごすごとオチバはバッグの中に戻っていく。
「せ、先生。私は何か出来ますか?」
と、ツバキが控えめに話しかけてくる。
「多分今から海が戦場になる! 足場が無いから作って!」
「えっと、私の魔法では―」
「“氷の刃”を使っていい! 俺が責任を取る!」
俺は順番にみんなの顔を見渡して、それ以上何もないことを見送ってから、目の前の崖を見る。そこにはずっと、黒い岩の斜面が向こうの奥の海面まで続いている。
「ツバキ! ソリ!」
「そ、ソリですね! 分かりました! 神性権限―」
凍れ! と、ツバキの掛け声で目の前に氷で出来たソリ、もといただの箱が出来上がる。下の、レールみたいな足というかアレがないと段差で揺れて……まぁいいや。今度教えよう。
「じゃあ俺は先に行くから!」
「わ、私も行きます!」
「おい、オレは置いてけぼりか!?」
三人が来ると……残った、ワカバは近接戦闘が出来ない。俺は宙に浮かぶバックパックを引っ張りソリの中に入れる。
「全員乗れ! 非戦闘員は海岸手前で待機!」
俺が中に入り、中に次々と人員が飛び乗ってくる。最後に後ろからワカバが箱を押して、斜面に差し掛かり、落ちる前にワカバさんの手を引っ張って中に引き入れる。
ガタン、と箱が傾き、氷のソリが動き出す。
「おい、シートベルトは!?」
「そんなものはない!」
「跳ねたらひっくり返って全員投げ出されるぞ!」
「ツバキ、全員の足を箱に固定!」
「分かりました!」
ぴきぴきと、透明な氷が生まれて俺の足の裏と箱とを接着させる。
箱が滑り、ブレーキはないのでどんどん加速し、周囲の景色が加速し、風を切って俺たちを乗せた氷の箱が落ちていく。
「なぁこれどうやって止まるの!?」
隣を見れば、短い金髪を風にたなびかせて彼女が聞いてくる。
「大丈夫! 先は海だ!」
「その海の中に敵が居るんじゃねぇのか!? 海に落ちても、海ン中には魔物も居るぞ!」
「ツバキがいい感じに止める!」
「すみません先生、指示お願いします!」
「あー……逆坂!」
「逆坂?」
「こう、坂の終わりでいい感じの勾配を付けながら、俺たちが登っていくような氷のコースを作って、止まるまでその坂を続けて―」
「おい目の前!」
俺が手で説明をしていると、俺たちが下る坂の先、斜面が張り出して突起を作っており、それはまるで、スキーのジャンプ台のようでいて―
とか言っている間に、勢いのついた箱はそのジャンプ台に差し掛かった。ガコンと箱が揺れて、箱は坂を離れて空中に飛び出す。
「海まで距離は足りそうかな?」
「聞いてる場合か!」
箱は空を飛び、距離を伸ばして向こうへと飛んでいく。だが、下にはまだ、傾斜の緩くなり広がった、山の裾野の地面がある。このままだと地面に激突するな。
「キララ、ちょっと手を貸して」
「あぁ、手!? ちょっ」
俺は彼女の細く白い手を取り、箱から身を乗り出して下を見る。
キララの手から、豊富な魔力が伝わってくる。俺はもう片方の手から、体を通して異なる属性の魔力を生成し、解き放つ。
「“結晶盾”!」
それは硬く、脆い“結晶”で作ったクッション。俺の手からありえない量の“結晶”が吐き出され、地面に落ちて先に到達する。結晶全てには氷の亀裂が走っており、また氷で表面を覆っている。それは、壊れることで衝撃を吸収する柔らかい盾。
地上に出来た山のような結晶の中に、氷の箱が落ちていく。ばきゃばきゃと心地よい破壊音を立てながら箱は結晶の山を突き破り、最後にはドスンと、黒い溶岩の地面に落ちた。
周囲には壊れた“結晶”と“氷”の破片が飛び散り、きらきらと飛んで、空気に溶けていく。よし、無事に来れたな。
「お、お、お、おい! オレの魔力を勝手にばかすか使うんじゃねーよ! びっくりするだろ!」
「まずはみんなを助けてくれてありがとう、でしょ?」
「みんなを助けてくれてありがとう! ぶっ殺すぞてめー!」
氷の箱も役目を終えて、溶けて地面に消えていく。
さざ波の音が聞こえる。そちらを見れば、暗い海の向こうに、海の上に何かが立っている。彼は氷塊を作り海に浮かべて、その上に立っていた。
「ツバキ、あそこら辺にでっかい氷のステージは作れる?」
「頑張ります」
「おっけー、じゃあ行ってくる!」
俺は夜空の下、黒い溶岩の上を走り、海上に伸びる氷の道を走っていく。




