第五十二話、川遊び
大きな川に出た。
目の前に、右手から左手へと横断し川が流れている。ひどく澄んだ透明な川だ、川底には濡れた丸石が並んでいて、色鮮やかな水草が水の流れになびいている。
隣や荷車から、期待に満ちた視線が向けられている。
「……休憩にするか」
少女たちが荷車を降りて川の中へじゃぶじゃぶと入っていく。タヌキが水の中に飛び込んでゴロゴロと流されていく。ここらの水源は、水こそ綺麗なものの若干の龍脈が混じってしまっている。が、うちのメンツだと特に気にすることもない。
荷車は川の手前にあって、進む先は川の向こう。荷車を進めるならもう少し水の量が少なくないと危ないだろう。しかしうちの荷車は変形八面体浮遊モードがあるので渡すのは楽だ。川の手前の方に広い場所があり、今はそこの木陰へと置いてある。
「ミドリも入るか? 水の中」
薄緑色の肌の少女は、木陰の荷台の中に佇んで、ぼーっと川で遊ぶみんなを眺めていた。木漏れ日が揺れて彼女を照らしている。
「……私が入ると、水が汚れないか?」
「と言っても、下流には人も居ないしな。あいつらを気にしてるのなら、じゃああいつらより下流で遊ぶか?」
ベルトを巻いてリモコンを操作するとミドリの体が宙に浮く、そのまま川の見える下流の方へと運んでいく。川の真ん中にミドリを置いた。俺のすねくらいの水深で、彼女の根っこが水の中に浸っている。
「どうだ? 気持ちがいいか?」
少女は腕を上げて見下ろし、うねうねと、下半身の根っこをうごめかせている。
「木々が川の中に生えない理由が分かったな」
「環境的に不適か……もう上がるか?」
「あっちの深いところに入ってもいいか?」
と、少女はそちらを指す。そこには、脇に水が膨らんで、流れがゆっくりに、水深が深くなっている所がある。
「いいけど……大丈夫か?」
俺は再び少女の体を持ち上げる、数多の根っこがぶら下がり、そこから水が滴り落ちている。俺はミドリの体を動かして、水深の深いところへ。
ミドリの体が水の中に入り、そして浮く。下半身の浮力が大きいのか、彼女の体は横倒しになり安定しない。俺は慌てて操作してミドリを川岸の方へと近づける。少女は、手の平を伸ばして川岸に手を着いた。
少女はぼーっと水の中に浮いて、そこに漂ったままでいる。
「どうだ? 楽しいか?」
「体の中の渋みが抜けていくような感覚があるな」
「動物にはわからない感覚だな」
「水の中は気持ちがいいな」
少女は、プールでバタ足の練習をする時みたいに、川岸に手を着いた姿勢で、ぼーっとそこに浮いている。俺は歩いていき、彼女の近くの川岸のところに座った。
「先生は入らないのか?」
「子供は体温が高いしエネルギーが有り余ってるから、水遊びが気持ちいいんだろう。俺がやっても疲れるだけだ」
「枯れてるな。他にやることもないのか?」
まぁ、手が空いてるし、飲料水の補充や洗い物を済ませてもいいのだが。流れが弱いとはいえ、移動能力に欠けるミドリから目を離して水の中に置いておきたくない。
「俺はここで休憩だな」
「……そうか」
と、上流からばしゃばしゃと誰かが歩いてくる。
「ごしゅじんさま! パンツが! パンツが流されています!」
「誰が何で流してんだー?」
「……ミドリのです!」
「履く箇所ないだろ。穴何個あんだよ」
見れば、上の方から川の流れの上を黒い布の塊が流されて来ている。そこに落ちてた長い枝を取って、先で引っ掛けてそれを止める。ヒメトラがやって来て枝の先のそれをぶんどり、さっさとあっちに帰っていった。
「みんなは相変わらず騒がしいな」
川岸に掴まって、ミドリは水の中でヒメトラの背中を見送っている。
「騒がしいのは嫌いか?」
少女の目線が俺に戻る。
「静かなのが好き。でも、みんなが賑やかなのは、嫌いじゃないな」
「そうか」
少女は水の中に体を浮かせながら、とろんとした目で瞼を瞑っている。風に、頭上を覆う枝葉が揺れていて、落ちる木漏れ日も風に揺れている。さらさらと心地よい音が鳴っている。
「せんせー! ツチが流されてってるー!」
「足の付くところで遊びなさい!」




