フィールド探索“真珠の森[深度1~2]” ーIV*
気を取り直し、俺たちは森の中を進んでいく。
「俺、今日の探索が終わったら、お肉と瑞々しい葉っぱがたっぷり挟まれたふわふわのサンドイッチ食べるんだー」
「集中して」
「はい」
まぁなんだ、もう少し探せば俺たちでも倒せるモンスターは見つかるだろう、がはは! さっきのはあれだ、例外だ、”一人級到達のなんちゃら”とかいうモンスターだ。初手で上振れ引くとか運命は意地悪だなぁ。
緑のよく生い茂った世界。景色に目を凝らせば、樹木には細かな顔があったり、葉っぱの形が違ったり、あるいは年齢のひときわ古い大きな木があったり、それぞれ違う森の表情を見せてくれる。まぁ覚えられる気はしない。俺たちは地図や方位器を頼りに森の中を歩いていく。
「居た」
がさごそと木々の向こうの地面から、動く影が複数。
「速いね、もう来るよ」
俺たちは武器を取り出し、構えて影の音を追う、それは地を這う黒い、しずく型の―
「おたまじゃくしだ?」
「後ろ足だけ生えてる! 二本足ですっごい走ってる! きもい!」
ぬめぬめとした大きい黒いおたまじゃくし、それが二本の足を生やして、地面を走って迫ってくる! 全部で四匹、ばらばらの動きでこちらに一直線に向かってきている。
「突っ込んでくるよ!」
「一刀両断にしてやる!」
一匹が跳ね、俺の顔めがけて飛んでくる! 単純な動きだった、俺はそれを斜め上から叩き切る、ぬるい感触が手に返り、黒い体は真っ二つに分かれ、俺の背後へと飛んで―
突如、背後から爆風を受け俺の体は吹っ飛ばされる。目まぐるしく景色が変わり、俺の体は土と落ち葉の上をゴロゴロと転がり、木の幹に背中がぶつかって無理やり止まった。
目が回り、痛みに意識がくらむ、俺はよろよろとどうにか立ち上がろうとする。
「かはっ……! な、何が……」
ミナモさんは爆風を免れたが、無事な様子でこちらに走ってくる……後ろに三匹のオタマジャクシを連れて。
「アオイくん起きて! こいつら爆発する!」
「え……」
俺は、走るままの彼女に手を掴まれ、そのままの勢いで立ち上がり、俺もどうにか走り出す。後ろからは、無機質な表情をしたオタマジャクシたちが三匹、俺たちを見上げながら二本足で走って追ってくる。きもい。
「ふ……振り切れそうにないね……どこかで処理しないと、そのうち他のと出会うかも……」
ミナモさんは、走りながら背後へと手の平をかざす。
「“ウォーターボール”!」
彼女の手の平に、潤う水球が現れそれは背後のオタマジャクシの一匹へと放たれる。ヒット。効果はないようだ。
「焼け石に水!」
「蛙の面に水……」
俺も背後へと手の平を向ける、手の平の中に、わだかまる風の刃を生む、俺はそれに力を込め……そして放った。
「“風刃”」
手の平の中に押し込められていた風の刃の塊は、解放された瞬間、乱雑な方向に飛び出していく。薄い小さな風の刃は、背後へ、計八個ほど飛び、それはオタマジャクシの一匹に頭から当たり、一匹の足を切断、一匹の手前の地面を抉り、転倒させる。残りは意味なく周囲の地面や木々を切りつけ跡を残した。
攻撃の当たった二匹が背後で爆破、爆風で飛んできた一匹は、走る俺たちの間を通り過ぎ、正面の一本の木の幹に激突、爆破。木の幹の中央が抉られ、それは俺たちが見ている間にゆっくりと傾き、情けない音を立てながらへし折れる。
立ち止まった俺たちの前には、倒れた、青々とした葉っぱの付いた木の幹がある。木々の天井が破れて、明るい青空から陽光が差してきた。オタマジャクシの爆破跡からはそれぞれ星の粒子が立ちのぼり、その場にアイテムを残している。
「この森危ない!!!」
≪ひとくちモンスターずかん≫
バクソウジャクシ
生えたての二本の足を使って見たものを追尾、自分ともども爆破。木を一本倒すほどの威力がある。




