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教科『異世界』の時間だよ! ~武器と魔法とスキルを学んで、仲間と共に異世界を歩き、モンスターを倒し強くなれ!~  作者: 藍染クロム
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フィールド探索“真珠の森[深度1~2]” ーV*

「いったん帰らない?」


「圧勝できる相手を見つけて気持ち良くなってから帰りたい」


「見つけられる? それここで」


 進行は続行のようだ。俺たちは、変わり映えのしない森を歩いていく。風が吹き、頭上の枝をわずかに揺らす、火照った頬の熱が多少風が奪われる。


 進んでも変わらぬ森の景色。地を流れる龍脈には、“天気”、みたいなものがあるらしく、現地の環境や出現するモンスターは、その龍脈の“天気”によって、大きく左右される。“天気”が大荒れなら普段は見ないような強力な力を持つモンスターも現れるため、現地に赴く際には”天気”には注意が必要。今日はというと、別に荒れてもいないし凪いでもいない。


「ん」

「来たね」


 向こうから大型の影、それは、二本足でこちらへ近づいて来ている。亜人? 森の向こうから、斜面の下からぬっと、その影は現れた。


 ざらざらとした表皮、落ち葉が降り積もったような体色、冷たい目つき、地を離れた前足は発達、物を掴むことが出来るようだ。特徴的な長い尻尾は地面の上を歩みに合わせふらふらと揺れている。


 モンスターが現れた。


「でかいね……」

「人型……」


 たしか図鑑で見たな。“彷徨さまようトカゲ”。比較的多彩な場所で見ることのできる、メジャーなモンスター。その地の迷彩柄に体色が変わるという。


 人間ほどの体長のトカゲは、手に素朴な棒を持ち、こちらをしかと睨みながら、一歩ずつ、こちらへと距離を詰めてくる。


「……会話出来そう?」


「モンスターさん、人間と仲良くする気はあるー?」


 ミナモさんが声を張って呼び掛ける。あっちのモンスターは、理解できたのかできていないのか、彼女の声に反応する気配はない。背中を見せたならおそらく襲い掛かってくる。そんな気迫を感じる。


「……倒す方向性で行こう」


「仲良くなる気は無いね」


 足音がやむ。彼は少し離れた地面の上で止まり、俺たちの方を見つめながら、棒を握りなおす。


「リアジュウシネェェェェエエエエエエ!!!!」


「強い思想をお持ちのようだ」


 どこで覚えたその単語。棒を持ったトカゲが走り、こちらへと詰めてくる。俺は直剣を正面に構えて、迎え撃つ準備。


「“ウォーターボール”!」


 すぐ隣後ろから水球が放たれた、それはまっすぐ飛んでいき目の前のトカゲの頭部へとぶつかる。


「ブヘェ!」


 トカゲは顔に水球を食らい、その場でたたらを踏み急にスピードを落とす、隙ができた、貰った!


「おらぁ!」


 俺は剣を思い切り振り上げ、そして振り下ろす。奴の肩に直撃、肉に食い込み、硬いものに当たって止まる、嫌な感触。


「オォアァアアアアアア!!」


 トカゲはやみくもに体を振り回し、振り上げた足が俺の腹へと飛んでくる、俺はとっさに体を捻ったが服の一部が引っ掛かり、引っ張られる、剣が奴の肩から離れた。


「セイセイドウドウタタカエ!!!」


 さすがはモンスターらしい。今、俺がトカゲの肩に付けた傷は、俺が見ている間にふさがっていく。あんまり回復させない方が、落とす魔石が多いとかなんとか。


「負けたら死ぬ勝負で甘えたこと抜かすな!」


「イッタイイチデタタカエ、ヒキョウモノ!」


「うるせぇ! 悔しかったらお前も仲間引き連れて来い!」


「アァ!? ナカマァ!? ダレモツイテコナカッタ!!」


 トカゲの歪な発音が森の空へと木霊する。


「ごめん」


「アヤマンジャネェブッコロスゾ!!!」


「謝らなかったらじゃあ殺さないでくれる?」


「モチロン。セイイニハ、セイイデ」


 トカゲが足元の地面を蹴り、土を蹴り上げ俺の顔を狙う、俺は腕でそれらの土の飛沫をかばう。


「ナワケアルカ!!」


 トカゲはただの棒を振り上げ殴り掛かってくる、俺は剣でそれを受ける。ただの木の棒は俺の剣に食い込み、ぎりぎりと押してくる。力、強いな……。


「よく喋るトカゲだな!!」


「タイリョウハンショクノ、ヒケツダナ!!」


「でもお前一人じゃん」


「コロスゾ!!!」


 トカゲは俺の剣ごと強引に押してくる、俺の体は耐え切れず、上体が後ろへ弾かれバランスが崩れる。


「マズハオス!!!」


 トカゲが棒を振り上げ、今の俺の無防備な体へと殴り掛かって来ようとする、その瞬間、背後から入れ違いに彼女の体がねじ込まれる。


「チッ、モウイッピキガ!」


 燕のような低空飛行、その姿勢から彼女は剣を構え、まっすぐトカゲの胴体へと突っ込んでいく。


 彼女の剣が、トカゲの胴を貫いた。


「ガッ……!」


 トカゲは苦悶の顔で硬直した。次の瞬間、奴の体は弾け、輪郭から星型の粒子を立ち昇らせて消えていく。……倒せたらしい、どうにか。


「あんまり喋らせないようにするか……」


「ん? うん。そうだね」


 彼女は苦い顔で、落ちたドロップ品を見つめる。


「やっぱり敵、手強くなってきてるね。二対一だから勝ったけど、あっちが複数で来たら危ないかも」


 俺がそう言うと、ミナモさんは澄ました顔で答えてくる。


「三体くらいなら行けそう」


「ほんとに?」


 と、彼女は足元の土を靴でかき寄せ、小さな小山を作る。次に、その辺から拾った枝をその小山の頂上に刺した。俺は彼女の意図を察し、彼女と同じように、その作った小山の前にしゃがみ、手を合わせる。


 彼女は即席のお墓に向けて、何かを言っている。


「お前と同じ所に仲間をたくさん送ってやるからな……」


「喜びはしないんじゃない?」


≪ひとくちモンスターずかん≫

 

彷徨さまようトカゲ

 人型に起き上がったトカゲ。さまざまな地に適応し、さまざまな場所で出会う。人の言葉を理解し、会話することができるが、会話をする価値はない。

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