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教科『異世界』の じかん だよ! ~武器と魔法とスキルを学んで、仲間と共に異世界を歩き、モンスターを倒し強くなれ!~  作者: 藍染クロム
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第四十六話、初めての町

 少年は、一人広い草原の上に立っていた。辺りには強い風が吹いている。空には大きな白雲があって、水色の空を広く覆っている。


「君はそんなところで何をしているんだい?」


 少し離れた所から声がする。高い、子供の声だった。少年が振り向くと、そこには白い、短い髪の子供が立っている。


「迷子か? ……まぁ、こんなところで一人、子供が迷子だというのも変な話だが」


 子供は、波打つ草原の上を歩いて、少年の元へとやって来る。白い髪の子供は、やけに落ち着いた様子だった。声色も静かで、穏やかに少年へと笑いかける。


「僕の名前は**。他に行くところが無いというのなら、僕と一緒に来るかい?」


 白い髪の子供の言葉に、俺は頷いて、差し出されたその手を取った。



「ごしゅじんさまー、あさですよー」


 おぼろげに浮上した意識に、俺は顔を踏まれていることを感じる。胸や、首あたりが重い。目を開けると、茶色いネコが俺の体に乗って、顔を前足で踏んでいる。


 俺はネコを持ち上げどかし、上半身を起こした。空は、藤色か茜色に染まっており、遠くの空から現れた金色の太陽が、世界を朝へと変えていく所だった。


 あの日みたいに、周囲には風が吹いている。……あの日ってなんだっけ? なんだか、遠く、懐かしい夢を見ていた気がする。


 俺は再び体を横にして、敷いた藁の上でもぞもぞと寝袋の中に戻り、瞼を閉じていく。夢の続きは見られるだろうか―


「いだだだだだ! おいまだ寝かせろ! 俺はご主人様だぞ!」



 柔らかな砂の地面。海の狭間で、波に挟まれて細く、砂の道は続いていく。両側には青い海がある。

この道は、湾をふさぐように並ぶ数珠繋ぎの無人島を一直線につないでおり、近くの海流の様子によって気まぐれに現れては消える。


 俺たちは、島と、突き出た砂のくちばしとを繋ぐ、最後の道の上を歩いている。背後には、荷車があり道があり、その後ろに島があり、目の前には“Ω”に突き出た反対側の陸地が見えている。


 渡り終えた。背後では、静かに波の音が鳴っている。右手に少し行くと、窪んだ湾の陸地に沿って円形に続いて来た、道の続きが見えている。俺たちは浜辺の先から少し歩いて、荷車を道の上に戻した。


「どうします?」


 隣を歩いていた銀髪の少女が、俺と同じ道の上に立ち、聞いてくる。道は、左に行けば再び森の中へと入っていき、右手に行けば、湾に沿って進んで、そこに見えている町へと辿り着くだろう。


「しばらく道の上続きだったし、そろそろ町にも寄りたいね」


「わざわざ島の上を渡って来たのに、遠回りしてあっちにも行くのか?」


 荷車の中から声が返ってくる。


「意見が割れたね。じゃあミドリはここに置いていくとして、俺たちは町に行ってみようか」


「わたしをここに置いて行くのはいいが、わたしを拾いに来るのは何分後くらいになる?」


「その時間で何しに行ってくるんだよ。トイレか?」


 俺たちは、重い荷車を連れて、満月型の湾の浜に沿って、海辺の道を歩いていく。内海の静かな水面は風に吹かれて方形の波を作り、きらきらと朝の太陽の光を反射している。波の上で黄色い野菜が跳ねた。



「……“悪魔”ですか。それも結構大型ですね……。ちょっと待ってください、魔力の漏洩量を測定する機器を持って来ますので」


 町の入り口には守衛さんが立っていて、案の定通行を止められる。


「やはり少し漏れていますが……まぁでも基準値内ですかね。それでも、町の人間の中には怖がる方も居るでしょうし、なるべく人目に付かないような所に置いたり、あるいは肌を覆うようなものを用意した方が、お互い安心でしょうね」


「ご苦労をお掛けします……」


「あぁ、いえいえ! 私どもも、なにも嫌っているわけではないので。お互い仲良く出来るなら、それが一番ですよ。ただ、体や体質が違えば、交わるのに必要な手順というものが出て来るんです」


 なんやかんやあって、町の中には入れてもらえた。最悪、町に居る間はその辺の林の中に植えて後で回収しに来るつもりだったが、その必要はなくなったらしい。


「ツバキ、先に宿屋を探して荷車を置いて来てくれ。俺は店を探して“レインコート”を買って来るよ」


「……? 構いませんが、それは今すぐに必要なんですか?」


「あぁ……“レインコート”っていうか、ミドリ用の、魔力の遮断具だな」


 冒険者用の道具屋にそれは置いてあり、子供用の黄色い“レインコート”を一つ買って、宿屋の脇の小屋の荷車の中で待っていた、ミドリに着せた。


「先生、下は? 上だけ着せるなんて、変態のやることだぞ」


 ミドリは、上半身には黄色いレインコートを頭まで被っており、コートの下から黄緑色の根っこがいくつも湧き出して来ている。


「お前用の下はねーよ」


 ツバキたちは、先に宿に部屋を取り、中へと自分の荷物を運んでいるらしい。ここは、宿の宿泊客の車を停めておく車庫のようなものであり、屋根だけがあり、並んだ荷車の一つの中に、ミドリはこうして佇んだままでいる。


「お前も部屋の中に来るか?」


「いい。私は外の方が落ち着く。この小屋も、木陰のような静かさと暗さで丁度いい」


 しかし、こんな所に一人置いて行って、悪戯とかされたりしないだろうか?


「そうか。後で台車でも取って来るから、それを使えばお前の移動も楽になるぞ。それで部屋の中に入るのもいいし、町を見て回りたい時は一緒に行こうな」


 俺がそう言うと、黄色いレインコートを着た薄緑色の肌の少女は、ふっと薄く笑う。


「構いすぎても植物は枯れる。別に、私は一人の時間も好きだ。そう構わなくていい」


 でも、構わないと構わないでこいつ……まぁ彼女の言う通り行き過ぎは良くない。何事にも塩梅がある、彼女が良いというのならこのまま置いて行こう。


 俺も宿の中に入って、自分の部屋を探して扉を開ける。


「お?」


 そこには、自分のクッションを持ち込んだツチが居た。


「ツチは、こっちの部屋か」


「……お邪魔してます」


 クッションを抱えているのは茶色い髪の、もちもちとした少女だ。前回は俺とツバキで部屋を取り、それぞれにネコとタヌキを配置したが、今回はもうツチは少女型である。ベッドは一つしかないし、寝る時はタヌキに戻るのだろうか? 一緒の……は、もう気にしなくていいか。タヌキだしな。


 俺は部屋の隅に荷物を下ろし、着替えの服を持って、久しぶりの人工物のシャワーを浴びた。


 部屋に戻ってくると、ツチはまだクッションを抱えたまま部屋の隅の椅子に座っている。


「どうした? シャワー空いたぞ、浴びると気持ちいいから、ツチも入ってくるといいよ」


 俺がそう言っても、ツチは椅子に座ってクッションを抱えたまま、ぷらぷらと足を揺らしている。


「あの……」


「どした?」


「町を……見て回りたくて」


 そっか。そう言えば前回の町に居た時は、禍津鬼との戦闘の直後で部屋で休みっぱなしだったし、人になれるようになったツチとは町を回っていない。旅の直後で、部屋で休みたい気分はあるが、まぁ今日はまだ起きたばかりだし。


「じゃあこの後一緒に行こうか。欲しいものがあったら何でも言っていいよ。あぁ、じゃあ俺は先に、ギルドに行って素材の売却を済ませて来るね。ちょっと待ってて」


 背の小さな少女を連れて、俺たちは町の中を見て回った。ツチは、新しい食器や調理具など、こまごまとしたものを買っていた。八百屋さんに寄って新鮮なトマトを二つ買い、その場で齧りながら帰った。


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