第二十三話、拾いもの
草原の斜面を登っていくと、やがて景色は青い岩肌に変わる。その青い岩山の境目の麓に、丸く穴が開いている。草原の上を登って行った道は、どうやらその中へと続いていくようだ。
幌車の明かりを付けて、また俺たちも明かりを装備して、俺たちは洞窟の中へと続く道を進んでいく。
「なんかでこぼこしてますね」
洞窟内部の壁面は、山と同じ青い岩盤で出来ているが、その形がどうも妙だ。そう、例えるなら、アイスを丸く抉って取ったような、球体の丸い跡が、壁面にいくつも見えている。
「龍脈の影響だねー」
泡状洞窟。龍脈による影響で、ここら辺の地下には泡のような球状の空洞が多量に発生している。この洞窟も、そんな泡状の空洞を掘り繋げて作られたものだ。足元の道こそ歩きやすいよう平らに均されているが、壁にはそんな泡状の穴がいくらでも残っている。
「壁や地面の中に、こういう泡がいくらでもあるってことですよね? 危なくないんですか?」
すぐ隣を歩く銀髪の少女は、俺の顔を見上げてそう聞いてくる。
「岩が堅いから、崩落とかは大丈夫らしいよ。ただ、洞窟はめちゃくちゃに繋がったりしてるから、脇の穴とかに入っていくと大変だね」
「お宝とかありそうですね!」
今は起きてるのか、後ろの荷台から、ヒメトラも会話に参加してくる。
「確かに。ここに隠したら、滅多に見つからないだろうね」
壁のぼこぼこした洞窟は、狭く長く続いていく。
道はやがて広い空間に出た。こちらと向こうに穴があり、そこは巨大な空洞になっている。壁の形を見れば、この空洞も、大きさは違えど巨大な泡が連鎖して繋がっていることが分かる。道は、細く高く突き上がった石の橋の上を通って、向こう側の穴へと続いていく。
「……落ちたら大変そうですね」
道幅はしっかりあるが、道の脇に柵のような上等なものは付いていない。銀髪の少女がおそるおそる道の端に寄って、その天然の石の橋の下をのぞいている。
「ごしゅじんさま、モンスターの気配がします」
「わぁ」
面倒だなぁ。幌車が狙われたら守りづらい。俺は自身の領域を広げていく。
空洞は思ったよりも広く、また明かりもない地中の洞窟なので、モンスターがどこに潜んでいるかは分からない。石の橋は、幌車が通るにも十分な太さがあるが、さすがにその側面に立って戦えるほどの余裕はない。
俺たちは慎重に周囲を見渡し、そして石の橋の上を渡り始める。
ツバキが先頭を取り、間に幌車が入り、俺はその後ろから付いていく。操縦石はツバキが持っている。 俺は幌車の大きな背中に前方の視界をふさがれ、暗闇の空洞に屹立した白い石の橋を渡っていく。
最初の四分の一を過ぎ、半分を過ぎ、そして四分の三を過ぎた。俺は前方の視界を塞がれてはいるが、向こうの壁面が見えるから大体の距離は分かる。
やがて、幌車は、反対側にあった穴の入り口に入っていった。俺はホッとする。この車が底に落ちでもしたら面倒だったからな。
俺もその穴に入り、幌車の隣を追い越そうとした、その時だった。
「わっ!」
「にゃっ!」
素早い影が俺の隣を過ぎていった。
「ツバキ! ヒメトラ! 大丈夫か!」
俺が慌てて幌車の隣を追い越すと、二人は驚いた顔をしてそこに立っている。
「二人とも無事か?」
「いえ……通り過ぎて行っただけ、みたいです」
「ヒメトラは?」
彼女は驚いた顔で幌車の上に座っていたが、やがて何かに気づいたように慌てて周りの荷物を漁りだす。
「ない! ないです!」
「ど、どうした、何が無い?」
「ヒメトラのお宝がないです!」
お宝? あぁ、あの透明な蝋詰めの細工の瓶か。……そう言えば、今の影が何やらきらりと光るものを持っていた気がする。
「ご、ごしゅじんさま……」
それが周りに無くなったことに気づいたヒメトラは一転、泣きそうな顔でそこに佇む。暇さえあれば、ヒメトラはそれを眺めて楽しんでいた。適当に買ってあげたもの、旅先でのただの一品だが、彼女にとっては宝物だったのだろう。
「……二人はここで待ってろ。何かあったら、荷物は捨てて洞窟を抜けていい」
「……先生は?」
「ちょっと今のを追ってくるよ」
「ヒメトラも行きます!」
立ち上がった彼女を、俺は手で抑える。
「だめ」
「……でも」
「いいからここで待ってろ」
俺は二人を荷車に残し、再び巨大な空洞へと出てくる。




