第百三十一話、チーム
二つ目の島を探索し終わり、俺たちは三つ目の島へと渡る。
海を渡る舟の上、下をのぞけば、海底は見えない暗い底にある、舟を浮かべているのは不安定な波の上だ。右手には大陸の陸地があり、左手にどこまでも海がある。曇りなき水色の空が目いっぱいに広がっている。
俺たちは黒い溶岩の陸地に上陸した。先に進むほど、この溶岩の島は大きくなっている。背後には空洞だらけだった二つ目の島が見えており、今の俺たちの正面には、重厚な黒い溶岩の山が見えている。
島の頂上を見れば、灰色の煙が漏れ出て、上に、風に流れている。この島からは確かな温度を感じており、体の全体がぼんやり熱い。島の全景を見れば、頂上から流れ落ちる、か細い溶岩が見えていた。
ここは生きている火山の島だ。
「じゃ、地道に探しますか」
金髪の少女は頂上を見上げ、そう呟く。
ここに何が隠されていようが、何が潜んでいようが、ここはフロストベルト“9”、人界では重度の深層。何を探そうにも、道を歩けばモンスターに当たる。
上陸した場所から岩の裂け目を見つけ、そこから内部へと入り込んでいく。前回と違い、道中に外と繋がる天井の裂け目等が無く、内部は薄暗いが、赤い光の流れが空洞内全体をぼんやり照らしている。
俺たちは溶岩の上をこつこつと歩いている。と、俺の頭の上にまたがったネコから反応が現れる。
「モンスターです!」
彼女は俺の頭をぴょんと蹴って、背後に浮かぶバックパックに器用に飛び移り、バッグの中へと潜り込んでいく。俺は仲間に呼びかける。
「準備はいいかー? 野郎ども」
「野郎お前だけだよ」
俺は直剣を握り、引き抜く。キララさんは無手で構え、ワカバさんが手に木製大砲を呼び出し、ツバキが銀色のロッドを構える。俺の剣を見れば、全体が銀色の剣身に、樹枝のような金色の模様が走っている。細かい原理は知らないが、少ない材料で強化するとなると、こうなるらしい。
通りの向こうからごそごそと足音が近づいてくる。やがて、通路の先の物陰からモンスターが姿を現す。
それは二足で歩く、恐竜のようなモンスターだった。腰に掛けて太く、足の先に行くほど細くなっている二本の足と、太く短い尻尾。体表は、は虫類のようにてらてらとしたウロコに覆われている。ピンクと紫のまだらと、若干キモい色。体の所々に毛が生えており、顔の部分は輪郭が丸い。
どすどすと二本の足が地面を揺らす。体重は、俺たち全員を足しても届かないくらい、ショベルカーくらいの重さがありそうだった。
「歯ごたえのありそうなのが来たな。どうするよリーダー」
「ツバキ、戦えるよな?」
「行けます」
「俺が正面からヘイトを買う。ワカバさんは常に遠くから射撃、キララさんは適当に近づいて削っていって、ツバキは走り回って援護とサポート、ツバキは俺からヘイトを奪うなよ」
「了解です」
隣から、金髪の少女が返してくる。
「ヘイトって……お前の体格でさばき切れんのか? あれを。タンクはツバキに回した方がいいんじゃねーの」
「ツバキの防御技術はまだ未完成だから、もっと弱そうな相手の時に少しずつね」
「また甘やかしかよ」
「キララさんがツバキを過信しすぎ。リスク高い択ばっか取って一般人が長生きできると思うなよ。冒険者に大事な心得の一つは“慎重なこと”だ」
「はいはい、従いますよリーダー」
ワカバさんが背後に、キララさんとツバキが左右に広がり展開していく。俺はその場に残り、足元の溶岩を剣で叩いて桃色恐竜を威嚇する。
ふしゅ、ふしゅと、鼻息を立てながらゆっくりと歩いてくる二本足。その二つのつぶらな目は俺を向いている。
「初弾、いっくよー」
俺の背後からのんびりした声が掛かる。ぽん、と、気の抜けた音が場に響き渡り、後ろから小さな弾が放物線を描いて飛んでいく。見えているその木の実は、奴の足元にぶつかった。
途端、爆発音。衝撃波が走り奴の足元の地面の溶岩が黒い礫となって周囲に飛び散る。俺は同時に走り、恐竜の元へと駆け寄る。
煙の中から、丸い顔がにゅっと現れた。開いた口には鋭く生え揃った牙が並んでいる。煙の中、直撃したはずの爆発は、奴の体にほとんど傷を与えておらず、また、欠けた肉も見ている間にたちまち治っていく。こいつ、筋肉の塊だな。
正面から頭部が振り下ろされ、開いた口が俺の体を襲う。俺は縦に剣を構え、衝撃をそのまま受け取り後ろに吹っ飛ぶ。着地に成功した後も、すぐに目の前から恐竜の巨体が迫る。
“スタッカート―”
「“一速”」
俺は一度右に踏み込んで姿を見せた後、素早く左に切り返し、そのまま恐竜の左側面を駆け上がり剣で切り裂く。俺は最後に恐竜の体を蹴り、左前方に退散していく。魔力で加速させていた体はここで途切れる。地面を滑りながら振り返り恐竜を見る。
恐竜は、突如加速した俺の体を目で捉え切れず、遅れて切り裂いた痛みに啼いている。首を振り、周りを見渡して俺の姿を見つける、怒りの感情がこちらに伝わってくる。
俺は地面の溶岩を剣で叩き、さらにヘイトを集めた。
恐竜を挟んで向こうから、キララさんが走って近づいてくる。同時に、左後方からツバキも近づく。俺は片手を剣から放し、魔力を練って風の三叉の槍を撃ち出す。
威力に気付いていたか、俺の風の槍を奴はそのまま胸で受けた。尻尾を振り回し、ロッドを立てたツバキを尻尾で薙ぎ払い飛ばす。その間、奴の真後ろから黒い霞を手にまとった金髪の少女が近づいてくる。
背後のただならぬ気配を感じ取ったのだろうか、恐竜は慌てて身を振ってそちらを見た。しかし、その時にはもう目の前に金髪の少女が迫る。
「“破壊”!!」
黒い霞をまとった少女の拳が恐竜の側面に突き刺さり、ドォンと、銅鑼でも叩いたかのような重低音が響き渡る。恐竜の肉を衝撃が伝播し、恐竜の体が若干浮いた。遅れて、黒い霞が恐竜の肉を掠め取った。
「ギャァァアアアアアオオオオオオオオ!!!!」
恐竜は慣れない痛みに錯乱し、体をめちゃくちゃに振り回す。キララさんが引き、俺とツバキは暴れるさまを見守り、隙を付いてまた弾が飛来する。
恐竜の上部で、爆発弾が過たず着弾した。出来た傷を爆発がさらに抉り、恐竜はこれでもかと体を振って暴れ続けている。
あの巨大な質量の自暴自棄に巻き込まれたら、尻尾が触れるだけで体ごと持っていかれる。体を振り続け、足の裏や首など、弱点があるだろう場所も同じ所に留まらない。
だが、今の俺の速度と精度なら当てられる。俺は地面に屈み、足を一歩踏み込む。“スタッカート―”
「“二速”」
俺の体が宙を飛んだ、俺の体はまっすぐ、体を振り回す恐竜の首元へと飛んでいく。空中で振った首に、俺が斬り付ける剣の刃が、食い込み、そのまま―
あれ。俺はそのまま空中を飛んで反対側に着地し、振り返れば、直剣が奴の首に横から刺さったままでいる。首は筋肉が集まり特に硬く、また中に骨太の骨が入っていた。首を切り落とすのは無理だったか。
「おい剣取られてんぞ!」
「かたーい」
「硬いじゃねぇ!」
向こうで、遠くからツバキが凍らせようと魔力の弾を飛ばすが、それはこのデカさの魔物には焼け石に水。体は固まらず、また、足元の溶岩も凍ろうが凍らまいが安々踏み砕かれる。
「キララさん、アイスパンチ!」
「雑に命令すんじゃねぇ!」
金髪の少女は駆け寄り、暴れる恐竜の手前で止まり、足元に拳を叩き付ける。
それはまさに氷の爆発だった。彼女の足元から湧き出た氷は瞬く間に広がり、津波のように押し寄せ恐竜の体を巻き込み飲み込み氷の中に漬ける。
「すぐ溶けんぞ!」
「りょーかい」
俺は走り出し、地面を踏み込み、飛んで、恐竜の首に刺さったままの剣の柄を手に取る。
と同時に、氷の大結晶が砕け散り、恐竜が中から躍り出た。
しかし、それは行動の一歩目だった。暴れ狂っていた先ほどとは違い、行動の予測が容易だった。俺は剣を手に、抜き去り地面に着地し、俺の真上に恐竜の太い首を見る。
俺は剣に魔力を通す。全身、それから直剣に風の魔力をまとわせ、両手でしっかりと握りこみ、そして、真上にあった首元へ向けて、思いっきり剣を跳ね上げる。
「“溜め切り”!!」
剣が過ぎ去った。直剣は、肉を切り分け、骨へと到達し、そこに深く傷を付けて、両断はしないままに切り去った。
「キララ! 首を折れ!」
「分かりやすくていいねぇ!」
向こうで、金髪の少女が走り、空中で拳を振り上げる。
ピンク色の恐竜は、体に力が入らないのか、辛うじて立ったまま、ただ、側面から迫る鬼のような少女の接近を、見ていることしか出来ない。
「っ“破壊”!!」
彼女の拳が、恐竜の頬面を捉えた。彼女の細腕からはあり得ない音がして、ボキ、と、削った骨の個所から、恐竜の首が真横に折れる。俺の方を向いた。
勢いあまってキララさんがこちらに飛んで来て、俺は慌ててその場を避け、金髪の少女は地面の上でたたらを踏む。
「ぉおい! 受け止めろよ!」
「あれ? 邪魔だ! とか、怒られると思ったよ」
背後で、音を立てて巨大な肉塊が地面に倒れ落ちる。顔を見れば、白目を剥き泡を吹いて、目を覚ます様子もない。彼女らが恐竜の胴体の側面に付けた大きな欠損も、今はもう再生を止めている。
ふしゅふしゅと、白煙と高熱を恐竜の体が吐いている。徐々に体は萎んでいくようだが、この速度だと相当な量の肉塊が残りそうだな。
「対象撃破。戦闘終了。みんなお疲れー」
俺が手を挙げると、金髪の少女は手を挙げ、ぱしと強めに叩いてくる。向こうから「私もー」とワカバさんがやって来て、ワカバさんと、それからツバキと、順にハイタッチを交わしていく。




