休み時間、みんなの反射神経
「ねーねーアオイくん、手ぇ出して」
授業終わり、珍しくミナモさんが俺の席にやってきた。授業というか、教室の中だとミナモさんはあまり話しかけてこない。
「手? なんで?」
「はやく」
俺は言われるがまま手を出すと、彼女は定規の棒を縦にして俺の前に差し出してくる。
「放すから、出来るだけ早くキャッチして」
「あー……反射神経のテス―」
俺の手はそれを察知して、いつの間にか握られている。
「……え? ゼロ?」
「どうだったー? キョウゲツの数字なんだったー?」
と、後ろからワカバさん、キララさんもやってきた。
「は? ぜろ?」
俺はそれを見せると、キララさんはまじまじと定規を見ている。俺の手は、彼女が手を離した定規の最下部を握っている。
「ずるした?」
「してねーよ」
「おいもう一回やれ、オレたちの目の前で」
ミナモさんは定規を奪い取り再び目の前にぶら下げる。落ちた、そう思った瞬間にはもう俺の手は定規を握っている。
「はぁ? なんで?」
「……ミナモさんが手を放す瞬間が見えてるんじゃない?」
俺がそう答えると、キララさんは不満げな顔をしている。
「人読みってことか? おい定規寄越せ、オレがやる」
と、キララさんは俺の手から定規を奪い取り、また俺の前に定規が垂らされる。
「……何回やんの? これ」
「いいからやれ」
「はい……」
俺とキララさんは向き合う、俺はじっと、ぼんやりと目の前の定規を見ていた。俺が手を握れば、落ちる前の定規の先を俺の手が握る。
「はぁ? こいつ放した瞬間……おい! 一番遅かった奴に昼飯パシらせる作戦が台無しじゃねーか!」
「おい買ってこい敗者。俺カツサンドな」
「ねぇわたしもやっていい?」
と、ワカバさんも申し出てくる。俺はただワカバさんに定規を差し出す。
「いいけど、楽しいの? これ」
「いいから」
ワカバさんの腕が上がり、俺の前に、縦にした定規を掲げる。俺はまたぼーっとそれを見つめるが、ワカバさんの目も向こうで、じーっと俺の目を見ているようだった。なんか緊張するな、これ……。
「またゼロで止められたらパンツ見せてあげるよ」
「ぶっ!」
彼女の言葉に噴き出し、俺は咄嗟に顔を逸らしていた。
「はいーわたしの勝……あれ?」
しかし俺の手は動き、落ちたであろう定規をしっかりと握っている。記録は同様にゼロ、定規の最下部を過たず握っている。
「あー! 止められた!」
「おいどうやってんだてめぇそれ! 何かずるしてんだろ!」
「こんなシンプルなゲームで何するんだよ」
詰めてくるキララさんを俺は適当にいなす。
「ねー止められちゃったんだけど! 仕方ない……キララちゃん下脱いで?」
「……いや見せるってオレのパンツかよ! やだよ!」
「なんでよ! ちゃんとやらないとわたしの言葉の“真実性”が下がっちゃうでしょ!」
「オレのパンツって言ってねーだろ! じゃあてめーで見せろ! あと“真実性”ってなんだよ!」
言い返されたワカバさんは、言葉に詰まり、ぐぬぬと自身の下半身の半ズボンへと手を伸ばしていく。
「おいやめろワカバ! 正気に戻れ!」
「離してキララちゃん! わたしはわたしの言葉の“真実性”を証明するの!」
「ねぇアオイくん何見てるの?」
と、ミナモさんが俺とワカバさんとの間に遮るように割って入ってきた。
「いやいや、俺がちゃんと見てないと、彼女は彼女の“真実性”を証明することができないんだよ。……おいやめろ手を放せ! ちゃんと見えないだろ!」




