第二十七話、虹の実モンスター
小麦色の草原は俺たちの目の前を降りていく。風が吹いて草が波のように揺れていく。草原も青空も、遮るものがなくどこまでも続いている。
「でっか」
俺たちは丘の上に立っていた。斜面を降りていくと、その先の平地に巨大な植物が突き立っている。
「木の近くに近づくと、あの実の中から虹色のモンスターが出てくるから、まずはそれの処理を行おうか」
「あのでっかいのは?」
「まぁ、後々ね」
荷物は荷車の中に置いて、俺とツバキは装備を整え“虹の木”の近くにやってきた。
俺たちは草原の斜面を降りていく。遠くからでもでかいが、近づくほどにそのモンスターの巨大さが染み渡ってくる。
平地まで下りて、徐々に虹の木の方に近づいていくと、やがて、螺旋状に捻じれた幹から、垂れ下がった蔓の先、緑の網の籠が、くらくらと震え、揺れている。
「出てきそうですね」
俺たちは武器を抜いて構える。
やがて、緑の網籠が割れ、中から虹色のモンスターが落ちてきた。草原の上に危うげなく着地し、俺たちの方へと体を向けた。
虹のモンスターは、トマトやパプリカみたいに、表面が滑らかで瑞々しかった。美味しそうで、甘い匂いも目の前のそいつからしている。目や鼻などの細かい器官はなく、全体的に流線型をしている。そいつは、四肢の長いキツネのような形をしていた。
たんっと、軽くそいつは跳ねた。隣で重い音がして、ツバキが銀のロッドでキツネの突進を受け止めていた所だった。
「ツバキ!」
「やれます!」
ツバキはすぐさま身を引いて、ロッドを氷の槍に変化させ虹の獣へと突き出す。槍先は掠り、キツネはたん、たんと身軽に引いていった。
こいつ……体は脆そうだが相当フィジカルが強いな。
「いったん……私にやらせてください」
ツバキは氷の槍を構え、キツネと対峙している。俺は無言で数歩下がった。
またキツネが跳ねた、虹色の体は、跳躍して数メートルを一瞬で詰めてくる。
ツバキは氷の槍を構えていたが、キツネは直前で軌道を変え、槍先を避けてツバキの胴体に突っ込んだ。潜り込まれては為す術がなく、ツバキの体が後方にごろごろと転がる。銀のロッドを彼女は手放さなかった、彼女は素早く地面を立ち上がる。体には細かい草が付いている。
ツバキは、銀のロッドをさらに変形させる。今までは、ロッドの先に槍先が付いていた程度の装備だったが、今は氷がロッド全体を覆っていっている。槍先がさらに太く、大きく、全長も長くなる。そして、一回り大きい氷の槍が出来上がった。
キツネは何を考えてるのだろうか、ツバキの様子を離れた所から見ていたが、再び跳ねて詰めて来る。
ツバキが何もない所で槍を振るう、細かい氷の粒子が、ツバキの前方に撒き散らされる。あれは……まさか“領域化”? 虹の獣は構わず正面から突っ込んで来て、再びツバキが居るより少し手前で着地し、何度か方向を変えて再びツバキへと跳ねた。
ツバキは、今度はその動きを捉えていた。少女の振るった槍の切っ先が、キツネの側面を浅く引っ搔く。しかし引っ搔いただけでは終わらない、浅い傷から霜が広がり、傷を中心に氷が広がっていく。
キツネは跳ねて後ろに飛ぼうとしたが、足に氷が回って上手く跳ねられない。ツバキがそこを追撃する。長い槍先が、キツネの胸のあたりを貫いた。槍は深々と刺さり、また氷がそこからキツネの全体に広がっていく。
ツバキはロッドを抜き去り、先に鉈のような刃先を付け直し、キツネの首を横から殴った。凍り始めていたその体はボキと折れ、首が地面に落ちる。
しなしなと、虹色の果実の体が萎れていく。獣の体を凍らせていた氷も空気に溶けていく。草の上には、虹色のトマトのような果実がいくつかと、狐の尻尾のようなものが落ちている。
「おつかれ、ツバキ」
「先生! やれました! ひとりで!」
「よく動けてたねー、よくやった」
銀髪の少女は喜色の笑みを浮かべてこちらへと駆け寄ってくる。
ツバキの希望で、その後も虹色の果実のモンスターはツバキに任せて倒していった。木に実は12個見えていたが、その内7個はツバキが一つずつ倒した。残りの5個は同時に複数落ちてきて、ツバキの処理が間に合いそうになかったので俺が処理した。
日が暮れる頃には、虹の木に生っていたすべての実を処理し終わった。大量の成果を抱え、俺たちは荷車の方へと帰っていった。
「欲しいとは言いましたがこんなには要らないです」
ヒメトラが、布に包まれた大量の虹の果実を前にして、そう言った。
何もない吹きさらしの草原の丘の上、一つの荷車が置いてある。ここから向こうには、左右に続くか細い土の道が見えていて、そこからもう少し向こうに行くと地面がない。荒潮の音や潮の香りはここまで届いている、崖の下から向こうは全部海だ。
「まぁそう言わずに一つ食ってみろよ」
俺は果実の山から一つを手に取り、ヒメトラに放る。ヒメトラは危なげなく虹色の果実を手で取った。くんくんと、彼女は匂いを嗅いで、小さな口で果肉の一部を齧り取った。
「……」
ヒメトラは無言でもう一口、何度か齧って果実を味わっている。
「これおいしくないです」
「美味しくないことはないだろ。俺たちが頑張って取って来たんだぞ」
「あんま味しないです」
“虹の木”のモンスターが落とす虹の果実、俺たちも先に食べてみたが、味の薄いトマトみたいな味だった。考えてみれば、甘い匂いは獲物を引き寄せるためであって、果肉を食べてもらい種を運ぶ必要もないので、果肉が美味しい道理はない。
まぁ、果肉は瑞々しく、あと栄養も豊富とか言っていたので、運動後の水分補給には適している。モンスター産の食材は妙に長持ちするので、水の少ない所でも水分が取れて安心。現在地は、水を汲もうにも海水だし絶壁の下だ、飲用水を節約できる。
俺は隣のツチにも果実を投げて渡す、ツチは地面に落としたので拾って改めて渡す。ツチは、小さな両手でその果実を抱えて食べていた。美味しそうにも不味そうにもせずただ食べていた。
「まぁ煮込んでスープにでも使いますかね」
ヒメトラはそう言って手元の果実を食べ終わった。手が果実の汁でべたべた。紙を出して彼女の手を拭いた。俺たちは、果実を包んだ布を荷車に乗せた。




