第十三話、山中の変 ーIII
「終わったぞー」
俺は森の彼方へと声を掛ける。
返事が、帰ってこなかった。
「……ツバキ?」
普通に考えれば、森の上、道の先に置いてある荷車へと彼女は向かったはずだ。俺が斜面を登っていく道を見ていると、足音が下りてくる。
「いやぁ、みごとみごと。おにーさんお強いねー」
降りて来たのは、少年の姿をした何かだった。白いドレスに身を包んだ少年が、坂の上の道から歩いて降りてくる。
「……誰だ」
少年は土の道の上を歩いてきて、そこで立ち止まる。率直に言えば、ふわふわと瀟洒な格好をした少年だった。顔や声を隠せば、少女と間違ったかもしれない。
「おにーさん、“鍵”を持ってない? オレはそれが欲しいんだけど」
「……すまないが、戦闘の後だ。まずは仲間の安全を確認しなくちゃいけない」
俺は少年を無視して脇を歩いていく。
「へぇ、仲間って、あの銀髪の女の子?」
俺は少年の顔を見る。
「あの子なら、オレが隠しちゃった。返して欲しけりゃ―」
俺は剣を抜いてそいつの首元に切り掛かる、奴の手の平が俺の体へと向けられた。
「“貫け”!」
不可視の、棘のような衝撃が俺の体を過ぎていった。俺は衝撃に耐えきれず膝と手を地面に着く。
「はっはー! 雑魚が! あの子を返して欲しければ、お前の持ってる“鍵”を」
少年の体が背後に吹っ飛ぶ、地面から生えた太い結晶柱が少年の胸部を打った。
「はっ、こんなちゃちな攻撃―」
俺は少年の体へと飛び掛かり、胸に膝を乗せて地面に押し倒す。俺の手の中に三つの刃が生まれ出る。少年は地面に倒れ、俺はその上に乗りかかっている。
俺は手の平を少年の顔へと振り下ろした。奴の頭の、右と、左と、頭の上に、深く鋭い跡が刻まれる。
「次は喉だ」
俺は少年の首へと手を向けた。
「銀髪の少女の行方を言え」
少年は引きつった笑みを浮かべ、両手をよろよろと上にあげた。
少年の案内で森を歩いていくと、森の中に小さく開けた広場があって、そこの切り株の上に二人は座っていた。
「あ、先生」
「ごしゅじんさま」
切り株の上に座った、片方は銀髪の少女、胸元には茶色い小さなトラが抱えられている。
「な? ちゃんと無事だったろ?」
と、案内を務めた少年が軽い調子で言ってくる。俺は抜いた剣を鞘に収めた。
切り株の上、座っていたのは、こいつの双子だろうか、そっちは少女、髪の長い女の子だ。表情はピクリとも動かず、人形のように佇んでそこに座っている。おそらく少年のそれは彼女を真似たものだろう、少年と少女は同じ、白いふわふわのドレスを着ていた。
「ごしゅじんさま! 知らない渦に飲み込まれて、気が付いたらここに!」
ヒメトラは、ツバキの胸でわちゃわちゃと暴れている。元気そうだった。
「オレとそいつは、それぞれ“渦”を生み出せる。オレは“吸収”の渦、そいつは“放出”の渦。オレが吸い込んだものは、そいつの近くから出てくるって訳だ」
「ツバキ、怪我はないか?」
俺は銀髪の少女の元に近寄り、屈む。
「せ、先生こそ……あのタコはどうなった?」
「あれは倒した。お前の体は何ともないか?」
「私は何もない。先生が守ってくれたし……この子と、そいつにも、何か危害を加えられたわけじゃない」
「だからそいつには何もしてねぇって」
俺は少女の体を見て確かめ、また、軽く服の上から触って確認する。なんとも無さそうだった。俺は少女の体から離れる。俺の方は、そう言えば体の服の上から汚れが付いたままだった。さっきの痛みも体に残ってある。
「……タコのドロップと荷車が放置してある。話は、それらを回収した後だ」




