第四十一話、透明なきみ
森の中の道を、車輪と一行は進んでいく。
「先生先生、この子の名前は何というんだ?」
荷車を先導して歩く、俺と銀髪の少女。背後には荷車が続いており、荷車の中央に荷物をよけて下半身が植物の薄緑色の肌の少女が鎮座している。荷物の中にクッションを置いて、丸まって寝ているタヌキが一匹。また荷台を覆う幌にネコの影が乗っている。
「え? だれ?」
それから、植物少女の隣に、ふよふよと浮かぶ金髪の女の子が一人。誰だこいつ。また知らん顔が増えてる。え、だれ?
「だから、この子だこの子。この金髪の透けてる子だ。さっきから私の精気を吸い取られているような感覚があるんだが。可能ならやめさせてくれないか?」
「え、だれ?」
「知らない振りとは無責任だな。先生の子だろう」
「え、だれ? みんなは知ってる? いつから居た? え、だれその子?」
精霊種。実体の体を持たず、透けた体で意思を持ち、世界を漂う。
金髪の浮いている子は、どうやら言葉を喋らないようで、俺たちの呼びかけが聞こえているのかいないのか、荷車の中で宙を漂い、無邪気に笑みを浮かべている。
「まぁ知らない子だけど。害がないなら放っておいていいんじゃないか? 飽きたらそのうちどっか行くかもだし」
「先生、私の言葉も聞こえていないか? 私のエネルギーがこの金髪に吸い取られていると言っている」
「まぁ多少はいいだろう。俺は気にしないよ。お前もさんざんやってきた道だしな」
「吸われた分のエネルギーは後で補填してもらうぞ」
ミドリが言っている。俺は野良の精霊の対処なんて知らないぞ……。
精霊は、基本実体がないので実害がない。触れられないので干渉が出来ない。確か……昔、“成長武器”という、素材を与えて進化させる武器の中に、これらの精霊に特効して攻撃を与えられる派生を見たことがあった。……確か“純鉄の剣”だっけ? まぁ“成長武器”も“純鉄”も今は手元にないし、近いものも持ってない。
「おーい、金髪ちゃん。その子が嫌がってるから、出来ればエネルギー吸収? は、やめてもらってあげないかな?」
うん? と、金髪の子は宙を浮いて首を傾げている。言葉は通じているんだろうか。俺はミドリを指さし、手で大きくばってんを作る。
と、ふよふよと精霊が浮いてこちらに来る。俺の腰元の、ポーチ? に、顔を寄せて、じーっとそれを見つめている。
「なんだ? 何か欲しいものがあるのか?」
俺は歩きつつ、腰のポーチからいろいろと取り出して見せてみる、と、その子は一つの袋に反応した。それは、小さく砕かれた魔石の粒が入っている袋だった。
「これが欲しいのか?」
俺は中身を手に出して、その子に差し出す。と、魔石の白い粒が宙に浮いていく。精霊の少女はそれを掬い上げ、口に飲み込む。
ぱーっと、少女の顔が花開いた。多分だが、もっともっと、と、せがまれているようだった。俺はさらに袋から魔石の粉を出す。
「ミドリー、たぶんなんか解決したぞー」
「ごしゅじんさま、餌付けしたらその子に懐かれるのでは?」
「え?」
上から、目を細めてネコが見下ろしている。
「先生はあれこれ拾いたくないと言ってたくせに、目を離したらもう増えてますね」
「いや……ちょっと居るだけだから」
荷車は森の道の中を進んでいる。金髪の精霊の子は、まだ荷車の中にふよふよと漂っていた。クッションから起きたツチは人の形態になり、荷車の中でその精霊の子を目で追っている。
「先生、この子履いてます?」
「履……なんの話?」
金髪の少女の格好は、上から下まで黒のワンピース、洋服の下は開いて、そこから素の太ももがのぞいている。ひらひらと広がった黒い裾が、浮いて揺れる動きにたなびいて。
俺がその姿を目で追っていると、ツチの目線がこっちに来た。じーっと、短い茶髪の少女が無言で俺の顔を見ている。俺は黙って目を逸らした。
しばらくすると、飽きられたのか、精霊はその場から姿を消していた。
「先生! 先生!」
荷車を停めて、ちょっと目を離したすきにミドリが鳴いている。
「なにー? 今度はどしたー?」
俺は声の主、荷車を上がって少女の元に行く。
「見てくれ! 悪戯されてる! さっきの精霊にだ!」
と、少女は背中にふわふわと広がった髪を見せてくる。深い緑、うねうねでつやつやとした、わかめみたいな長い髪が少女の頭から伸びている。
そしてその深緑の髪を彩るように、いくつかの花びらが差してあった。黄色、紫、青、小さいものだが、そこら辺から採ってきたものだろうか?
「なんだ、オシャレか? 可愛いじゃないか」
「私がしたんじゃない! 早く取ってくれ!」
「あれ、嫌なのか? 可愛いし、似合ってるけど」
「私は素のままでも可愛いだろ! 何を言ってるんだ! お前はほかの人間の顔や胸を自分の体に付けられてカッコいいと褒められたら嬉しいのか!?」
「いや……ごめん。価値観が違うんだね」
俺は、少女の髪に差してある花を、一個ずつそこから抜き取っていく。
「ほら、全部とったぞ」
「花がついてたとこ洗い流して!」
「そこまでするか?」
「妊娠したらどうする!」
「お前の遺伝子柔軟性高いな」
俺は少女の体を抱き上げ、気合でどうにか下の地面まで下ろした。俺は荷車から生活用の貯水タンクを取ってくる。
「じゃあ洗い流すぞー」
「……いいのか? その水を使っても。限りがあるんじゃないか、そっちは」
と、少女は俺の手元の水のタンクを見ている。
「まぁ、確かに限りはあるけど。水場とかを見つけたら補充は出来るし。後で探してくるよ」
「……魔法の水は使わないのか?」
「使ってもいいけど、お前はいいのか? 苦手なんじゃないのか?」
「……魔法の水でいい。そっちの方が、いっぱい浴びられるし」
「そうか」
俺はタンクを荷物の中に戻し、代わりに水の魔石と燃料用の魔石を持ってくる。
魔法の水を生成し、少女の上からぶっ掛ける。ばしゃばしゃと、少女は湧き出る水の滝を浴びている。
俺は荷車の中からタオルを持ってきて、少女の体を拭いていく。長くて綺麗な髪だった、乾かすのは少し面倒そうだ。
「熱風は平気か? 髪を乾かそうと思うけど」
「……自然乾燥でいい」
「そうか」
よく見れば、少女の髪は艶めいていて、水の弾きは良さそうだった。葉っぱの上みたいに、水滴を弾いて流れ落ちる構造だろう。タオルで髪の上を零れる水滴を拭いていく。
俺は少女を再び抱え上げて、荷車の中へと戻した。
「先生、何をなさってるんですかー?」
と、作業を終えたあたりで、荷車のそばを離れていたツチが戻ってきて、俺に聞いてくる。
「ちょっとミドリの水浴びをやってたよ。あ、そうだ、ツチは金髪の精霊見てないか? やっていいこととしちゃいけないことを教えないと」
「……? 見てないですね」
「塩を盛っとこう塩を」
「効かないだろうし、青菜のお前に効くだろ」
まぁ餌というか身代わりみたいになるだろうか。俺は燃料用の魔石を砕いて粉にして、袋に入れて、次に来た時のためにミドリに持たせた。
みんな! またタイトルが変わったよ! やったね!
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旧題:異世界で学ぶ楽しさを ―異世界転世と勇者の学校―
旧旧題:いつか勇者になるために ―突如異世界に飛ばされた俺、勇者を育てる学校で剣や魔法を学んでモンスターと戦い仲間と共に強くなっていくー
新題:教科“異世界”の時間だよ! ―武器と魔法とスキルを学んで=仲間と共に世界を歩き=モンスターを倒し強くなれ!―




