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教科『異世界』の じかん だよ! ~武器と魔法とスキルを学んで、仲間と共に異世界を歩き、モンスターを倒し強くなれ!~  作者: 藍染クロム
-貴族の依頼

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第八十七話、後仕舞い

「あれ、もう起きた」


 隣から声が聞こえる。知らない天井……天幕? 俺は、どうやらテントの一つに入っていた。周囲は慌ただしく騒いでいる。俺はベッドの上に寝ていて……いてて。


「あ、おい! お前の体は治したけど、元の形に戻して空いた所を俺の力で埋めてるだけなんだからな! まだ動かすんじゃねーぞ!」


 通りから黄色い髪の青年が顔を出し、そう言って慌ただしく去っていく。ヒーラーの方だろうか? 通りにはテントが同じように並べられてあり、それぞれに兵士や冒険者たちなどが入っている。


「だって。まだ無理しちゃダメよ、小さな英雄さん」


 テントにはほとんど物がないが、俺の寝るベッドが置いてあり、そこに椅子があって、彼女が座っている。


「……“火星”さん……ですか」


「ヘリオスでいいわ」


「ヘリオスさんは……」


 体を起こそうとしたが、体の中で妙な違和感があり、俺は起き上がるのをやめる。横たわった視界のまま、そこに座っている彼女に目を向ける。赤い、長い髪のお姉さん。傍らには透明な槍がある。中に、夜空の星々を集めて閉じ込めたように、内部に無数の光が宿っている。


「助けていただき、ありがとうございます」


「どういたしまして。あなたも、たくさんの人を助けてくれて、ありがとうね」


「いえ……まぁ。どういたしまして」


 ベッドで横たわったままの俺を見下ろし、彼女はくすと笑みを零した。


「……?」


「何もないわ。それじゃ、私はそろそろ行くわね。戦いは終わった。ゆっくりお休みなさい」


「……はい。お気をつけて……」


 そう言って、彼女はテントの背面の幕を持ち上げ、通りとは反対側から出ていく。そっちも出口なのだろうか? と、どたどたと、忙しない足音が通りの向こうから近づいてくる。


「かーーーーせーーーいさまぁあああ!!!」


 大男が急ブレーキを掛け、何かを叫びながらそこで止まった。俺の居るテントの中を見渡している。


「居ない!! ここに!! “火星”様はいらっしゃいませんでしたか!!」


「あぁ……今さっきまで……」


 どたどたと、また一人足音が近づいてくる。その人は横から飛び、目の前の彼を蹴り飛ばした。どたどたと二人が転がっていく。


「重傷者の居るテントの前で騒いでんじゃねぇよゴリラ!!!」


「あぁ、テルル様!! “火星”様を見かけなかったでしょうか!」


「知らねぇよ!! ここは迷子センターじゃねぇんだ!! とっとと失せろ!!」


 ぼこぼこと音がする。


「ちょっ、いた、痛い! 暴力はいけませんよ!」


「うるせぇ! 俺は治せるから殴っていいんだよ!」


 よそでやれ。平野の上には合戦の傷跡が色濃く残り、今もどこかを誰かが走り回っている。うとうとと、意識が落ちていく。




 次に目を覚ました時には、別の場所に居た。


 ここは病院だろうか、窓の外には街の景色が見えている。二階か、三階か。淡い紅色の綺麗なレンガが並べられた、家々の屋根が見えている。窓が開けられ、部屋の中を、暖かく、柔らかい空気が流れていく。


「気が付かれましたか」


 声のする方を向けば、そちらには扉があり、手前に、銀髪の少女が座っている。俺は病室のベッドに横たえられていて、同じように、傍らに、訪問者用の椅子が置いてある。


「私を置いて、ずいぶん楽しまれたようですね。先生」


「……」


「と、小言の一つでも言うつもりでしたが。そんな余裕は無かったみたいですね」


 俺は自分の体を見下ろす。体の中に妙な違和感がある。俺の体は五体満足で、しっかり整った状態である。しかし、まるで、建物の柱の一部をお菓子で埋めたかのような、無理に動かせば壊れてしまうと、本能的に自分の状態を察知して、自分の体を動かせない。


 戦闘は順調に進んでいた。途中までは。最後に、サソリ男の尻尾による強打を食らい、体を跳ね飛ばされ、その時に体の内外が大きく傷付いていた。


「一週間くらい寝てれば治るそうですよ」


「……早いな」


「魔法を使えばもっと早く治りますが。まぁ大事を取って、ゆっくり休んで治すようにと」


 俺は、近くの机に置いてある、水の容器に手を伸ばすが、寝たままでは届かない。ツバキが気付いて、俺の代わりにそれを取ってくる。大きい容器からコップに水を注いで、飲み始める。


「俺のじゃないの?」


「次にあげますよ。間接キスですね」


「怪我人には、衛生面で心配になることはやめようね」


「……すみません。別のを」


「いや、まぁ今回はいいよ」


 どうせいつも一緒だしな。コップに透明な水が注がれ、俺の口元にそれが寄せられる。一口、一口、口の中に水を含んで、少しずつ飲み込んでいく。


「ありがと」


「いえ。これくらいは」


「ずっと傍に居てくれたの? 俺は大丈夫だから、もう離れてても大丈夫だよ」


 彼女は容器を置き、脇にある椅子に戻って、座る。本を取り出して読みだした。


「たまには、休みを取ることも大切ですので」


 部屋の中には静かな時間が流れていた。俺は窓の外を見て、ただ暖かい風を顔に浴びていた。


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