第十六話、カストラル中央街
カストラルの都市の中央辺りまでやって来た。辺りは夜で、湿った生ぬるい風が吹いている。周囲は、暗い街並みを町の街灯が点々と道を照らしている。
中央街の街並みは、中心に向かって凹んでいく。目の前の坂道は、まっすぐ俺の前を落ちていく。道の脇に等間隔に付いた街灯が、その行く先を教えてくれる。向こうには凹みの対岸があり、等高線の道に沿って小さく家々が並んでいるのが見えている。まるでクレーターのような町みたいだった。
「先生、部屋一つしか空いてませんでした」
と、幌車のそばで待っていると、銀髪の少女がそこの建物の扉から出てきた。
「……そっかぁ」
辺りはもう暗い、ここからほかの宿屋を探して、ほかに空きが見つかるどうか。知らない土地で土地勘もない。
「もう一緒の部屋でいいんじゃないですか? 毎回律儀に二つ借りなくても。大体野宿と一緒でしょう」
と、幌車の縁に座る茶色いネコがそう喋る。
「まぁペット相手には別に遠慮はしないけどさぁ」
「え? ちょっと! 私もちゃんとメスですよ! ちゃんとメス扱いしてください!」
「人間界では女の子とか女性とかって言うんだよー」
俺は、隣できょとんとしている銀髪の少女に目を向ける。
「……でもほら、やっぱりさ。年頃の女の子に一緒の部屋は、教育に悪いんじゃない?」
「自分がビビってるだけでしょ」
「ビビってない」
と、俺たちの会話を聞いて、ツバキはもじもじとそこでし始める。
「……確かに。一緒は、ちょっと恥ずかしいかもしれない……」
「ねー? 恥ずかしいよねぇー」
「寝返りするにも難しそうだし……」
「……ちょっと待って? ベッド一つ? 同じベッドでは寝ないからねー?」
と、隣で小さなネコが俺の顔を見上げて言ってくる。
「ごしゅじんさまが床ですよね」
「別にいいけどお前枕にするからな」
「どっちの形態になさいますか?」
「なんでちょっと乗り気なんだよ。ネコだしネコにもしないよ」
「先生、風呂場とトイレも一つだった」
「そこは同じタイミングで入ることないから別に一つでいいんだよ」
まぁ、ここで騒いでいてもしょうがないし、宿はまた明日別のを探せばいいか。俺は布類を敷いて床で寝ればいい。俺たちは幌車を裏の空き地に停め、宿屋の中へと入っていく。
「先生、かっぷるわりをすると、安くなるらしいぞ」
「大丈夫。先生が満額払うから」
「安くなるのに?」
ん? ちょっと待って? ここなんの宿? 普通の宿だよね? 外装も看板も受付も普通。入ってベッドにハートの枕とか置いてあったら別のを探そう。
「このわたしが、彼氏役をやってあげてもいいですよ」
俺の肩で小さな猫が言っている。
「じゃあ一緒にいる俺は何になるんだよ」
―ダンジョン、地上入り口
中央街は、クレーターのように、中心部に向かって地面が落ちていく構造になっている。どうやらここらは元は平地だったらしく、中央に“それ”が現れてから、地面が下へと徐々に凹んでいった。なお、“それ”が生み出す財はこの地に繁栄をもたらし、人が集まり、街は大きく発展していった。
「これが、“ダンジョン”の入り口ですか」
クレーターの底、そこだけ建物がなく土の露出した広場となっており、また広場の中心に“入口”がある。
何かの石のレンガが積みあがって出来た、地下へと続く入口。
それはまるで、どこかで作ったミニチュアをそのまま持ってきて、ぽんとそこに置いたような異質感があった。のぞけば、入り口から地下へと階段が伸びていく。なお、ここらの地下に空洞はない。この入り口の降りて行く先は、“ダンジョン”と呼ばれる異空間。
「こんにちはー。こちら、“クリスタル・ダンジョン”への入場料は、一人一日当たり一万ライトとなっておりますー。名前を記入していってくださいねー」
高いな……。まぁ中で稼げるらしいとは聞いているが。俺は若干顔をしかめつつ財布を取り出す。
「あなたは誰だ? そのお金は何に使うんだ?」
「おや、お嬢さんどうされましたか?」
「すまないが、私はここの仕組みに詳しくない。あなたが詐欺ではないかと疑っている」
「あはは、正直におっしゃいますねー」
お姉さんは笑みを崩さずツバキの質問に対応している。
「ここでいただく入場料は主に、内部で遭難した冒険者さんの救出のための費用や、ダンジョン周りの運営費、あるいは街の振興費だったりに使われますよー」
「振興費?」
「そう。例えば、お金を出してあなたたちが泊まる宿屋さんを増やしたり、美味しいご飯屋さんを呼んだり、町の道を整備したり」
ふむ、とツバキはそこで頷いている。
「なるほど、過ごしやすくしているのか。勉強になった。ありがとう」
「いえいえ、中での探索頑張ってくださいねー」
ちなみに、中で遭難した冒険者を救出したり、あるいは凄まじい成果を出したりすると、この入場料は一定期間免除されるらしい。
俺たちは、地上に突き出た暗い穴に入り、階段を下りて内部へと入っていく。




