第五十話、乱入
森の中の小さな広場に荷車を停めた。今は各自自由に行動中。
風が吹いて、さらさらと頭上の枝葉が揺れている。森の中には薄い霧が立ち込めていて、遠くを見ると、そこは森の影と重なった霧によってもう見えない。足元は濡れており、地面や転がる岩には豊富に苔が生えている。耳を澄ませばどこかで流れている清流の音も聞こえるだろう。
どうやら危険地帯は抜けたようで、茶色の小さなネコは荷物の上で今は安心して寝ている。荷台の中央には植物の亜人の少女が乗っていて、彼女も目を閉じてじっとしているがあれは寝ているんだろうか。
俺は荷車の周囲の様子を見つつぼーっとしていると、荷台から光が漏れる。荷台に降り立つ足音がして、見ればそこにレモン色の髪の女の子が立っている。目が合った。
俺は口元に人差し指を置いて、無言で荷物の上のネコを指さす。短い、黄色い髪の少女は荷車を静かに下りて、テーブルの空いている椅子をこちらに引き寄せ、隣に座る。
「変な所に居るね、キョウゲツ」
「今は旅の途中だからね。ヒカリちゃんは、今日はどうしたの?」
ヒカリちゃん。彼女も、勇者の学校に居た時に知り合った同窓生だ。いくつか年下の子、小柄で小さくて優秀。
「ギルドの依頼片付けて来て、手が空いたから寄った」
「依頼?」
「そ。ミナモおねーちゃんがうちのギルドでいっぱい依頼引き受けてて。処理しきれなくなったから手伝ってくれって」
ミナモさんは最近は個人ギルドの経営を頑張っているのだろうか。施設も新しくなってるし、人数も倍に、積極的に他から依頼も取って来ているようだ。
「それはご苦労をお掛けいたしました……」
「なんでキョウゲツが謝るの?」
「あのギルド、一応俺の名義が入ってるみたいで……」
「名前だけじゃん。顔も出さないし」
「……そうですね。すみません。じゃあ俺悪くないか」
と、向こうの茂みから音がする。見れば、ツバキとツチ(タヌキ)が帰って来た所だ。
「ヒカリ! 来てたのか!」
「あ、ツバキ! 今ここに居たんだ!」
ヒカリちゃんは立ち上がり彼女の居る方へ、薄黄の髪の少女と銀髪の少女は手を挙げ、手の平を合わせて再会を喜びあっている。
「あれ、タヌキ飼ってるの? 可愛い!」
「ひゃあっ」
黄色い髪の少女は、ツバキの隣のタヌキの前にしゃがみ込み、突然顔が近づいてきてツチがビビっている。
「ねぇねぇ触っていい?」
「私が許可しよう」
「お前が許可するな。本人の意思を聞け」
「ねぇねぇタヌキさん、あなたのことさわっていい?」
ヒカリちゃんが聞いているが、ツチは動揺するばかりだ。
「あ、あの、あの」
「あれ、この子しゃべれるの?」
ツチが何か言う前に、ヒカリちゃんはタヌキの脇に手を入れ持ち上げている。餅っとした体が彼女の手からぶら下がる。
「わー、毛並みきれいー」
「せ、せんせー!」
されるがままのタヌキは、こちらを見上げて助けを求めてくる。
「ヒカリちゃーん? その子ちょっと人見知りなところあるから、少しずつ近づいてあげてねー?」
「は? 今ヒカリがこの子と遊んでるんだけど」
「でも、タヌキさん嫌がってるよ?」
「いやがってない」
「いやがってないかなー?」
と、荷台でネコが起き出して荷物の上でくっ……と伸びをしている。結局起こしてしまったらしい。
「先生先生、私にはその可愛い子の紹介はないのか?」
と、荷車からミドリの声が降ってくる。薄黄色の髪の少女は、タヌキを抱えたまま改めて周りを見渡し、ポツリとひとこと言う。
「キョウゲツ、なんかいっぱい居るね」
「うん。まぁなんか増えた」




