休み時間、運び屋お兄さん
「君が、運び屋を探しているという少年か?」
授業終わり、とある青年が俺の机の元までやってくる。
「え? あ? 運び屋?」
「大量の鉄鉱石を持ち運べる手段を探していると、妹から聞いた」
と、後ろからモモモ(妹)が現れる。ちなみに手前の青年は清霜ヨウゲツ(兄)さん。教室でよく顔を合わせているが、まだあまり話したことはない。彼はおそらく年上で、あまり社交的なタイプでもなかったから。
「おにーちゃん暇してるから、良かったら使ってあげて」
「積載量には自信がある。手伝おう」
と、お兄さんは謎のどや顔でそう言った。
よく分からないまま、俺たちは街の外に出てきた。
「えっと……俺は、武器の強化素材として純鉄が欲しいんです。ただ、この純鉄というのは、鉄鉱石を製錬して得られるものでして、精錬は教室に居るスライムを使ってでしか、出来ないんですよ。だから、たくさんの純鉄を得るために、たくさんの鉄鉱石をそのままホームまで持ち帰りたいんです」
俺はとりあえず大体の俺の事情を説明する。
「理解した」
「えっと……素材の運搬を請け負ってくれるんですよね? 報酬とかは、何をご所望……ですか?」
お兄さんは澄ました顔で答える。
「外での経験を積むためだ。大したものは期待しない。その代わり、敵が出てきたら俺を守ってくれ」
「じゃあまぁ……今日出る稼ぎを等分、ですかね」
森の中を歩いていく。鉄鉱石はありふれた素材、割とどこのフィールドでも得ることが出来る。とはいえ、俺が適当に歩けるのなんて街の近くの森だけだ。この森の採掘ポイントも、ミナモさんとの行程で把握している。自然と俺の足はここに向いた。
今日も森は静かだ、温かい日差しが葉っぱの隙間から漏れてくる。風が吹けば森全体がざわめき、地面の空気もわずかに動く。土と落ち葉の散らばる地面、今日は空気が乾いていて、暖かい葉っぱの匂いがする。
「わざわざ運搬を買って出るなんて、力持ちなんですか?」
「体は鍛えている。積載量には期待するといい」
「その力を活かして、戦いはしないんですか?」
「妹には、戦闘センスがからっきしだと言われた。モンスターとの戦闘はほとんど妹が請け負っていて、俺はろくに戦わせてもらえない」
あいつ過保護……なのか? そういえば、たびたびお兄さんが弱いという話は聞いていた。
「経験を積まないと、なおさら強くはなれないのでは?」
「そうだな」
「どこら辺からダメなんですか?」
「モンスターに攻撃を当てられない」
「ノーコン……武器の扱いが下手なんですか」
「動かない的にも、上手く当てられん」
「あらら」
お兄さんは、変わらぬ平坦な口調で話を続ける。
森の中は静かだ。変わらない、優しい土の匂いが森の中からしている。風が吹いて森が揺れている。今日の場の“天気”は凪いでいて、モンスターもろくに見かけない。
「神様には、お前は優しすぎるのだと言われた。攻撃を、当てる相手の気持ちを考えて、だから攻撃が当てられないのだと」
「……そうなんですか」
お兄さんはほとんど表情が変わることはなく、だから、その顔から感情を読み取ることは難しい。的に当てられないのに優しさは違うくない? だが、彼の言葉で何となく、彼の人となりが見えてくる。神様って誰?
「勇者、やめたくなりません?」
「戦えないものでも道はあるという。俺は俺の出来ることをして、勇者を続けていこう」
「でも、もっとお兄さんに向いている場所が、世界にはあるかもしれません」
「あるかもしれないな。だが、妹を置いて行く気などない。俺はここで俺の居場所を探そう。無いなら作るまでだ」
「妹さんが大事なんですね」
「あぁ」
大事にされてるな、あいつ。
「武器の種類は? 全部試したんですか?」
「一通りな」
「猛獣使いとかどうですか? 世には、魔物を封じて従える剣があるらしいですよ」
「魔物を封じる剣?」
「“魔剣”というらしいですね。冒険者がよく使ってる武器だそうです」
「高いのか?」
「高い……らしいですね……。でも、素材はモンスターから集まりますよ。銀化石……モンスターから落ちる、銀色の砂粒みたいなのあるじゃないですか。あれを武器に使うと、武器が“銀化”していって……」
その日から、度々お兄さんに狩りに誘われるようになった。どうやら彼はお金で手に入る強さに目を付けたらしい。「お兄ちゃんが最近お金の管理にうるさい」と、妹の方から愚痴を言われた。




