第三十八話、強度マックスの修行
「騎士王隊では、剣技による強さを何より重んじるの。だから、隊の内部ではみんな剣を握って戦うわ。それも、特別な剣じゃない、普通の剣で戦うの。どんな戦場でも、どんな状況でも、最高のパフォーマンスを保てるようにね」
草原の上を続く道の上、複数の足音が鳴って進んでいく。大きな荷車が道の上を歩いている。荷車に引き手らしきものは居らず、荷車はひとりでに歩いている。
「最近は魔法の使い手も入ってますけどね」
「うるさいわね。後から言おうと思ったわよ。でも、その子だって理屈は同じよ。魔力の枯渇が考えられないぐらい、強力で大量に魔法を使うから」
一行に新しく増えた顔は、モモと名乗る騎士団のお姉さん。桃色髪のお姉さんは俺たちの旅に付いて来て、先ほどからぺらぺらとツバキに講釈を垂れている。モモというと、かつての同窓生の顔が思い浮かぶが、名前だけで二人に特に共通点はない。
「マコモの様子はどうですか? 上手くやってますか?」
「なに? あんたあのナマイキと知り合い? ……ってそんなことはどうでもいいのよ。今は、私はこのツバキちゃんと話してんの」
「いえ、私のことはお気になさらず」
澄ました返事がツバキから返る。モモの目線がツバキの頭に戻る。
「ずいぶん良い子ね。駄目よ? もっと自我出していかないと。世の中に埋もれちゃうわ」
「そうだぞツバキ、“お姉さんの話あんま興味ないです”って、しっかり言ってやりな?」
銀髪の少女は、困ったように俺の顔を見上げてくる。
「……あの、先生。この人の話って、ちゃんと聞いておいた方がいいですか?」
「意外と太いわねこの子。本人の前で聞くことじゃないでしょ。なによツバキちゃん、もしかしてアオイの言いなり?」
「横暴だけど言ってることは正しいよ。正確に覚えていきなさい」
「分かりました」
ふーんと、モモはしらーっとした顔で俺の顔を見ている。
「記憶が無いわりに、ずいぶん私のことは分かってるみたいじゃない。本当は全部、覚えてるんじゃないの?」
「いえ。大事なことは手帳に書いてありました」
「へー? 私には、なんて?」
「モモ強い怖い暴力」
拳が飛んできて頭を傾けて避ける。俺たちは道の上を歩いていて、がちゃがちゃと背後で荷車が鳴っている。
「ま、確かに小さい子は、お話ばっかりじゃ退屈よね」
桃髪のお姉さんは、何がそんなに気に入ったのか、ずっと銀髪の少女にご執心のようである。
「ちょっと車を止めなさい。鍛えてあげるわ。武器を抜きなさい」
「ツバキ逃げろ!」
「ついでにあんたも」
「ツバキここは任せた!」
「へー、氷を纏わせるロッドね。面白い武器を使うじゃない」
「騎士王隊的には、合格ですか?」
「主装としては不十分ね。あなたは魔力が多いタイプじゃないでしょ? でも、いろんな武器を扱える、あなた自身の適正は高いわ」
草原の上、俺たちは武器を持って立っている。俺はギルドの直剣を、ツバキは銀色のロッドを、そして桃髪の女性は腰に騎士団の直剣を佩いている。
「モモさん、うちに回復魔法の使い手は居ないです」
彼女の目がちらとこちらを見る。
「まぁ、考慮してあげるわ」
モモが、練習用の木刀を構えた。構えに一切の揺らぎがない。俺はまた、それを目に焼き付ける。
「好きなだけ掛かって来なさい。二人同時にでいいわ。武器も“それ”でいい。あんたらが立てなくなったら終了よ」
足音が、俺の近くに近づいてくる。草を踏む音がやんで、その人は屈みこんだようだ。
「あんた、また何か抱え込んでるんじゃないでしょうね」
ぽんぽんと、裸の頭を叩かれる。
「……痛み」
「軽口は聞いてないわ」
はぁ、と、上から溜め息が聞こえる。
「困ったら私を呼びなさい」
「……」
「私じゃなくても、ちゃんとほかの“大人”を頼るのよ」
「……」
「あんたは無口だけど、言わないまま誰かに伝わるわけじゃないの。特に、周りに誰かが居ない時は……ねぇ聞いてる?」
「世界の危機の時はお願いします」
「あんたの危機の時もよ」
と、モモは、突然連絡器を取り出し、別れを告げてその場を今度こそ去っていった。
「ごしゅじんさまー……大丈夫ですかー……?」
荷台からネコが這い出、そろそろと俺の近くまで近寄ってきて、草原の上に倒れ伏した俺の頭を、ネコが顔を近づけて匂いを嗅いでいる。
「世界の……世界の果てまで逃げよう……」
「桃のお姉さんなら今帰っていきましたよ」
騎士王隊
対禍津鬼に特化した少数精鋭の戦闘集団。主に、朝/昼/夕/夜の四つの騎士団に分かれており、総勢100名程度の規模がある。その非常に危険な仕事から戦死者が多く出ていたが、最後の遠征任務以降、新しい死者は出ていない。




