第十二話、魔導の探求2
“結晶”の属性を習得した。“水”以外の五大属性と“引力”についてはすでに習得していたので、俺の六つ目の習得属性となる。
また、“結晶”と“氷”を複合させた魔法の形が、出来上がってきた。
すぐそばで流れる水の音が聞こえている。俺は、渓流をなす段々の岩の一つに座っている。隣では、滝とも言えない小さな段差を、川の水が落ちて砕けていく。
俺は、手の平で“結晶”の塊を生み出す。虹色の鮮やかな、濃い暗い色の結晶の塊。
これは、魔力に対して嵩が大きく、少ない魔力でも簡単に大きな構造物を作ることができる。一方で、“結晶”の塊はもろく、また時間が経つとすぐに自壊していく。大きいものでは柱状を作るが、いくつかの多面体を使い分けて作ることが出来る。
俺はこの“結晶”を、“氷”の魔法を重ねて掛けることで、コスパの良い盾が作れないかと思いついた。しかし始めはそう上手くは行かなかった。二つの異なる属性の魔法を立て続けに掛けるという、操作の難度もそうだが、“結晶”の塊に“氷”の魔法を掛けると何もしないうちから割れてしまう。
これは、“氷”の魔法により結晶体の一部が収縮し、その他の部分との間に体積の差が生まれてしまうからだ。ものを冷やすと縮み、硬くなる。例えば、十センチの太さの結晶柱を用意したとして、それを右半分だけ冷やして九センチの太さになったとする。温度の伝わりが遅ければ、左半分は十センチの太さのままだ、その大きさの違いに耐え切れず、結晶柱は冷やされた右と左で割れてしまう。
これが、おそらく“氷”で結晶が割れてしまう理屈。解決方法としては、全体を均一にむらなく冷やしていけばいい。しかしそれは簡単な操作じゃない。熟練の使い手ならともかく、付け焼刃の俺の“氷”の魔法は、大きな結晶を、俺に近い側から、表面から少しずつ冷やしていっていた。
であれば、全体を均一に冷やせるように、俺の“氷”の魔法の練度を上げるか? しかし、これは実戦中に咄嗟に生み出すことを想定している魔法だ。作品を作り上げるならともかく、戦闘中にそんな丁寧な操作を求められたくない。
だから、俺はヒビが入ること自体には気にしないことにした。
ツバキとひたすらもぐら叩きをしているうちに、俺の“氷”と“結晶”の魔法の練度は多少上がっている。俺は作り上げた結晶の内部に大まかにいくもの点を均等に配置、その各点から“氷”の魔法で結晶を冷やしていく。するとどうだ、結晶はそれぞれの点に向かって収縮し、それぞれの点を中心とする、ボールのような多面体に分かれて割れていく。このボールは中心ほど冷えていて硬い。
大きな結晶は、いくつもの小さなボールの結晶に割れる。この時、互いの結晶の隙間には面上の薄い隙間が空く。この間を“氷”の結晶で埋める。
最終的に、“氷”と“結晶”を複合して作った塊は、立体的なハチの巣の構造、あるいはスポンジのような構造の“氷”の結晶と、その間に入ったボール状の“結晶”によって構成される。このスポンジ構造の“氷”には、弾力性があり、敵の攻撃を吸収しながら受け止める。また、内部に入ったボール状のいくつもの“結晶”は、“氷”の魔法を重ねて掛けられ多少強度を持ち、それぞれを砕くのにそこそこの力が要る。
こうして、“氷”と“結晶”の複合の、コスパと強度と体積のいいとこ取りをした結晶の壁を生み出せるようになった。
ポイントは、多少乱雑な操作になっても問題ないということ。段階としては、“結晶”を生み出す、“氷”で“結晶”を収縮アンド硬化、入ったヒビを“氷”で埋めるというものだ。精度を高めた方が強度は高くなるが、多少適当にやっても同じような効果が出せる。結晶内部に配置する冷やす点も、おそらく最強なのは六方最密構造なのだろうが、俺はそこまで綺麗に配置してない。
気が付けば、俺の手の中に乗せていた“結晶”は、砕けて無くなっていた。もう一度“結晶”を生み出し、“氷”の魔法で冷却すると、“結晶”にぴきぴきとヒビが入っていく。俺はヒビを埋めつつ、全体を氷で覆う。
石を上げて中をのぞけば、石の中には蜘蛛の巣のようにヒビが入り、それぞれの面で光が乱雑に反射している。濃い、暗い虹色の透明の結晶と、隙間を継いで埋める青白い氷の結晶。こうして見ると、何かの生き物の体みたいだ。
俺は手元からそれを岩の上に落とし、上から剣の柄でゴンと叩いた。多少の弾力で剣がはね返される。次に、剣を抜いて刃を下ろすと、多少の抵抗があり、刃はいくつかのボールの結晶と氷のスポンジを砕いて、結晶の真ん中くらいで刃が止まった。
強度は十分、少なくとも、今まで何もせずに壊れていたような飴の壁ではなくなった。これ以上の強度を求めるとなると、それは消費魔力を増やして全体が“氷”で構成された壁を作ればいいだけなので、もう考えなくていい。
原理は出来たので、後は、出来るだけ素早く、高精度に、自分を遮るような大きさの結晶で発動できるようになること。
つまり、またも反復練習である。練習のために使う魔力代替の魔石も、無限にあるわけではなく、それが尽きれば自前の魔力で練習するしかない。魔力は消耗するほど精神が疲弊する。正直あんまりやりたくはないが……。
思い付きを形にするためだ。最後までやろう。俺は岩の上での休憩をやめて再び立ち上がり、川原で壁を作る練習に戻っていく。




