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教科『異世界』の じかん だよ! ~武器と魔法とスキルを学んで、仲間と共に異世界を歩き、モンスターを倒し強くなれ!~  作者: 藍染クロム
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第五十四話、必要な仕事

「全員荷車の中に居ること。俺が……そうだね。今日中に戻って来ないようなら、荷車を放棄して転移剣の向こう側……ギルドハウスに、避難しといて」


 荷車の中にはみんなが座り、俺の言葉を神妙な顔で聞いている。洞窟の外には今も雨が降っている。


「……先生は?」


「ちょっと森の様子を見てくるよ」


「私は?」


「今回は、ちょっと使えないかな」


 俺の言葉に、ツバキは目を伏して俯く。


「ツバキが弱いとか、そういう話じゃないよ。ただ、今回のはちょっと特殊でね、専用の装備が必要なんだ」


「……じゃあ、私もそれ欲しい」


「また今度準備してみようね。今日はじゃあ、お留守番しててくれる?」


 銀髪の少女は、無言でこくりと頷いた。


 荷車の周囲の空間が歪み、大きな荷車は小さな八面体の中に収納される。開けた洞窟の下、表面に青や赤や緑を浮かべた八面体がゆるぎなく浮いている。八面体の周囲を泡が覆った。これで、ひとまずの防護柵は準備完了。


 俺は外へと目を向ける。今も雨が降っていて、森の天井を上から打ち付ける。多量の水の粒子を含んだ白い風がまれに起こっては地面を吹いていく。


 俺は雨の降る外へと出ていく。雨の音に包まれて、頭の上から霧のような雨粒が降ってくる。



 森のどこかから気配がしていた。心の奥深くをざわつかせるような、嫌な気配だった。


 雨の降る森の下を歩いていく。天から平等に降る雨は枝葉の収集を受けて幹を伝って、あるいは葉っぱをすり抜けて地面へと落ちていく。雨具は着ているものの、俺は雨の少ないところを見つけて歩いて、暗い森の中を進んでいく。


 やがて、それは一つの岩の陰からぬるりと姿を現した。


「けもの型か……見るのは初めてだな。まぁ居るには居るだろうが」


 それは、真っ黒な影に染めて作られたような、黒い狼だった。丸く膨らんだ胴体、オオカミといっても、人間二、三人分くらいの体格がある。


 黒いオオカミはこちらを見ていた。


「……お前は」


 音もなくオオカミは跳ね、俺の体を上から襲ってくる。俺は自分の影に潜って後ろに大きく後退する。再び地上に出てきた時には、オオカミは俺を見失ってそこの地面できょろきょろとしていた。


「……理性のない、それも人間への敵対を示すタイプか。まぁ……現われはするよな。中には」


 オオカミの目が、再び俺を捉えた。“フレイム・アーツ―


「“シュート”!!」


 俺の蹴りが、飛び込んできたオオカミの鼻面を捉える。が、炎はオオカミの体の表面を這って散る、突進の勢いこそ殺せたが……やはり効かないか。効かないんだよな、普通の攻撃は。“神性”には。


 俺は後退しつつ、胸元のお守りを握り、剣を呼び出す。手元には、翡翠の曲刀が現れている。


 普通の攻撃は効かない、逆に言えば、何かしらの神の力さえ帯びていれば、攻撃は通じる。


 ただし、こいつを殺すなら、相応の神性を消費する。神性とは基本貯蓄の力だ。俺は無限に神性を所有しているわけではない、倒せる神性も限られる。彼らに向き合う中で、可能かどうかではなく、殺すという選択肢はあまり取るべきではない。


 それでも。今居る子たちのために。取るべき異物は取り除かなければ。


「改心の余地は……ないか? そもそも言葉が通じてないか。話が通じないなら……」


 雨降る森の中、何度も黒いオオカミは俺へと突撃してくる。俺はそれを避け、剣でいなし、体で払う。オオカミの牙は俺の喉へ、腹へ、命へと向いていた。


「……俺が憎いか? なぜそこまで攻撃性を持つ。ただ闇雲に暴れている? 俺が触らなければ、お前は平和にこの世界を生きていけるのか?」


 オオカミは音もなく、ただ俺の体を狙い続ける。


 ざわりと音がして、俺は真横へと逃げ道を逸らしていく。見れば、そっちの背後に、別の黒い魔物が現れていた。今度は大蛇。


「……なるほど。お前は“影”か。それで、この暗い森の中を根城にしていたんだな。お前は……そうだな。体が欲しいんだろう。体を奪って、乗っ取りたいんだ。お前は表になりたい。だからおれを攻撃しているんだ。違うか?」


 大蛇は、首を地面に下ろし、するするとこちらへと向かってくる。


「何にせよ、人を害する魔物に、この世界での居場所はないよ。次は慈愛と平和を抱いて生き返れ。でなければ、二度目も俺がお前を殺すだろう」


 俺は、自らの周囲に渦巻く風の刃を剣へとまとわせ、そして振り抜いた。小さな竜巻が森の中を駆けていく。雨を散らし、木々や枝葉を散らして、竜巻は影へと衝突する。


 竜巻が影を散らしていく。オオカミの魔物は消えた。向こうにはヘビがまだ残っていて、俺に背を向けて逃げていく。


「逃げ場はないよ」


 向こうで散らばった風の刃は、宙を舞って俺の元へ。俺の周囲を渦巻くそれらを剣にまとわせ、俺は再び振り抜く。飛び出した竜巻が、ヘビの影にぶつかり散らしていく。


「……少し疲れたな。でも、残りを探さないと」


 俺は雨の森の中を一人歩いていく。俺の周囲には、常に静かに風が舞っている。


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