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教科『異世界』の じかん だよ! ~武器と魔法とスキルを学んで、仲間と共に異世界を歩き、モンスターを倒し強くなれ!~  作者: 藍染クロム
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第二十八話、課題:一点集中

 翌日、俺たちは再び、螺旋をなす巨大な蔓の木の下にやって来ていた。


「先生、これどうするんですか?」


 小麦色の草原の上、巨大な植物が一つ際立って生えている。それは軽いビルやマンションくらいの大きさがある。一つの生き物とは思えないくらい巨大。幹から分岐して垂れている蔓の先には、すでに割れた後の緑色の網の籠が付いている。すべての籠はもう割れて中身が出ていて、俺たちが根元を歩いていてもモンスターが飛び出してくることはない。


「先生、正直まだ遊び足りないです。手持ちのモンスター素材埋めたら新しい実が生ったりしませんかね」


「こんなでかいモンスターに意図的に餌をあげるとどうなるか分からないからやめようね」


「もう終わりですか?」


「もう終わり……っていうか、ここからなんだけど」


 俺たちの目の前には、螺旋状に引き締まった緑色の蔓の幹がある。俺たちの荷車が二個並びそうなくらいの太さがある。


「ここまでやったし、出来れば本体を倒していきたいなって」


「倒す? これを? どうやってですか?」


「基本通りだと、コアの破壊、体を大きく損傷、あるいは継続的に損傷させる」


 ふーん、と、隣の銀髪の少女は聳え立つそれの頂上を見上げている。


「図体が大きいし、狙うのはコアの破壊ですか?」


「まぁそうなるけど、コアを破壊するにも、中のそれを抉り出すために大きな傷を、それこそ、この巨大な幹を切り倒すくらいの一撃が必要になってくる」


「それは、厳しいですね」


「そうだね。厳しいね」


「だから今、どうやって倒そうか考えてるんですか?」


「いや……」


 俺は目の前にそびえる巨大な幹を見ながら、ぼーっと答える。


「せっかくだし、ここで一撃の火力を鍛える練習をしていこうかなって」


「先生も遊んでるじゃないですか」



 俺は、地面から生える幹から少しだけ離れ、剣を構える。


 “一撃の威力”、それがここ最近の課題だった。先日見たクラゲは、俺の技の威力不足で撤退せざるを得なかった。もっと火力さえ出せていれば、あの道の近くに居た危険なクラゲも、俺の手で処理できていたのだ。


 高火力な手段が欲しい。


 俺が今持っている手札の中で高火力なのは、自身の魔力を消費して生成する“風の刃”の攻撃である。簡易的には手からも出せるが、威力を高める際には剣を薙ぎ払って生成している。


 俺は剣を鞘から抜き、正面に巨大な幹を見据えて両手で剣を構える。


 威力、威力とは何か。一つは総エネルギー量である。単純だ、でかい力ほど強い、大きな力ほどより破壊できる。しかし俺が生み出せるエネルギー量には、俺の筋力、あるいは俺の魔力量といった上限が課されている。筋力も魔力も、一日二日では爆増したりしない。


 だが、威力にはもう一つ種類がある。それは集中度である。鉄の棒で木の幹を叩くのと、斧で木の幹を叩くのとでは、得られる破壊力に大きな差がある。それはエネルギーが掛かる面積の集中度が違うから。

丸太では、太く、面のような接し方になるが、斧では細く、線のように集中して力が掛かる。より細く、より一点に集中させることで、同じエネルギー量でも得られる破壊力が違ってくる。


 じゃあ戻って、俺の技を強くするにはどうするか。俺の技を、消費するエネルギーはそのままに、強くするにはどうするか。“技の鋭さ”を極めればいい。生み出す風の刃を、より薄く、より鋭く、より滑らかに。


 練習方針としてはこんなものだ。目標は、向こうに見えている、ばかでかい緑の幹を切り倒せるくらい。分かりやすくていい。どれくらい掛かるかは知らないが、とりあえずやってみよう。


 俺は剣を構え、精神を集中させる。息を吐く。手の平の神経に意識を通わせる。


 振り抜いた。一筋の風の刃が生じて、剣からまっすぐ、巨大な緑の幹の方へと飛んでいく。さく、と幹の中に刃が入った。しかし貫通するには至らず、また、綺麗な断面はモンスターの再生力により綺麗に埋めなおされる。


 まだまだだ。研ぎ澄まされた包丁が、自重だけで落ちて食材を両断するように。よく磨いた刀に乗せられた紙が、音もなく切り落とされてしまうように。


 より鋭く、だ。俺は再び剣を構える。



 目の前で巨大な幹がずれ、音を立てて倒れていく。風が揺れて地面が震える。俺が両断した緑の幹の中には、滑らかな断面の赤いコアが埋まっていた。


 音を聞きつけ、背後の丘の上から誰かが降りてくる。辺りはもう暗くなっており、明かりを付けていなかったせいで、向こうから降りてくる人影の顔が見えない。


「先生! やったんですね!」


 「あぁ」と、声に出したつもりだったが、喉が掠れて声が出なかった。俺は手をこじ開けて剣を手放し、震える手で鞘の中に収めた。疲労が頭の中を曇らせる。俺はよろよろとその場に座り込んだ。そのまま流れで大の字に転がる。


 空には、薄く輝き始めた藤色の星空がある。風が火照った頬の熱を冷ましてくれる。裏の草が頭にちくちくと刺さっている。少し汗臭く、あと土臭い。


「せ、先生、大丈夫ですか?」


「あぁ……ちょっと、集中しすぎたかな……」


「水を飲みますか?」


 少女は水筒を手に取り、俺の口にあてがって飲ませてくれる。


「あぁ……ありがごぼぼぼぼぼ」



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