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教科『異世界』の時間だよ! ~武器と魔法とスキルを学んで、仲間と共に異世界を歩き、モンスターを倒し強くなれ!~  作者: 藍染クロム
ー30

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エリア”黒土山(くろつちやま)”

「居るー?」


 玄関の鍵が開いて部屋の扉が開いた、顔を見せたのはミナモさん。


「私たち、街の方に行くんだけど」


「あぁ、そうなの? 行ってらっしゃーい」


「今日も街の外に行くのー?」


 ミナモさんは、今も外に出る準備をしている俺の姿をぼーっと見つめる。


「まぁね」


 止めないでいると、彼女はそのまま部屋に入ってきて、俺のベッドに勝手に腰掛ける。


「やっぱり、この前私たちに負けたこと気にしてるんだ」


「……いや、全然」


 彼女はふーんと、納得したような納得していないような返事を返したが、やがてにぃとその顔が笑顔に歪む。


「アオイくんが弱いのなんて全然気にしなくていいのにー。私たちみんなで守ってあげるからさー」


「弱くない」


「武器の強化素材集めに行くんでしょー? 一緒に行ってあげよっかー?」


「一人で大丈夫だから。ミナモさんはゆっくり息抜きして来なよ」


 ミナモさんはベッドの上でにやにやと笑みを浮かべている。


「やーいざーこ」


「手が出るよー」


 *

 

 街の転送屋にお金を払い、“黒土山くろつちやま”というエリアにまで飛んで来た。


 ここは金属鉱脈が豊富な山で、そこかしこで金属鉱石素材が入手できる。そこら辺の森で採れるものよりも、採れる鉱石の質も高い。


 俺が今育てている武器は金属素材武器、金属鉱石の比重が高い“メタルソード”派生だ。別にこの派生に特段こだわりがある訳ではないが、とりあえず今の派生を強化しようと、鉱石素材がたくさん採れるこの“黒土山”までやってきた。


 場所の深度は“2~3”。場のモンスターの強さはまちまちだが、今日はモンスターと戦いに来た訳じゃない、とりあえず採れる鉱石を片端から食わせて俺の成長武器をお腹いっぱいまで育てるのが目標。


 俺は一人、岩肌の露出した登山道を歩いていく。


 龍脈の影響を受けた場所を総じて“異界”と呼ぶのだが、”異界”は龍脈の影響を受け、常に不安定な状況にあり、そこでは、地中奥深くにあるはずの鉱石がまるごと露出した“採掘ポイント”なる岩の塊が出現する。


 岩は、何かしらの影響を受けすでにボロボロであり、簡単な衝撃を与えるだけで掘ることが出来る。突発的に地面から現れる岩を見つけ、岩を崩して中から良さそうな鉱石を探し、拾い集める。これが冒険者の“採掘”。


 ”採掘ポイント”はそこかしこに現れるわけではなく、ある程度現れやすいポイントがあり、それらを順番に見回れば大体目的の岩の塊を見つけることが出来る。


「おい、にーちゃん」


 と、一人岩場の道を登っていると、脇から声を掛けられる。そこには涼しそうな格好をした少年が居る。


「にーちゃん一人か? 採掘に来たんだろ、俺が護衛に付いてやろうか? もちろん、金は貰うけどよ」


 現地のガイドさんらしい。転移の魔方陣から、冒険者らしき姿もちらほら見かけており、ここは冒険者には良い狩り場なのだろう。この子のようなガイドの仕事もある。


「……護衛? そんなに俺が弱そうに見えるか?」


「あはは、そんなに怖そうな顔すんなよ、にーちゃん。あんたまだ新米だろ? 無理はしない方が身のためだぜ」


「新米? なんで俺が新米だって分かる?」


「靴が新品」


 俺は足元を見下ろす。靴は、こっちの世界に来てから買ったものだ、結構大自然の中を歩かせてはいるが、それでもまだまだ見た目は真新しい。


「靴だけじゃない、身の回りのものが一様に新しいな。一緒の時期に一気に揃えたんだ、最近な。違うか?」


「……」


「だから、にーちゃんはこの稼業を始めたばかり。どうだい? そんなにーちゃんには俺が必要だろ? 持たないものからは絞らない、にーちゃんにならお安くしとくぜ?」


 俺は少し考える。


「別に、石を採って集めて帰るだけだ。護衛は必要ない」


「護衛ってのは、何かあった時のために備えておくもんだ。ここら辺はほとんど足場が不安定で、下手に戦闘になって、麓まで転げ落ちて擦りおろしになりたくはないだろ? それに、俺は護衛だけじゃなく道案内も出来る、あんたは道に迷わず、敵にも遭わず、効率的に採掘して回れる。なぁ、そう悪い話じゃないだろ?」


 少年は熱心に売り込んでくる。俺は金を持ってるいいカモだとでも思われたんだろうか。


「転移の費用だけで結構な出費だったんだ。ごめんけど、これ以上お金を掛けてはいられないよ」


「金は命より安いぜ、にーちゃん。聞いてて不安になってきたよ、にーちゃん本当に戦えんのか? ここのモンスターは別に強くはないけど、それでも一般人が立ち入れるような場所じゃないぜ?」


 俺はそんなに弱く見えるか。


「一応聞いとくけど、護衛代は?」


「今日だけで5万」


「じゃあな」


「おい待ってくれよ、石集めて回るんなら払えない費用じゃないだろ? なんだったら、今日の稼ぎの山分けでもいいぜ?」


 そんな稼げる場所なの? まぁでも、


「採った石はその場で武器の成長素材にするつもりなんだ。残念だけど利益は出ないよ」


「成長素材?」


 俺は黙って腰の剣を見せる。


「もしかしてそれ“グロウソード”か?」


「“グロウソード”? その呼び名は知らないけど、これは“成長武器”だよ。素材を与えると見た目や性質が変化するんだ」


「なんだその味気ない名前。でもすげぇ! 俺初めて見たぜ! よく見てもいいか?」


「取られても手元に召喚できるぞ」


「別に盗りはしねぇって」


 俺は鞘ごと少年に渡した。彼は剣を鞘から抜いて、まじまじとそれを見つめている。黒鉄の光沢の金属剣、それは大して特異な見た目の剣ではない。


「へー、面白いもん見せてもらったよ! あんた、すごいとこの坊ちゃんか何かか?」


「勇者だよ。見習いの」


「へー、勇者! 最近の勇者はこんなもん持たせて貰ってんのかー」


 彼は、俺の腰の剣をまだ興味深げに目で追っている。


「なぁ、もう行っていいか?」


「いや、なおさら見過ごせねーって! にーちゃんみたいな弱そうなの通して、後で悪い報せでも聞いたら俺の気が悪くなるじゃねーか! しかも勇者なんだろ?」


「今俺のこと弱いって言ったか?」


「じゃあ聞くけど、潜ったことのある深度は最大でいくつだよ。倒したモンスターの強さでもいいぜ」


 少年は腰に手を当て呆れたように聞いてくる。


「深度は“1”。“一人級”以上は倒したことないな」


 少年は途端に真顔になる。


「帰った方がいいと思うぞ、にーちゃん。行けるところからコツコツ行こう」



「そういうお前はちゃんと強いのか?」


「別につよかねーよ。でもこの場所は慣れてる。ここに居るモンスターの対処法くらいは身に着けてるさ」


 岩山を登っていく登山道。道は斜面に対して斜めに、上へ上へと登っていく。


「じゃあなんでガイドなんかやってんだ? 自分一人で回って石集めた方がいいだろ、俺みたいな足手まとい連れないで」


「二人居れば、片方は運搬して、片方は戦えるよう両手を空ける。いつもは運ぶ方やってんだ、ここに来るのは大体冒険者で、戦える。一応、俺もここのモンスターも対処は出来るとはいえ、それは慣れてるだけで俺が強い訳じゃない、知らない事態になればいつでも負ける可能性はある。危険を避けてお金を稼げるなら、俺はそっちの方がいい」


 で、強い人に付いて行って運搬役+道案内か。頭いいな。


「金が欲しいのか?」


「そりゃ生きてる限りそうだろ」


 緑の少ない剝げた岩山、斜面も凹凸が多く、ここの視界はあまりよくない。見えるのは、茶色い岩肌と青い青空の二つ。足元には細かい石が転がっていて、踏めば滑って足場もよくない。


「この岩山の採掘ツアーは、稼げるのか?」


「にーちゃんは何も知らずにここに来たのか?」


 俺は、街のギルドで見つけた情報をそのまま言う。


「自分の街から行ける所で、出来るだけ金属鉱石がたくさん集められそうなところを選んだ」


「そりゃついでに集められるだろうけどよ……普通は、高く売れる鉱石探して、お宝探しにやってくるんだぜ? そんな炭鉱夫みたいな気分じゃなくて」


「俺は俺の目的が達せられればそれでいい」


「場所の危険度くらいは見とこうぜ、にーちゃん」


「せいぜい“2”か“3”だろ、ここも」


「その“2”か“3”に、初めて足を踏み入れる人間が言っていい言葉じゃねーぞ」


 と、道の上を歩いてれば、突き出した平地の場所を見つけた。


「一つ目の採掘ポイントはあそこだぜ、にーちゃん」


 その平地に足を踏み入れてみれば、ところどころに岩が生え、足元には崩れ去った岩の破片が無限に―


「ってあれ? これ……落ちてるの、全部鉄鉱石じゃないか?」


「鉄鉱石? そりゃ、鉄鉱石はどこにでも手に入る“ノーマルレア”、持って帰るにもかさばるから、ここに来るような冒険者はわざわざ持って帰らないな」


「全部!? 全部俺が貰っていいの!?」


「……まぁいいんじゃないか? ちょっとみっともないけど」


 ひゃっほう! ここは宝の山だ! 来て良かったぜ! 俺はその辺に埋もれている石ころから鉄鉱石を見つけ出し、片端から剣に吸わせていく。


「よっしゃ次行こうぜ!」


「待てよ、まだ採掘してないだろ」


 と、少年はそこら辺に生えた岩に手を着いて、そこで待っている。


「なんだ? そのでっかい岩が欲しいのか?」


「この岩を崩して中に何か入ってないか調べるんだ。俺が周り見とくから、にーちゃんは岩の中から“当たり”を探す方やってくれ」


「あたり?」


「なんか見た目の違いそうな石を見つけたら別にしてくれ」


 俺は小さなスコップでがさがさと岩の表面を突いていく。見た目には、立派に硬そうな岩の塊ではあるが、想像以上に脆く、突いた端からぼろぼろと岩は崩れていく。かつんと、スコップが硬いものに当たる。


「お」


「どうしたにーちゃん、何か見つけたか?」


「鉄鉱石だ!」


「……良かったな」


 岩を掘り進めていくと、鮮やかな緑の綺麗な石や、真っ青な石ころなんかも見つかった。適当な紙に包み、彼の持っていた大きめの袋に入れていく。そっちは全部あげると俺が言うと、少年は苦笑して、換金した分を山分けで良いと言った。


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