第百三十七話、現地調査
「捕捉した。あれがそうだな」
俺たちは四つ目の島に上陸した。島には内部の空洞が少なく、ただ海上に突き出た三角島の溶岩島。
島に近づけば、その強大な気配にヒメトラがすぐに気づいた。島内を歩いていけば、遠くに、巨大な影が止まっているのが見える。
島のほとんどは、緑の生えていない、固まった溶岩の黒い斜面。歩く度ぼろぼろと崩れた黒い岩粒に当たり、足を取られれば転んでしまう。
こっちには突き出た岩があり、俺たちはその陰から、斜面を挟んで少し下って行った所にとまっている、大きな翼竜の姿を見る。
赤と黒の、固まりかけの溶岩のような体表。ヘビか、あるいはワニのような獰猛な目つき。薄く広がった巨大な両翼。足はワシのように、前方に三本の指と、後方に一本の指が付いており、それぞれに太く鋭い鈎爪が生え、二本の足が地面を掴んで大きな体を支えている。また、サソリのような、長く太い尻尾も付いている。
「姿は確認したな。いったん退くぞ」
「だいぶ“竜”の形に近いが、大きな違いとして、二本の前足が地面に着いておらず、翼と融合している。“準竜種”、中でも飛竜型と呼ばれる奴だろうな」
俺たちは、岩がタケノコのように乱雑に生えている、岩の林の中にやって来た。キララさんは地面に座り岩に背中を預け、ノートに記録を記している。
「どうすんだ? 倒しに行くのか?」
俺が聞くと、金髪に黒いローブの少女はちらりと俺の顔を見上げる。
「倒せると思うのか?」
「なんだ、今回は弱気だな」
いつも勝気なキララさんには珍しい。が、キララさんは冷静に返してくる。
「お前の目は節穴か? 相手の力量も見て取れないとは、見損なったぜ」
少女はビリとノートを破き、折って懐の中に入れる。
「次は脅威度の判断だな。奴が人類に敵対するかどうか、また周囲の自然に悪影響を与えていないかどうか」
「準竜種ってのは、竜種の出現には関係ないのか?」
「あるな。今は、あの個体がこの地の栄養を吸い上げて、そしてあの個体の中にため込んでる状態だ。あいつが居る間は竜種は出ないだろうが、あいつが死んで、そのエネルギーが、ここや、あるいは別の土地に落ち、そこで“臨界”に達すれば竜種が生まれる」
キララさんはまた次のページに何かを書き記している。書き殴るように書き、あるいは考えるかのように手を止める。
「あいつは何にせよ“要観測個体”だ」
「倒せるなら、それが良いんだよな」
「なんだよ、挑戦する気か?」
「いや……まぁ、聞いただけだし」
金髪の少女はぱたんとノートを閉じ、そして立ち上がる。
「倒すのもいいが、竜種にまつわる個体の生態を調査するのもオレたちの仕事だ。理由もなく刺激すんなよ」
金髪の少女はお尻についた汚れを払う。
「なんか今日のキララさん、頭よさそうだね」
「いつもは?」
さきほど飛竜が羽を休めていた、溶岩島の斜面にある、平らな広場。そこには木こそ生えていないものの、広く雑草などの緑が生え、地面を覆っていた。
俺たちは飛竜が飛び去ったのを確認し、奴が羽を休めていた、その緑の広場へと赴く。
「巣とか、卵とかあんのかな」
「竜種も準竜種も、子孫を残すのは珍しい。奴らは膨大な龍脈の塊で、卵を産んでも、ヒナが同じ量の龍脈を集められるとは限らない。分け与えれば自分が弱体化する」
インテリきららさんを先頭に、俺たちは緑の広場を歩いていく。たまに溶岩の岩が突き出ているくらいで、特に変哲もない広場だ。
「そっちの端を持っててくれ。そこの岩の隣で」
ワカバさんがメジャーの端を持ち、反対をキララさんが持って、歩いて離れている。先ほどの姿と位置を目で覚えていて、おそらく実寸を正確に測っているのだろう。
「意外と学者肌の方なんですね」
俺がぼーっと眺めていると、ツバキが隣にきて、そう話しかけてくる。
「不器用で短気だけど、あれで頭はそこそこ良いからな」
「聞こえてんぞー」
と向こうでキララさんから声が掛かる。
「なぁ、竜は狩らないのか?」
と、手持ち無沙汰なオチバもこっちに来る。ハンマーは重かったのか、もうバッグの中にしまっている。
「生態調査が優先で、それに個体もでかいから討伐は難しいかもな。深層級だろ」
「アオイは、深層クラスは倒せないのか?」
「いや……ピンキリだろうけど、今は“9”で修練積んでるんだぞ」
「先生なら勝てますよ」
「やめてね無責任な発言」
俺たちは草の上を歩いて作業するキララさんとワカバさんの二人を、ぼーっと端から眺めている。
「二人は、ああいう仕事はやらないのか?」
オチバの方から話しかけてくる。
「そうだな。俺たちは、冒険者の中でも“討伐”がメインのタイプだし。まぁ楽しそうではあるけど。今はとにかく実力を上げて自由を手に入れたいし、戦闘の場数を踏みたいし。調査系はあんまり」
「アオイはまだ強くなるのか」
「俺はまだまだ弱いさ」
俺はちらりと、オチバの方を見る。
「ちなみに、竜素材ってのは特別良かったりするのか?」
「中心部の工房なんかでは、ごく稀に、丸々一頭持ち込まれることがある。竜は全身が最高級の素材だ。だけど、見ることも非常に稀で、また集まる職人も最高クラスの腕を持った人たちだから、私なんかではまだ遠い世界の話。詳しいことも分からないし、素材も一般流通はしない」
「“最高級”か。じゃあ、もっと、“狩ってきてくれ”とか、ねだって来ないのか?」
「君が無理だと思うものを、私は無理に頼んだりしないさ。今は、今君が手に入るものだけでいい」
適当に話して時間を埋めていると、そのうち二人が戻ってくる。
「“飛竜”の行方を追う。移動の準備だ」
青空の下、海上の島の上、再び一行は溶岩の地面を歩き始める。




