第百二十七話、背中を追う
「先生、そろそろ私にも“挑戦”させてくれませんか?」
俺たちは溶岩島の内部に出来た空洞の中を見て回っている。
俺は一瞬身構えたが、考え直せばそれは“モンスターへの挑戦”のことだろう。ツバキは深度“9”に来てから、ずっとサポートばっかりの役回りをしている。
俺たちは洞窟の内部をぞろぞろと並んで歩き、今は隣にツバキが並んでいる。
「ダメ」
「なんでですか」
「実力が足りてないから、危ない」
「先生だって、そうでしたよね」
俺は隣を見れば、銀髪の少女はまっすぐこちらを向いている。
「先生に守られているばかりでは、私は今の強さを抜けられません」
「挑戦して、それで? 潰れたらどうすんだ? お前の命は一つしかない」
「一番危ない所は先生が守ってください」
簡単に言うな、こいつは。俺も、深度“9”にはまだ馴染んだばかりだというのに。相性次第では、引いたモンスターに俺が退けられることもあるだろう。
「ごしゅじんさま、モンスターです」
と、話もままならないままに次のモンスターがやってきた。
それは小さな個体だった。体の表面に金属の輝きをまとわせた、銀色のアルマジロ。体を丸め、ころころと転がりながらそれはやって来る。
「やらせてください」
隣でツバキが言ってくる。……はぁ。
「キララさん、ワカバさん。今回は手を出さないでくれる? うちの弟子も、たまには暴れたいって」
と、戦闘態勢を始めていた二人はこちらを振り向き、頷く。
「見せてみろ」
「派手にやりなー」
そう言って、二人は先頭をどいた。
俺たちの視線の先には、一匹の銀色の獣が居る。のぞく口の間から、生え揃った凶暴な牙が見える。それは、ここらの鉱石を砕くためか。あるいは、他の獣へも向けるものか。
銀色の獣は、こちらに向けて威嚇の態勢を取った。牙を剥き、低く唸り声を上げ、口元から涎が垂れている。落ちた液体が、地面の溶岩を煙を立てて焼いている。強酸性だな。
「相手のモンスターの攻撃の傾向を簡潔に言ってみろ」
「鋭い牙が生え揃っているのが見えています。噛み付きの攻撃に注意です」
「体が鈍重な割に四肢が太く、足元の爪が鋭く太い。固い溶岩でもやすやす掴んで重い体で跳ねてくる、高機動タイプだ。体の各所の凶器もそうだが、あの重さでスピードを出してぶつかられたら岩ぐらい砕く。お前の体もだ。一瞬の急接近に気を付けろ、突進は体で受けたらダメだ」
「分かりました」
少女は銀色のロッドを掴んで、さらに俺の一歩前に出た。銀色の獣はふしゅふしゅと息を巻いている。
溶岩島内部の空洞、空いた壁の側面から、白い光と潮騒が入ってくる。
メキと、銀色の獣は足元を軋ませる。
「来るぞ!」
ツバキが素早く左右に避け、銀色の球が回転しながら宙を飛んでくる。俺が避けたら後ろに被害が行く、俺は避けられない。“フレイム・アーツ―
「“インパクト”!!」
炎を纏わせた剣を、銀色の硬質な球へと真っ向から叩き付ける。しかし、重いはずの剣の勢いが負け、鋼鉄の球は勢いを落として地面に落ち、そのまま俺の背後に転がってくる。ボウリングの玉で野球でもしている気分だ。手がいてぇ。
「おら、そっちに返すぞ!」
キララさんが走って来て、銀色の獣を蹴った。鋼鉄の獣は宙を飛び、俺を飛び越え、硬い地面を砕きながら向こうの地面をゴロゴロと転がる。あいつ人間じゃねぇ。
「すっ、すみません! そっちに通してしまって!」
「今はいい! 目の前のそいつを倒すことだけを考えろ!」
俺は目配せをして、オチバ、ワカバ、バックパックをもっと後方へと引かせる。
向こうの地面に転がった銀色の獣は、再びのそのそと起き上がり、ツバキの方を向いた。とりあえずはこっちに来ることはないらしい。
ツバキが銀色のロッドに、ぴしぴしと氷の槍先を形作っていく。槍を纏う氷は、薄く、透明で、そして鋭い。
地面の銀色の獣が、その鋭い爪先で溶岩の地面を掻く。ぐっと、奴の足元の地面が砕ける。
ツバキはロッドを掲げ、それを待ち構えた。な、何してんだあいつっ!!
「ツバキ!!」
回転する鋼鉄の球が空中を飛び、少女の体へと突進する。彼女は銀色のロッドを構えていたが、その強大な質量を受けきれず、棒を弾き、銀色の球が少女の胸部にぶつかる。
「ツバキっ!!!」
あれだけの重さと勢いでぶつかられたのだ、常人なら骨ごと胸が潰れていてもおかしくなかった。俺は判断の遅さを後悔し、向こうに飛び出ようとした所を。
キララさんの手が、俺の肩を止めた。
「まぁ待てよ」




