第八十話、また次の町で
草原の上、道の脇に荷車が停められている。俺とツバキはそれぞれ練習用の武器を手に持ち、草原の上で激しく打ち合う。
武器を置き、飲み物を手に一呼吸。
「先生はスピード型に“魔力強化”を振っているんですね」
最近の打ち合いは、“魔力強化”を用いた身体の動かし方を主に身に着けている。人の身で出来ることには限りがあり、一方でこの“魔力強化”は普通の人間には出来ない動きを可能にしてくれる。
「そういうお前は、防御方面に“魔力強化”を使ってるな」
「まぁ、そうですね」
魔力強化には、俺とツバキで覚えられるものに違いがあった。
ツバキのそれは、防御強化。例えば身体を殴る蹴るした際に、被攻撃個所に魔力強化を行うことで、被ダメージを大幅に抑えることが出来る。これは、ツバキはすぐ覚えることが出来た。一方で、俺は彼女ほど鮮やかに、あるいは高い丈夫さで使うことが出来なかった。
一方、俺は瞬発力を向上させる魔力強化が得意だった。素早く手足が動く、身体が動く。そしてそのスピードに身体が壊されることもない。ツバキはこのやり方にはピンと来ておらず、例えば一歩早く踏み出せば、過剰に早く動かした足に体が振り回される、危うく足を痛める、などが起きていた。
細胞か、それか魔力の癖だろうか、あるいは直感的な使用だから個人の癖が出るのだろうか。とにかく、俺たちの魔力強化はそれぞれ別々の方向へと育っていっている。
「いやぁ、君たちは今日も精が出るねぇ」
と、丘の下から黒衣の青年が坂を上がってくる。
「あ、腰抜け」
「言い方があるんじゃないかな」
彼は手に、赤く長い槍を持って来ていた。
「お兄さんも、眺めてばかりだと体が鈍っちゃうからね。この僕が君たちの練習相手になってあげよう」
「どうせ実戦では使えないのにねー」
「加減は要らないのかな?」
カラカラと荷車は道の上を進んでいく。広い草原を渡り、ようやく次の町が見えてきた。サンゴのような、淡い紅色の綺麗なレンガを積み上げて出来た綺麗な街だ。街を囲う壁の門をくぐると、そこには牧歌的な建物が立ち並び、そこの高い建物の頂部には吊り下げられた大鐘がある。
敷き詰められた、ピンク色の煉瓦畳の上を、荷車を先導して俺と椿は歩いていく。と、背後でするりと荷車を降りる音がする。振り返れば、黒衣の青年が荷車を降りていた。
「じゃあ、僕はこの辺で失礼するよ」
彼はそう言って、赤い槍に荷物をくぐらせて背負い、煉瓦畳の上に立っている。
「お前最後まで問題しか起こさなかったな」
「いや……うん。ごめん」
俺の言葉に、ハルトは言い返さない。
「大丈夫ですよ、ハルトさん。たとえあなたが居なくなったとしても、あなたは私たちの心の中で生き続けます」
「いや、僕は僕で生き続けるんだけどね」
ツバキの心無い言葉にハルトは苦笑する。
「もう降りちゃうんですか?」
と、荷車の中からタヌキが頭を出す。
「そうだね。僕は僕で、僕の生き方を始めようと思うんだ。いつまでも一緒に歩いてはいけない」
彼の揺らぎのない言葉に、しょぼしょぼとタヌキの頭が下がっていく。
「まぁ、なんだかんだで良い賑やかしにはなりましたよ。貰った技術もありますしね。達者でやってください」
俺の言葉に、彼は俺の顔を見る。
「少しの間ですが、お世話になりました」
そう言って、彼は改まって頭を下げた。
「本当にな」
「いや……うん」
彼は、俺たちに背中を向けて、町の中を歩いていく。彼の背中が町の景色に遠ざかっていく。
「よし! じゃあ今からあいつの後つけて、同じ宿に部屋取ってびびらせようぜ!」
「いい考えですね! お金持ちみたいですから、きっと私たちが居なくなった途端女遊びとか始めますよ! 見に行きましょう!」
向こうで黒衣の青年が振り返り、こちらへと走ってくる。




