課題:“標山(しるべやま)”登頂/“標山”チャレンジ・1:ゼロ合目~
・主人公に近い人物一覧
先生
キョウゲツアオイ(主人公)
清霜モモ
清霜ヨウゲツ
雨野ミナモ
有戸キララ
桜ワカバ
ヒカリ
「みなさんには課題として、“標山”の登頂を行ってもらおうと思います」
教室の中、先生は教卓に立って俺たちの顔を見回している。今日の教室の生徒は七人、もう見慣れた顔のメンツ。
「今回攻略を行う“標山”は、龍脈の分布が特殊な地形となり、山を登れば登るほど現れるモンスターが強くなります。今回皆さんに登っていただく“標山”は、麓で“1”、山頂の深度は“3”となります。麓をゼロ合とし、十合目まで、二合ごとに、転移点の更新が行える五つの場所があります。今回の課題は一日二日で達成できるものではないので、みなさん焦る必要はありません、少しずつ、しかし着実に登っていきましょう」
“標山”チャレンジ:ゼロ合目~
「でっけぇなー……」
“シルベヤマ”から少し離れた丘の上、ここから歩いて山の麓まで向かうことになる。ゼロ合目が最初のセーブポイント。“転移剣”と呼ばれる、刃の真ん中が大きく欠けた音叉みたいな形状の剣を地面に刺すと、次からそこに転移して行けるようになる。
丘の上からは山の全貌が見えていた。それは、大地から生える、俺たちの視界の大半を埋める大きな山だった。一日で登る訳ではないと聞いていたが、あれを全部徒歩で登るとなると、今から億劫な気分になってくる。
丘の上に二人で並び、俺たちはただ今から登頂するはずの山を目に焼き付けていた。
「空を飛ぶ魔法とかないの?」
「無法だろ」
丘を降り、地上の森の中続く道を歩いて、麓のゼロ合目を目指す。視界は悪くなり、だんだんどこからが山の始まりか分からなくなってきた。
「おい、まだモンスターは出ねぇのかよ」
俺の前では綺麗な金色の髪が揺れている。俺たちは、森の中をグネグネと続く道の上を歩いている。
「ここら辺はまだ龍脈が薄いからね。まだ出ないんじゃない?」
「麓まで競争しようぜ」
「余計な体力使うのやめようね」
俺の先をグングン歩いていくのは、短い金髪の少女。今日はキララさんと二人の行程だ。背中には細い、黒々とした金棒が背負われている、あれが彼女の武器らしい。ミナモさんは今風邪引いて寝てる、ワカバさんも同時期に体調を崩したらしい。残った元気な二人でニコイチ。
“転移剣”の進捗は個々人で更新され、以降は同じポイント、あるいはそれ以下のポイントから進行を始めることが出来る。ミナモさんもこの後、同じように麓まで来るだろうが、その時俺たちが先の地点まで行っていたら進行は別々だろう。
「暇だからその辺の樹とかへし折っていいかー?」
「やめてあげなよ」
やがて麓に着いた。森の中、道の脇に、一見、分からないように横穴が掘ってあり、そこが最初のセーブポイントのようだった。小さな穴をくぐり、小部屋のような空間があり、そこで俺たちは手元に“転移剣”を呼び出し、足元に突き刺した。これで次から俺たちはここから始められる。
俺たちは洞穴を出てきた。
「んじゃ、進めるか」
「おー」
「足引っ張んなよー」
キララさんは茶化すように言ってくる。
「頑張って引っ張ってねー」
「足引っ張んなよ」
山の表面は青々とした木々に覆われていて、前も後ろも分からない。一応、目印が点々と付けられた、いくつかの“ルート”が存在し、俺たちはそれを頼りに進んでいくことになる。まぁ最悪迷っても上に登るか転移で帰るかすればいい、“剣”のある場所には先生の転移でいつでも帰れる。
「いつもはミナモと一緒に行ってんのかー?」
「大体はそうだねー」
「なんかあんのか?」
「何かってー?」
キララさんは、ちらと一瞬俺の顔を見た。彼女はまた、何事もなかったように山道を歩いている。
「……武器は何使うんだ?」
「普通の直剣だよー。魔法は補助程度かな、魔力そんなないし」
「そうか。こっちは金棒だな。魔法も使う」
「……金棒って何? どこで手に入れたの?」
「元は棍棒だったぞ」
派生でそんなごつい見た目になったのか。小さな金棒を背負う金髪の小鬼。割とさまになっている。
木漏れ日の降り注ぐ山道、落ち葉の降り積もった土の上、傾斜はそこそこあって歩いているだけで体が鍛えられてるような感じがする。自然、体の熱も常に上がり、たまに吹く風が涼しくて心地いい。人の気配はしない、山の中。
「おっしゃ! 結構登って来たな!」
二回目の転移点の更新、四合目のセーブポイント。俺たちは転移剣を手元に呼び戻し、隠れた小穴の先に突き刺した。外に出ると、狭い広場がそこに広がっている。天井を覆う森の切れ目から、裾野へと広がっていく山の景色が見える。
道中の小粒を処理しながら、登って来ること約四合、ここは麓から頂上まで四割を登ってきた所。まだ道中のモンスターは障害にはならず、相手はほとんど登山だった。体に残るのは、登山の軽い疲労感。
「この調子なら今日登頂できるな!」
「登り切れても夜じゃない?」
先生は一日二日じゃ終わらないと言っていた割に、四合目まではさくさく来ることが出来た。登るほど敵が強くなるとも言っていたが、今のところ全部ワンパン、雑魚の違いが分からない。
「今日登り切れば明日から休みだ!」
まぁこれまで通りいけばだが。そんな、とんとん拍子に―
「んー……行っちゃう?」
「行くぜ!」
「行くか!」
うぉぉぉぉおおお! 木々の中を続いていく登山道を、二十メートルほど走ったところで息が切れた。




