第十三話、山中の変
俺たちは開けた場所に出た。それは道の脇に逸れて、山を登って行った先の頂上にあった。
木が、幹からへし折られている。落雷や樹齢による倒木など、それは自然が原因によるものではなく、乱暴に、強い力を加えられて、まだ青々とした木々が腰の辺りで折られ、葉っぱの付いたままの青い木の亡骸がいくつも横たわっている。
「……先生、これは」
「近いね。やられてから、まだそんなに時間が経ってない」
小さなトラを抱えた銀髪の少女は、注意深く周りを見渡している。
「……探しますか?」
「どうだろうね。遭ったら、俺でも無事じゃ済まないかも」
これだけの破壊力を持つ相手だ。危険度も高い。
「……」
「ここら辺の山を抜けるまで、注意して進もうか。出会ったなら……その時だ」
山の中、落葉樹の下を道は続いていく。地面は落ち葉だらけ、日の光は木々に遮られて届かない、暗い青空の下。風が吹いて、森全体がざわめいている。
土を踏む足音は二人分、背後には、幌の付いた荷車が、引き手も居ないのに俺たちの後ろを走って付いて来ている。森の中の道は走りにくく、たまに石を噛んで荷台が軽く跳ねている。荷物に紛れてネコが寝ている。
近くに渓流が流れており、道は水の音に近づいたり、離れたりしながらも山の中を進んでいく。
「ごしゅじんさま、モンスターです」
いつの間にかネコが起きていた。俺たちは立ち止まり、荷物の上で、ネコは鋭くどこか一点を見つめている。
「でかいですよ、大きいのが一体」
俺たちは森の中を見渡しても、その姿を見つけることが出来ない。ただ揺れる木々があるだけだ。ヒメトラが指しているのは道から逸れた、森の向こうだった。
「近づいては、来てないのか?」
「来てませんね」
どうするか、迂回するか見つけに行くか。正直、こんな変びな道の近くにいるモンスターなんて、放っておいても害はない。
「見に行くだけ行きませんか?」
と、銀髪の少女はロッドを手に、俺にそう話しかけてくる。相変わらず好戦的だ。
「まぁ、様子を見るだけならな」
そいつは、渓流が作る滝壺の、広い川のプールの中に居た。
「でかい……タコ、ですね」
巨大な赤い、タコのモンスター、軽く軽トラックぐらいの大きさがある。木々の木漏れ日に紛れて、そいつは滝つぼの中に佇んでいた。茂みから隠れて見ていれば、今も奴の触手が軽く川の上をうごめいている。
触手の一本は太く力強く、彼女の細い腕なんか締められたら簡単に折られてしまうかもしれない。危険度が高いモンスター。人里の近くに出てくれば、まず間違いなく討伐依頼が出るだろう。
「……やりますか?」
「無理じゃない? 俺とツバキじゃ」
「……先生でも無理そうですか?」
まぁ無理か無理じゃないかで言えば、倒せはするだろうけど。運が悪けりゃ負けるか死ぬかする。あと、倒す必要はない相手。
「近くに人里もないし、ここだと挑戦した時のリスクがでかい。今回は避けて行こう」
俺が彼女にそう言うと、ツバキは少々不服そうな顔をしていたが、黙って頷いた。
再び道の上に戻り、しばらく歩いていた所で、それが起きた。
「……ごしゅじんさま」
「モンスターだね」
くねくねと道は曲がりながら山の中を進んでいく。ここからはまた下りになり、多少先の道まで見通すことができた。その先にモンスター、と言うか、さっきのでかいタコが居る。何を思ってそこに居るかは知らないが、道の上に佇んで、そこからじっと動かないでいる。
道は一本道で迂回するルートはない。幌車を抱えたまま、道から逸れて進んでいくことは困難だ。道を進んでいけばあのモンスターに当たり、幌車に手を出されたら壊される可能性がある。
「……先生」
「……対処するしかないか」
俺は腰元の剣の柄に手を触れる。
「私も行きます」
「危ないからダメ」
「私も行きます」
聞き分けの悪い生徒だった。俺は溜め息を吐く。
「ヒメトラは荷車に残ってて。危なかったら捨てて逃げていいよ」
「もちろんです」
俺たちは、斜面の道を降りていく。
降りた先には、道の近くにまた渓流が流れていた。巨大なそのタコは、川を辿ってこっちまで移動して来たのだろうか。俺たちがある程度近づいたところで、そのタコの目が俺たちを向いた。
「よぉデカブツ。足を切り落とされたくなけりゃ、尻尾巻いて今すぐ逃げな」




