第三十三話、甘い香り
森の中の道を歩いていくと、そのうちいくつもの道が合わさって、一本の道になっているところがある。その先に、道の両側を覆うように町が発展している。いわゆる、旅の宿場町というやつだ。
“通り道”に発展した町というだけあって、道幅は広く、また道は石畳が敷かれよく整備されている。道の中央を二列で車がゆっくりと行きかい、道の縁の方を歩く人たちが行きかっている。
俺たちは荷車を連れてゆっくりと道の中央を歩いている。後ろを見れば、ネコは荷物の上でのんきに寝ており、また、タヌキは幌の陰に隠れて恐る恐る町の様子を眺めている。
「いったん車を止めて、町を歩いてみる?」
俺が背後の荷車に声を掛けると、タヌキがこちらを向く。ゆるゆると首を横に振った。
「いいの?」
タヌキが手で小さく手招きをしていて、俺は歩みを緩めて荷車の隣に行き、耳を傾ける。
「このままでいいです」
「そっか」
まぁ、人の街を歩くには目立つ体だし、まずはそこからの景色がいいのかもしれない。俺は再び荷車の前に戻って、道の上を歩いていく。
「ごしゅじんさま! あれ! あれ買って来てください!」
起きてたんかい。振り返ると、ヒメトラが荷物の上で、小さい手を必死になって振っている。彼女の手が指す先には、八百屋? たくさんの並んだ木箱と、その中に詰められたいろいろな野菜、果物たち。
俺は謝りながら車を横断させ、道の端に車を止める。
「ごしゅじんさま! これ! これですよ!」
と、車から降りたネコは、ぺしぺしと箱の一つを叩いている。やめんか。
「おやぁ、ずいぶん可愛いお客さんが来たねぇ。いらっしゃい!」
「すみませーん、それ……ヒメトラ、いくつ欲しい?」
「ひとはこ!」
結構いくな……まぁ四人(?)居るし、消費し切れるだろう。俺はお金を払い、桃かスモモらしき果実の入った箱を一つ、買い上げる。持ち上げて車に乗せると、ヒメトラがさっそく一個箱の外に持ち出して、荷車の床の上でぺしゃぺしゃと食べ始めた。おい。汚れるだろ。俺はお皿を取り出し、果実をお皿の上に置きなおす。
「先生、私も食べていいか?」
食べ歩きは行儀が悪いが……まぁいいか。
「いいぞ」
「それはぜんぶヒメトラのです!」
「強欲だろ。お前四体分くらいの体積あるだろ。どれだけ食うつもりだよ」
「人の形態になったらもっと食えます!」
「ほんとに一人で全部食う気か……? まぁ、じゃあもうちょっと買ってあげるから、その果物はみんなで分けような」
「ヒメトラはふた箱も食べていいんですか!?」
「話聞いてた?」
二箱目を購入すると、さすがに結構な値段が飛んだ……。八百屋の店主は笑っていた。箱を二つ荷車に乗せて、俺たちは再び道の列に戻って、車を連れ歩く。隣で、ツバキが果実を手づかみで齧っており、後ろの荷台の中ではネコが、それからタヌキも両手でそれを掴んで座りながら、モモをくしゃくしゃと齧っている。こいつら桃好きだな。
「先生、皮美味しくない」
隣を見れば、ベーっと舌を出して、彼女が舌の上に乗せたべちゃべちゃの皮を見せてくる。そんなもの見せてくるな。俺はちり紙を取って来て、その中に皮を吐き出させる。手元と口も少し汁で汚れていたから、紙で拭いて、果実を紙で包んで持たせた。
「先生、種の部分固い。先生が食べて」
「そこ食べる想定じゃないよ。捨てろ」
甘い香りを漂わせ、荷車と二人は進んでいく。途中、何度か店を聞かれて、さっきの八百屋を指さした。




