第五十話、乱入 ーII
一行に一人加わって、荷車は再び道(通りやすいルート)の上に戻り、カタカタとその車輪を転がしている。ヒカリちゃんとツバキは荷車の上に乗り、タヌキをいじったり、やけにでれでれしたそこの木と話したり、二人で最近のことを話していたりする。
俺は荷車を先導し、ただの森の中から、俺と荷車が通れるルートを選定して、歩いていく。枝が落ちていれば払いのけ、窪んだ地面はどうにか埋める。
「先生、モンスターです」
とさっと、荷車から二人の少女が下りてくる。
「どこ?」
黄色い髪の少女は手に剣を呼び出している。
「ヒカリちゃんは見ててもいいよ」
「ヒカリも戦う」
「私と先生が居ればヒカリは要らないぞ」
「……ヒカリ要らない?」
「要らないことないよ。じゃあみんなで戦おうね」
ヒメトラは荷台の上でこちらを見ていたが、やがてリモコンと首飾りを操作して、荷車は八面体と泡の中へ。
森の奥からひょこひょこと何かが跳ねてくる。輪郭はカエル? 薄緑の、まぁ大きさはモンスターサイズだが、見た目は普通のカエル。
「よわそう」
「……ん? ちょっと待って」
カエルの喉元に、特徴的に突き出たコブ……。
「作戦変更! 手早く倒せ!」
俺は手の平を構え風の刃を打ち出す、風の刃は地面を抉り土を飛ばした、カエルはぴょんぴょんと地面を跳ねて避けていく、ヒカリの放った冷たい光弾が地面に当たり、そこを凍らせていく。逃げた先にツバキが突っ込んで行き、その槍を振るいその体を捉えた。
だがカエルが天を向く。刺した先から、カエルの体は徐々に凍り付いていくが、カエルの喉からぺっと、真上に何かが打ち出された。遅かったか……。
「カエルはもういい! 戻って来て! “アメ”が来るよ!」
「先生、“アメ”とはなんだ!」
「危険な魔物を呼び出す“アメ”だよ!」
やがて、打ち出された“何か”は、上空で弾け、そこから鈍い色の雲が広がっていく。ただでさえ暗い森の中が、日が昇る前のように暗くなっていく。
ぽつぽつと、上空から雨が降ってくる。この雨に人体へ及ぼす影響はない、魔法で出来た水で、ちょっとの間服や地面を濡らすくらい。だが、この雨には特有の“におい”のようなものが混じっていて、その“におい”に混じって奴が現れる。
それは、どこか遠くから、じゃなくて、突然そこの地面から生えて出た。
雨の日の海のような、暗く深い青の大きな体。その体は不定形だが、意思のある水たまりのように立ち上がって俺たちを覗いている。その体は木々の天井を容易に飛び越え、巨大な水の塊が咆哮する。
「ォォォォォオオオオオオオ!!!」
「“アメニュウドウ”だ!」
荒れた海のように、その体は暗く濁って向こう側が見渡せない。巨大な立ち上がった水の塊から、手の平のように水が盛り上がってきて、俺たちの上から降ってくる。
俺たちはその場から散開し、地面に水の塊が落ちて砕ける。上の木が巻き込まれ大きく歪んでいる。
「先生! これどうやって倒す!」
「奴の体は大量の水だ! 同じだけの質量で削り切るか、あるいはコアを壊すか! だがコアはあの大量の水の中だ! なんとかしてコアを捉えて壊す!」
水の塊は、家一つを飲み込めるほど大きくある。体の外からだと俺やツバキの武器のリーチじゃ届かないし、水の中に入れば体の自由が利かず武器が振れない。と、ヒカリちゃんが向こうの奴の元へと走り出す。
「ヒカリちゃん! 気を付けて!」
水の塊から再び水の手が出て来た。
「“寒獄”!」
ヒカリちゃんの放った魔法が、落ちて来た水の手をそのままに凍らせる。ヒカリは地面を蹴り、木の幹を蹴り、出来た一瞬の氷の坂を登って奴の体の本体へと。
ヒカリの体が氷の坂を蹴って跳躍する。少女は手の平をまっすぐアメニュウドウへと向ける。
「“ライトニング・ブリザード”!!」
少女の手から、青白い光が迸った。それは空中を駆け抜け水の体に突き刺さり、一瞬で氷の稲妻がそこに出来上がる。
氷の稲妻は、その過程に赤いコアを捉えていた。赤いコアは大きな長い氷の中に固定され、水中を自在に移動できない。ヒカリちゃんはそのままアメニュウドウの体内へと突っ込んでいった。
俺は剣を構え、集中する。両手で剣を握り、空気を真一文字に切り裂いた。
「“風刃”!」
飛び出した、重い、一本の風の刃は、弧を描きくるくると回りながら一直線にコアへと向かっていく。威力、精度ともに最近鍛えたばかりだ。行ける。
風の刃は水中に入り、水の抵抗をものともせず進んでいく。やがて氷の稲妻が固定した赤いコアを、刃が捉える。重く、刃が入って、赤いコアに食い込む。
ぴしりと、赤い石が二つに割れたのが遠くに見えた。途端、大きな水の体は、糸が切れたように形を失い、大量の水が崩れ落ちてくる。水は地上の色々を押し流し、木々の幹は水の流れに耐えて揺れている。
俺たちは木の上から、濡れた地面の上に降りて来た。地面にはまだ浅く水が張っているが、魔法の水だ、その内無くなるだろう。
「ヒカリちゃん!!」
奴の本体が居た方向から、ずぶ濡れの少女が歩いて戻ってくる。
「体は大丈夫!? ケガしてない!?」
「濡れただけ」
「駄目だよあんな身を犠牲にするみたいな戦い方したら!」
ヒカリちゃんはぱっぱと体を払いながら、俺の顔を見上げる。
「でも、キョウゲツがどうにかしてくれるし」
「俺……」
俺そんなに強かったか……?
「全身ずぶ濡れにしちゃって……待ってて、荷物からタオル取ってくるから」
「こんなのすぐ乾くけど」
黄色の髪の少女は、服の裾を絞って水を落としている。
「せ、先生……私も濡れたよ」
「ヒカリの方が濡れてる」
「何の張り合いしてるのか知らないけどちょっと待っててな」
アメガエル
ミドリのカエル。天に吐き出す球は雨を呼び、そして怪物を呼び出す。来ない時もある。
アメニュウドウ
巨大な水で出来た化け物。一夜で一つの村を滅ぼしたという伝説もある。どこからともなく現れ、消える時もどこかへと去っていく。




