第四十話、てんやわんや道中
・仲間
主人公 そこそこ強い
ネコ 勘が良い
弟子 気が強い
タヌキ 毛がふわふわ
半分木 余計なことを考える
カタカタと、森の中を車輪が走っている。
「こいつの名前なんにしますかー?」
風が吹いて周囲の木々が揺れている。森を切り開いて、明るい肌色の道が森の中を進んでいく。少し道を外れれば、そこは暗い森の中。深緑の葉が茂り太陽の光を遮り、向こうの土は暗く湿っている。どこかで鳥が鳴いている。土の上を二人分の足音が進んでいる。
開いた幌の屋根の上、小さな猫が乗って下を見下ろしている。荷車の中央には、陣取って下半身の根を広げた、薄緑の肌の少女がそこに佇んでいる。
「雑草とかでいいぞ」
俺は植物少女の言葉に、ちらと後ろを振り返る。
「なんで急にそんな自己評価低いんだよ」
「じゃあ……月下美人とか」
「飛び越えたな」
「暗に危険性が伝わるものにしましょう、ごしゅじんさま。ヒトクイトゲにしましょう」
「全然暗じゃないが。獲物がビビッて逃げたらどうする」
「それで逃げるのヒトだろ」
一応大丈夫と信じて連れて来てはいるが、本当に大丈夫だろうか? 若干疑いつつ、背後の荷車の植物を眺める。
「ちゃんと可愛いのにしましょうよ、先生。スターライトちゃんにしましょう」
と、荷台から身を乗り出しツチも提案してくる。今日は人型のようだ。まだ見慣れない、茶色の髪の、金と黒のオッドアイの少女がそこに乗っている。
「まだちょっと時代的に冷遇される名前かもね。あとその子の凶暴性を表しきれてないと思う」
「じゃあ“隕石”でいいんじゃないか?」
「なんか重そうで嫌だぞ」
ツバキの言葉に、本人から否定が入る。
「“殺人隕石―スターライト―”にしましょう」
「長けりゃいいってもんじゃねーだろ」
「後ろに“彼が見た最後の光”とか付けるとそれっぽいですよね」
「直撃してる」
これ何の話だったか。
「イバラ」
「俺の知り合いにもう居る」
「ソテツ」
「可愛くないしどっから出てきた」
「カエデ」
「悪くないな」
「モミジ」
「血で濡れたな」
「血だとは限らんだろ」
「ワカメ」
「海に行ったか」
「かわいくない」
「サンゴ」
「可愛いけど合ってなくないか?」
あれでもないこれでもないと言いながら、俺たちは森の中を進んでいく。
道の脇に広場が見えて、ひとまず車を止めてみんなで休憩。荷物を置いて、椅子や机を引っ張り出し飲み物を揃える。
「ミドリ、お前はそこで良いのか?」
腰から下が植物の少女は、荷台の上で一人佇み、手の平をひらひらと振って答える。
「止めるたびに一回一回わたしを降ろすのも骨だろう。わたし自身も疲れる。わたしはここでいい」
そうか。荷台にずっと置きっぱなしもあれだと思ったが、そもそも植物だ。安置の方がストレスは少ないのかもしれない。
「そうか。じゃあ、お前もなんか食べるか? そもそも普段は何を食ってるんだ?」
「生き血」
「手持ちがないな。ほかのものが食べられないなら、そこで干からびることになるかもしれない」
と、隣からくいくいと服を引かれる。見ればツチが居る。
「先生……どうしてもと言うのなら、ツチの体のを……」
おずおずと、隣で茶色い髪の少女が進言してくる。
「やめなさいツチ。先生が頑張って何か取ってくるから」
と、向こうから続きの声が聞こえてくる。
「まぁ何もないなら腐葉土とか生ごみでもいいが。その辺の木とかからも栄養は吸収できるし。飢えたら何でも食べるぞ。でも生きてる動物が一番好き」
こいつ……多分だが、植物じゃなくて、植物の見た目をした別の何かだな……。食べ物の好みの生態的には、アメーバとかのスライムにも似ている気がする。いわゆる、生産者じゃなくて分解者。あるいはヤドリギみたいな寄生植物か。
「先生がこの私を捕まえて連れ回してるわけだし、たまには先生が直々に体を差し出してくれても良くないか?」
「責任取れないからもう置いていっていいか?」
「何でも食べるの? 生きてる獲物以外に好みは?」
と、ツチが荷台に上がっていって、ミドリから好みを聞いている。
「そうだな。昔食べた、人間界の“フルーツ”とやらは美味しかった。栄養的にはそんなだが、同族を食べているような背徳感があってぞくぞくする」
「もう何も聞かなくていいんじゃないか? 適当に生ごみあげよう」
「長期間食事に不満があるとわたしは暴れだすぞ」
「ほんとにめんどうな奴だな……とりあえず一緒の食うか? 紅茶とか飲むか?」
「今飲んでるそれか? じゃあ、私のその辺の体に掛けてくれ」
と、ミドリは下半身から無数に伸びている根っこを手で指さす。
「その辺の体に掛けたら荷車の中が汚れるだろ。上の口かお腹のトゲから丁寧に飲め」
ツチがコップを荷台の上まで持って行って、ミドリに渡している。ミドリは上の口から飲むことにしたようだ。コップを両手で掴み、コップに口を付けて、こくこくとのどを上下させ液体を飲んでいる。
ぷはぁと、少女はコップを下ろした。
「味が薄い」
「そうか。ミドリの口には合わなかったか」
「古くなった葉っぱを水で煮出したみたいな味がする」
「まぁまぁ合ってるけど人間界では人気の飲み物だよ」
「私が浸かった水とかもこんな感じか?」
「味の違いが分からない奴は黙ってろ」
と、くんくんと、ミドリは空気の匂いを嗅いでいる。
「そっちのネコ娘は何を飲んでるんだ?」
と、ミドリの視線はそこの椅子のヒメトラに行く。
「ヒメトラです」
「ヒメトラは何を飲んでるんだ?」
ヒメトラは、今は人間になって向かいの椅子に座っている。ペットボトルのキャップみたいな小さな器に、濃い色の液体を入れて、ちびちび舐めてそれを飲んでいる。
「これですか? これはポーションです」
「ポーションって何だ?」
俺が聞くと、少女がその小さい器を差し出して見せてくる。
「ごしゅじんさまも、飲みますか?」
……え? そこから? 今その舌を入れて、ちろちろ舐めて飲んでなかったか? 俺は少女が差し出すその黒い液体を、固まって見下ろす。
「飲まないんですか?」
「……じゃあ、まぁ。ひと口」
俺はヒメトラの手を引き寄せて、器の端に口を付け、少しだけ中身を啜った。
「……っ!!」
あっつ!! からっ!! いや甘い!? 舌を焼くような濃い味が口の中に広がり、俺は慌ててコップのお茶を飲んでそれを緩和する。
「果汁などの液体を煮詰めて濃縮したものです。通常は水などで割って薄めて飲みます」
「なんで原液で飲んでんだ!」
「ヒメトラの好みです」
「個人的な嗜好を前置きなく提供するな!」
うえぇ……舌がひりひりする……砂糖を食ったみたいだ……。と、荷台の上の少女は、どうやらそのポーションに興味を示したようだった。
「わたしには? わたしにはくれないのか?」
「どれくらい飲みたいんですか?」
「ひとたる」
「そんな無いです」
「わたしにたくさん栄養を上げるとそのうち高価な実を付けるぞ」
「興味ないです」
「じゃあその一杯でいい。私の口の中にぶちまけてくれ」
ヒメトラは腰のポーチをごそごそと漁り、中から小さなガラスの小瓶を取り出した。きゅぽ、と栓を開け、歩いて荷台の元まで行って、あー、と開けたミドリの口の中に注ぎ込んだ。
「あつっ!!!」
「お前でも濃いんじゃねーか」




