休み時間、同階交流会
勇者には生活の部屋が与えられている。その建物の同じ階のメンツで交流会? みたいなものを開くと言われ、俺たちはワカバさんの部屋に集合した。と言っても、同じ階の四人が一人の部屋に集まっただけ。あんまり移動はしてない。
部屋の中に入り、床に置かれた丸いテーブルの席の一つに、俺は小さくなって座る。慣れない甘い、女の子の部屋の匂い、集まっているのはミナモさんと、なんとなく顔を知っている程度の同階の二人の女の子。
落ち着かなく周りを見渡すと、ここは俺の部屋より二倍広い。どうやら二人の部屋は、二部屋ぶち抜きで一部屋になっているようだ。ベッドも二段で圧縮されたりと、なおのことこちらの部屋が広く感じる。窓から見える外の景色はほぼ同じ。部屋の作りは似てるし、中身だけが違って、なんか不思議な気分。
「なにそわそわしてんだ? お前」
「……いや。別に。いつも通りだけど」
よく分からないまま俺はキララさんに否定を返す。
「あはは、まぁそのうち慣れるでしょー」
と、ワカバさんが助け舟を出してくれる。
先に言葉を発した方、短い金髪と金眼が特徴のキララさん。たぶん一つくらい年下、口調はどこか乱暴で勝ち気。冒険中でもその性格は発揮されているようだ。
もう一人の、黒髪のおっとりとした雰囲気の女の子がワカバさん、お盆を持ってきて、乗せた飲み物とお菓子をそれぞれの前に置いていく。ワカバさんは同い年……あるいは年上かな? 童顔っぽいからちょっと分かりにくいが、とりあえず雰囲気は俺たちの中で一番大人だ。この二人は、よく一緒に行動しているのを見かけている。
「私こっちがいい」
と、ミナモさんが俺の前のそれと彼女のお菓子を勝手に交換している。黄色風味と赤色でたぶんなんか違うのだろうが。俺の答えを聞く前に換えるな。
「じゃあ、とりあえず、あらためて自己紹介とかからする?」
ワカバさんも席に座り、これで全員が席に着いた。喋る言葉を考えていれば、そう彼女から提案してくる。今日招集したのも彼女だし、ワカバさんはいろいろと先導してくれそうだ。ありがたい。
「格付けから始めよう」
と、ミナモさんが何か言いだす。
「かくづけ?」
「一番弱いのと、一番強いのを決める」
「自己紹介からでいいだろ」
「あはは、じゃあ私からいい?」
ワカバさんを皮切りに、それぞれ順番に、名前や簡単なプロフィール、戦闘で使う武器の種類や使う魔法なんかを言い合った。
「じゃあ格付けに移ろ」
やるのかよ。
「どういう基準でやるんだ。仲間同士でもチャンバラしたいの?」
俺がミナモさんにそう聞くと、彼女はいったん空を見上げて考える。
「討伐数?」
「無理にペース崩して怪我でもしたら大変だよ」
「アオイくん腰引け過ぎ」
「今日は平和な交流会じゃなかったの?」
「いいぜ」
と、キララさんが会話に割って入ってくる。
「今後、もしこのチームで動いたりするなら頭が必要だろ。強い奴が指示出すなら命令もすんなり通る」
「誰がリーダーでも言うこと聞いてあげなよ」
え? 本当にやる気? 今から? ミナモさんとキララさんは立ち上がり、もう外に出る準備を始めている。今日は楽しい平和なお茶会じゃなかったの?
「賛成が二だな。ワカバは? どうする? どっちに賛成だ?」
と、すでに行く気満々のキララさんはワカバさんに聞いている。
「私は……そうだね。中立を保つよ」
「賛成が二なら反対の意を示さないと賛成が多数で決定だよ」
「よし。じゃあ賛成が多数だな。外行くか」
一応俺にも聞けよ。
という訳で、俺たちは街の外に出てきた。今日のルールは、出来るだけ強いやつをたくさん倒して来たら勝ち。勝ち負けに興味はないが、かと言って手を抜いて低い成績を出したくない。しかし……いつもはミナモさんと行っていた。単独での狩りは今日がほぼ初めてか?
とある丘の上、一本の木が生えて、丘を降りたらそこから森が広がっている。ここが、スタートとゴール地点、制限時間は三時間。
「じゃ、獲物は早い者勝ちな! 言っとくが横取りは無しだぞ!」
「私こっち行くから付いて来ないで!」
「あぁ!? てめぇが脇に逸れろ!」
と、ミナモさんとキララさんの二人はさっさと仲良く丘を降りていく。大丈夫かなあの二人……。ここら辺は、今の俺たちならもう楽な狩場とはいえ、一人の時に何が起こるかなんて分からない。俺たちはまだ経験が浅いし……。
二人の背中が競うように丘を降りていく。残された俺たちは彼女らを見送り、顔を見合わせる。
「あれ? キョウゲツくんは急がなくていいの? もたもたしてるとキョウゲツくんが最下位になっちゃうよ?」
「まぁ……今行くけど」
ふふ、と彼女は楽しそうに微笑む。そう言う彼女は、余裕なのだろうか。
「キョウゲツくんが最下位になったらわたし、何お願いしようかなー」
「強い人の命令をぜんぶ聞くなんてルールは無かったよ」
数時間後、それぞれ成果を手に集まった。ワカバさんは、討伐大会には参加すらせず、一人家に帰って四人分の夕食を作ってくれていたらしい。それを除くと、俺が最下位だった。




