第二十話、こっそり攻略
ツバキは、街に着いてからも休みなく迷宮に出ていたので休みにした。あの子にはまだ、世界を見て回る時間も必要だろう。今日はヒメトラと一緒に街を回ると言っていた。
じゃあ俺はと言うと、俺は今日もダンジョンの入口に来ている。
「おや、お兄さん。今日は、妹さんは?」
「今日はお休みですね。地図貰えますか?」
「いいっすよー、どちらになさいます?」
俺は地図を手に、一人、迷宮の内部へと潜っていく。
わざわざ一人で出てきたのには訳がある。ツバキにも「うーん? 俺ー? 俺ももちろん休むよー?」とか言ってきたし、ばれたらあいつは怒る。でも来た。ツバキと一緒だと深い階層まで、俺の実力ぎりぎりの所まで行けない。深い所まで行けないということは、ダンジョン内で出会えるレアな個体を見つけにくいということだ。
そう、今日の目的はダンジョン内の特殊個体と出会うことだった。せっかくなら、俺もそれを見てみたいし戦ってみたい。ダンジョン内部の敵の最大値は“6”、俺なら倒せる。ダンジョン内を歩いているという“骨の騎士”や、あるいは特殊な宝石で出来たレア宝石個体。上級個体のギアアーム。とにかく、ツバキと一緒だと見れなそうなレア個体だ、それを見つけたい。
俺は開拓されたルートを辿り、地図を片手にどんどん降りていく。途中の小粒は適当に倒せる。
階段を見つけて降りてを繰り返し、俺はダンジョン第八層まで降りて来た。今日は、実際の場の状況にもよるが、ツバキと行った六層をさらに降り、八層から十層あたりを見て回るつもりだった。
階段を下りた先には、明かりが乏しく暗い、四角い通路を、点々と壁に付いた明かりが照らして通路の連続性を教えてくれる。その間の暗闇に脇道があるかとか、明かりがなくなってどこが直線の行き止まりかとかは目視では分からない。ひんやりと冷たく重い空気が支配しており、風も少ない、八層の地下坑道。
肩にくっ付けた明かりが、暗い地下通路を照らしている。俺は“領域化”を使えるので視界以外の感知もあるが、見えるに越したことはない。
少し歩くと、明かりの下に一匹のハウンド型が出てきた。緑の透けた体、つまり“エメラルド”のイヌ型だ。“エメラルド”には“常時回復”の能力が備わっており、攻撃を与えてしばらくするとそのダメージが無くなっている。
俺は腰から剣を抜いて構えを取る、緑イヌは静かに地面に佇み俺を見ている。
動いた、牙を向けて飛び掛かってきたそいつを、俺は屈み、剣を絡めて後ろへと放り投げる。その空いた背中に風の刃を叩き込む。左の半身に浅く入った、イヌは素早くこちらに向き直り、継戦の構えだ。
今度は俺から切り掛かる、上段に構えて上から思いっきり剣を振り下ろす、剣が地面を叩いた、イヌは素早く地面を飛んで真横に避け、そのまま再び飛び掛かってくる。
俺は体を回してイヌの体を蹴り飛ばす、追従して剣を振り下ろす。重い一撃が入り、イヌの体が粉々に砕けた。
俺は剣を下ろして一息吐くと、どこからか足音がする。もう次か……いや、これが八層からの強度か。もっと早い頻度で今の動きの敵を処理していかないと、次が来てしまって数の処理に埋もれてしまう。
俺は足音のする方向に剣を構える。次はもっと手早くだ。素早く倒せば空きが出来、それが休憩時間になる。
俺は通路の暗闇の先に目を凝らして待つ。
敵を二十体ほど狩った。どれも、まだ“N”の“クリスタル”か、あって“R”の“ルビー”、“エメラルド”、“サファイア”のみ。モンスターのタイプも大体がハウンド型で、何度かコウモリやウサギなど別種も見かけた。稼ぎの時間当たりの効率はいいが、少し疲れるな。
俺は階段の途中で座って一息ついた。階段は、完全な安全地帯ではないが、ダンジョンのモンスターたちの徘徊ルートに、各階層を繋ぐ階段が入ってない。ここで息を潜めていれば新たなモンスターはやってこない。ダンジョンにおけるテクニックの一つだ。情報屋の人に教えてもらった。
敵は多いが、まだレア個体が見れていない。まぁ感覚がマヒしてきてるだけで、“R”の宝石もレアなのだが。しかしそれらはツバキと一緒でも見れる。今日は特殊個体を見に来たのだ。階層を下げるべきか……? 余裕はなくなるだろうが、多分十層の会敵頻度までなら、俺の処理能力でも間に合うだろう。二層上げればその分確率も上がる。
徘徊系の特殊個体は、開拓済みのマップで確認されているのは、“一番”の、十一層より下の階層に居るもののみだ。残りの、浅い階層で見つかったものはすでに倒されている。他は、偶然開拓済みのマップで湧いてるのを見つけるか、あるいはマップが開拓されてない新しいダンジョンを自分で開拓するか。
休みは今日一日だけであり、新しいマップを探索しつつモンスターを狩る暇はない。今日来ているのは俺一人であり、リスクを冒して十一層下の高難度に挑む気もない。
まぁ……いいか。とりあえず十層までレベルを上げて、何も見つからなかったらその時だ。俺は再び立ち上がり、休憩に使っていた階段を下に降りていく。
「おや、ずいぶん稼ぎましたねぇ」
俺は、宝石のミニチュアのどっさりと入った袋を受付へと出した。袋をひっくり返すと、トレイの上に、袋の中から大量の小さな宝石たちが流れ落ちてくる。
「……換金してください」
「分かりました。今確認いたしますので、少々お待ちください」
俺はトレイの上に広がった宝石の山を見下ろす。色は、透明か、緑、青、赤か。当たりは出なかった。
*
「ツバキ、街は楽しめたー?」
夕方ごろ、彼女らは宿に帰ってきた。扉を開けると、ツバキの姿が見える。下の扉の隙間からネコがするりと入ってきて、勝手に部屋の中を歩いていく。
「先生が居なかったので、楽しくなかったです」
「それなりに楽しめてはいましたよー」
と、背後で、椅子の上でゴロゴロと背中を擦り付けているネコが教えてくれる。
「先生が居たらもっと楽しかったです」
……もしかしたら、俺と一緒に居たら出来ないこともあるかと思って、今日は別々に動いたけれど、それは彼女にとってはあまり良くない思い付きだったかもしれない。
「じゃあ、また明日からは一緒だね」
俺が少女の頬に手を伸ばすと、銀髪の少女は俺のなすがままにされている。いつもは澄ました表情だが、今は少しばかり喜んでいる、気がする。
「その袋はー? 何買ってきたの?」
「下着です」
「ほなダメやないか」




