第十五話、格付け
開き扉を押して中に入ると、カランコロンとドアベルが鳴る。暗い、酒臭い場所にそれはあった。
「あぁ? なんだお前、見ねぇ顔だな」
「おいおい、ずいぶん綺麗な顔の嬢ちゃん連れてやがる。ちょっとお前、こっち来てみろよ」
「俺の女に触るな」
「あぁすみません……いやなんだ、連れてる方もガキじゃねぇか。顔面の圧が強くてつい謝っちまったじゃねぇか」
「おいおい子供二人で観光か? ここはガキの来る場所じゃねーぞ?」
暇なのだろうか、酒臭いごろつきの男たちが次々と席から立ち上がり、わらわらと入り口近くの俺たちの周りへと集まってくる。
白い城塞の入り口を抜け、荒野の上に広がる町に着いた。早速仕事でも探そうと、町のギルドだという場所に行くと、そこは出張窓口というか、正規のギルドの建物ではなく、酒場と兼業で運営されている形態のギルドだった。
まぁ、とりあえず依頼を受ければ金は貰えるので、依頼を見に酒場にやって来たのだが。さっそく知らない人たちに囲まれてしまった。
「……俺たちは冒険者で、ここには依頼を探しに来た。邪魔なのでどいて欲しい」
と俺がそう言うと、周囲の皆さんから笑いが起こる。楽しんでいただけて何よりだ。
「そうかそうかぁ、お前らも冒険者かぁ。じゃあお依頼を受ける前に、ちょいと俺たちの方で“腕試し”、させて貰おうか」
「……腕試し?」
俺が聞き返すと、冒険者らしい格好をした男はにやりと笑う。
「そうさぁ。自分の実力も分からない子供が、間違って危ない依頼を受けちまったら危ないからなぁ」
「そうだ、とても危ない」
「……腕試しって? 何するんだ?」
「近くに闘技場がある。そこで、お前さんたちの実力を俺たちが見てあげよう」
別に暇じゃないんだけど……一銭にもならなそうだし。でもまぁ、ここのギルドにこいつらが居るということは、いつ来ても俺たちはこいつらに顔を合わせなければいけないということになる。実力を分かっていただいてもらった方が、後々動きやすくなるだろう。
俺の後ろには、背中に隠れて銀髪の少女が居る。俺は振り向いて、彼女の顔を確認した。俺はまた前に向き直る。
「戦うのは俺だけだ。あと、お前らの中で一番強いのはどいつだ? そいつと一戦だけだ」
俺は、とりあえず先頭の冒険者の男にそう言った。
「はっはー、いいのか? 手加減はできないぞ? 彼女の前でかっこ悪いとこ見せちゃってもいいのか?」
「昼間っから飲んでる暇なおじさんにこの俺が負けるわけないだろ」
「いいねぇ、威勢の良いガキは嫌いじゃない。この中で一番強いのは、この俺、カラットだ」
と、先頭のおじさんはそのまま名乗ってくる。
「二番だ。一番はこの俺だからな」
「……っふふ。じゃあ闘技場に行くか」
よっしゃ行くぞお前らー! と、お祭り騒ぎのように酒場の冒険者たちが一斉に付いてくる。
闘技場は近くにあった。勇者協会で見たコロシアムよりは一回り小さく、設備もぼろかったが、そこには同じ半球の結界が張られてある。
「せんせー! がんばれー!」
と、観客席に彼らが居る。少女はむさい男たちに囲まれて、一人俺の方へと声援を投げてくる。
「おうおう、頑張ってやらねーとなぁ、先生」
闘技場のグラウンドの上には、俺と彼の二人だけが立っている。対面に立つ、カラットと言ったか、冒険者の男はそう言ってくる。
「ルールは知ってるか? この中だと何でもあり、ひどい傷負ったら場外に出されて、出る時に傷は治ってる」
「ほかのルールは? 全部なしか?」
「まぁ、そうだな。じゃあ降参か場外に出すかのどっちかだ」
冒険者のおじさんは黒い、いかつい直剣を腰から引き抜いた。俺も剣を抜く。
「……得物は、そんなんでいいのか?」
「なんだ? 可愛いシールでも貼った方がいいか?」
俺の直剣はギルドの売店で買える汎用の直剣だ。銀化を施して丈夫になっている、とは言え、特殊な能力も何もない普通の剣。
俺の冗談に、彼はふっと笑いを漏らす。
「準備はいいか、ガキ」
「いつでもいいぞ、おじさん」
俺は魔力を体外に放出し、周囲にゆるく領域を作り出す。
「「決闘」」
カチャ、と、彼が黒い剣を顔の前に構えた。俺もまっすぐ直剣を構える。
砂埃が立つ、男の体が急激に大きくなる、男はこちらに距離を詰めて上段に剣を振り上げる。俺は広げた領域の感知で間合いは完全に把握している、一歩引いてそれを避けた、地面に剣が落ちる。
「合格だな、こりゃ」
屈んだ男が笑みを浮かべて、その鋭い双眸が俺の目を見ている。
次の瞬間、男は再び剣を振り上げ真横に切り込んでくる、俺は剣を上げてそれを受けた、重い衝撃、俺は体ごと軽く後ろに吹っ飛ぶ。
男の片手が剣から外れ、厚い手の平が俺に向けられた。
「“フレイム・ボルト”」
放たれる槍の火球、俺は軽く地面を小走りに着地し、そのまま剣で炎を切る。炎の球に鋭く風の刃が入り込み、風は炎を巻き込んでその形を乱した。熱い炎が風となって広がる、それは俺を包んで通過するが、耐えられないほどじゃない。
男はまた距離を詰めて、次手が来る。俺は剣を構えて、その突撃に鋭く切っ先を合わせる。
キィィィィンギギギギと、俺たちの剣が真正面で競り合う。
「ほら、お前からも来いよ」
俺は足を上げ、その胴体を蹴り飛ばした。重い、多少体が浮いた程度だった。
「足癖が悪いなぁ、ガキぃ!」
炎が巻き起こり、彼の剣を包んでいく。
「そろそろ準備運動は終わったかぁ!?」
「もうとっくに終わってるよ、おっさん!」
男が手の平を地面に付けた。
「“炎宴”」
まるで炎のタルトの上だった。俺たちの足場には炎が沸き立ち、遠く周囲を、盛り上がった円形の炎の壁が取り囲んでいる。足元の魔力が熱い。
「簡単に死んでくれるなよ、ガキィ!!」
彼の声に呼応して、炎はさらに沸き上がり上へと伸びていき、俺たちを取り囲む籠のように、全方位をすっぽりと包み込んだ。
「食らえ! “炎蛇”!」
炎の壁から一匹の炎の蛇が湧き出、それは俺へとまっすぐ迫ってくる。エネルギー量がでかい、太いし、避けづらい、さっきみたいに乱しても散らしきれない。なら―
「“晶壁”」
俺は地面から扇のように結晶柱を生やす、壁に当たって蛇の炎は扇に散った。
「一匹じゃねぇぞ!」
と、俺たちを取り囲む炎の壁から、次々と炎の蛇の頭が顔を出した。
「さぁ、さばき切れるかなぁ!」
四方八方から、一斉に炎の蛇が放たれた。俺は冷静に領域内の魔力をかき集める、風の刃が俺の周囲に渦を巻く。
「“旋風刃”」
風の刃が、俺を中心に弧を描いて加速する、瞬間的に小さな竜巻が俺の周囲を包む。風の刃の壁は、突っ込んで来た炎の蛇をことごとく散らしていった。炎の残滓が俺の周囲に漂い、息をするのも苦しくなってくる。
「それじゃあ最後だ!! 行くぞ!!」
と、向こうの男は剣を構えた。彼の剣には、練りに練られた高温の魔力の炎が宿っている、それを、彼は後ろに構える。
「“開拓の剣”!!」
彼の剣が振り抜かれた。巨大な炎の剣が現れ、それは俺へと降りてくる。
俺は静かに剣を構えた。警戒しすぎたかな。
「“風刃”」
剣を振り払い、飛んだ一筋の風の刃が男の喉を切り裂く。男の体が先に揺らぎ、視界から居なくなった。
俺の体へと、残った炎の斬撃が飛んでくる。一応、結晶柱を出したが、それは溶けて消え、炎は俺の体へと到達し―
気が付けば、俺の体は闘技場の外へと出ている。
「……よぉ、一番」
先に隣に居た男は、悔しそうに顔を歪めつつ、笑みを浮かべて俺に手を挙げた。
「あぁ? 稼げる仕事ぉ? じゃあ中央行け中央! 今なら、こんな変びな町で依頼取るより、都市の中央まで行ってダンジョンで暴れた方がよっぽど稼げるだろ!」
「……ダンジョン?」
「知らねーのか? お前らはダンジョン目当てに、このカストラルに来たんじゃないのか?」
勝負の後、俺たちは酒場に戻って一つのテーブルに座り、飲み物を飲んでいる。俺のはノンアル。
「町ン中に、ある日突然入り口が出来てよ、階段を下って行って、そこにはくそでけぇ地下迷宮が広がってんだ。おもしれーことに、中には特殊なモンスターが居て、そいつらを倒すと特殊なドロップ品が手に入る。まぁ行ってみりゃ分かるさ!」
城塞都市カストラルの外れの町の冒険者
壁近くの町にある、酒場の出張ギルドの冒険者たち。モンスターの相手よりも、町中での力仕事などをこなしていることが多い。依頼がない時は酒場で集まってだらけており、外からよそ者が来るとみんなで歓迎(そのままの意味)する。




