第四十二話、座り話
森の中、肌色の道が、周囲の地面より一段掘り下げられて、地面の上を続いている。道の両脇には濃い緑が広がっており、視界は右にも左にも、前に行くにも木々に遮られている。
荷車の数歩先、俺は道の上を歩いていた。俺が立ち止まると、荷車も緩やかになって止まり、先で銀髪の少女も不思議そうに立ち止まって俺を振り返っている。
「先生? どうされたんですか?」
俺は横にずれて、後ろの道の先を見つめる。そこには、俺たちが今まで歩いてきた道が続いており、やがて森の中に先が消えていく。
少しして、足音がした。それは向こうから、徐々に道を歩いてこちらに近づいてくる。
「通行者ですか。道を譲りますか?」
「いや……たぶん、俺たちに用だよ」
「この前の少年ですね」
幌の上からヒメトラの声が降ってくる。
やがて姿が見えた。向こうの少年は、俺たちを見て焦るでもなく、歩いてここまでやってくる。今日は普通の旅人の格好だ。少年は荷車の隣を通り越し、俺の目の前で立ち止まった。
「よぉ、“渦”。この前ぶりだな」
「あぁ……にーちゃんは、なんだ、託児所でも開いてんのか?」
少年は、隣の荷車に乗った、ネコやタヌキや植物少女を見てそう言った。
少し先に広場があって、俺たちはそこに荷車を止め、椅子や机を取り出す。
「お前が紹介してくれた“学校”とやらは、俺の肌には合わなかったよ」
少年は向かいの椅子に座り、みんなに囲まれて居心地悪そうにそこに座っている。コップを手に中のお茶を啜っている。
「……そうか。……ほかに行くところはあるのか?」
「大したものはないが、今は、 “神”の力を探してのんびり世界を回ってる」
「……そうか。その、なんだ。当てが無いんだったら、お前も一緒に来るか? もう色々居るし」
特定の神に肩入れするのは、本当はあんまりだが。少年は問われ、少し斜め上を向いて答える。
「いや、いいよ。でもありがと。今は、俺の面倒は“先生”が見てくれてんだ。あの人の情報で、ほかの“神”の力を見つけたりしてる。今は、俺一人で外を歩いてるだけだ」
そうか。なんだかんだ、あの人は良くしてくれてるんだな。
「ま、外れは多いけどな」
「結構見つかってんのか?」
「ここに来る道中で“落下”も拾ってきたよ。あんたが居たんで、ついでに顔を見に来たんだ」
近くにあったんだ。
「優秀だな。お前の片割れ……というか、あの人形はどうした?」
「人形なら、今は先生が預かってくれてる」
「そうか」
「今は学校で授業を受けてるよ」
どういう原理で自律して動いてんだ。そんな遠くまで行けんのか。少女を動かす人格があって、それを含むようにこいつの人格があるのか? それとも、常に二つの体を動かすように一つの人格が……まぁどうでもいいことか。
「どうだ? なにか、叶いそうな算段は付いたか?」
俺が聞くと、少年は肩を竦める。
「にーちゃんこそ、どう思う? 俺の願いを叶えてくれる神様は、この世界に居そうか?」
なんか妹を生み出したいとか何とかだったか。
「要は、任意の命を生成したいんだろう? 既存の何かを利用するとかならともかく、一からとなると、聞いたことはないな。無いなら、次に現れる可能性はもちろんあるが。なんにせよ、それが出来るのは大層な力だ。簡単に見つかるとは思えない」
見つかっても、それが出来るなら厄介な案件だ……。まぁ少年の夢を邪魔はしないが。
「冷たい意見だな」
「夢のある言葉が聞きたかったか?」
少年はコップを握って、傾けて中身をごくごくと、飲んでいる。
「少年。これ食べますか?」
こと、と、テーブルの上に赤い果実の欠片が置かれる。ザクロみたいな、赤い皮に包まれた白い綿の中に、赤い透明な粒粒が入った果物だ。少年が、後ろに立っているヒメトラ(人)を振り返る。
「いいのか? ありがとう、いただくよ」
「これ要る?」
こと、と、反対側からテーブルの上に石が置かれる。ツチも少年の隣に立っている。
「……これは?」
「丸くて綺麗な石。握っているとひんやりして気持ちいいわ」
「……ありがとう。記念にいただくよ」
と、少年の背後に、ロッドを持ってツバキが立っている。
「少年、剣の稽古は必要か? この前は先生と一戦交えたそうだな。次はこの私が相手だ」
「……そいつはふらっと立ち寄って休憩に来てんだ。あんまり次々絡むと落ち着かないだろ。加減してやれ」
少年は三方を囲まれて若干困惑している。俺は止めたが、ツバキが続けて言う。
「今日は生きて帰れると思うなよ」
「ツバキだけちょっと違いそうだな……ツバキちゃんちょっとこっちおいで? 先生はもう怒ってないからね?」
少年はしばらくそこに座って休憩していたが、やがて席を離れて、一人道の先に消えていった。




