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教科『異世界』の じかん だよ! ~武器と魔法とスキルを学んで、仲間と共に異世界を歩き、モンスターを倒し強くなれ!~  作者: 藍染クロム
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第十一話、魔導の探求

「先生、それは何を読んでいるんだ?」


 山の中の小さな広場。視界中に茂った木々が広がっており、それぞれが目いっぱいに広げた枝と葉っぱが天井を覆っていて、白い空はほとんど見えない。風にそよそよと天井が揺れている。


 俺が荷車の中で背中を預けて本を読んでいると、そこら辺を散策していたツバキが戻ってきて、荷車の中の俺を見下ろしてくる。


「魔導について書かれた本だよ。お勉強。これは特に、属性ごとの原理的な性質とかの―」


 と、俺が本の説明を続けようとすると、彼女はわずかに眉をしかめる。


「……先生。そんな事より体を動かそう。また、棒を持って、私と相手して欲しい」


 ツバキは、こういうお勉強が嫌いか……。


「へぇ、“そんなこと”って? この本が?」


「……」


「知見を広めるのは大事だよ、ツバキ」


「……そんなものが、何の役に立つんだ?」


「ちょうどいいね。本を読んでいて思い付いたことがあったんだ。早速試してみよう」



 港町から伸びる道は、海を遠ざかり、連山地帯の山の中に入っていった。そこかしこに大小さまざまな小山が盛り上がってあり、道はその中を上下左右に複雑に、くねくねと曲がり曲がって進んでいく。視界は覆う木々のせいでかなり悪く、先も見通しづらい。目隠しして道を逸れて走っていったら、もう道のある所に戻ってこれるか怪しい。


 山中を進む森の中、涼しい音が聞こえて、幌車を置いて来てみれば、そこには渓流がある。


 地形の窪みに岩が並び、その間を透明な清水が流れていく。川は、右手の高い方から、左の低い方へ。川に沿って少しだけ森の天井に切れ目が出来ている。


「各属性には、原理となる“性質”みたいなものがあるらしいんだよ」


 俺たちは川原の脇に立っている。銀髪の少女は俺の隣で、静かに俺の話を聞いている。


「たとえば“風”の属性は、正確には“風”ではなく“流れ”という属性。“水”は“留まる”、“わだかまる”といった性質をつかさどる属性、“炎”は燃える炎じゃなくて、“加熱する”、“活発化”、“活性化”するという属性。“大自然系”の各種の属性は、それぞれわかりやすい自然現象の名前が付いてるけど、実際はもっと概念的な力ってわけ」


「それって今読んだばかりの知識ですよね」


「そうだね。おとなしく聞こうね」


 俺の手元には、こないだ買ったばかりの、虹色を帯びた暗い、金属製の小型の杖が握られている。


「そして、ツバキの“氷”には本来、氷じゃなくて“凍て付く”、“固める”といった性質があるんだ」


「……それが、なんですか?」


 俺の手のもう片方には、青白い大ぶりの魔石が握られている。


「俺たちがこの前買った“導器”では、結晶を生成する魔法が使えた。その結晶は、壊れやすいし、すぐに自壊しちゃう脆いものだったけど、一方で同じ量の魔力で作れる“氷”の結晶と比べると、格段に体積が大きいものだった」


「量より質です。いくらたくさん作れても、役に立たなかったら意味がないです」


「それ単体では、そうだね」


 俺は杖を振り、目の前に結晶の壁を呼び出した。それはガラス、いや、あるいは飴のような軽くて脆い結晶。鮮やかな虹色を帯びた透明な柱の結晶が地面から生え、俺の体を隠すぐらいの大きな壁を作って見せる。


 俺が思いっきり足で蹴ると、結晶の真ん中からひびが入り、そして後は時間経過の自壊で、ぱちぱちと爆ぜて砕けていく。


「これが通常の“結晶”」


「もう見ました」


「じゃあ次行くよ」


 次行くよ、と言っても、今初めてやってみるので成功するかは分からない。


 俺は再び目の前に結晶の壁を呼び出し、すぐさまもう片方の手を突き出して、それに“氷”の魔法を重ねて掛けた。


 これは複合魔法という技術だ。複合魔法は、まぁ別に説明するほどのものではないが、同時に二つ以上の“属性”の魔法を発動、あるいは一点に異なる属性の魔法を重ねて掛けるもの。


 複合魔法は通常より結果の操作が難しいので、中級者、上級者向けの技術。俺だって、道具の補助なしに、同時に二つの属性を使うことはまだ出来ていない。ちなみに、一つの魔法に複数の属性を込める“双属性魔法”とは別物。


 虹色の、扇状に柱が密集して出来た結晶の壁が、俺の手の魔石から“氷”の魔法を掛けられ、ひんやりと冷気を帯びていく。


 ぴき、と、俺が魔法を掛けた箇所から、まだ自壊の時間でもないのに、ひびが入り、それはクモの巣のように広がっていく。


「と、このように。“固める”という性質をもった“氷”の魔法を重ねて使えば、“結晶”で作ったもろい壁も、強固なものにできるってわけだ」


 ツバキが無言で扇の壁に歩いていき、そのヒビの中心にロッドを突き刺すと、簡単にぼろりと穴が開く。


「理論上はね。俺の技術が未熟で、まだ出来てないけどね」


「先生、得意でもない分野に顔を突っ込んで、得意げに振る舞うのはやめませんか?」


「別にいいだろ。試して成功するかもしれないんだよ。それに、まだ完成してないし、この技術。結論を出すのはまだ早い」


 ツバキは、ぼーっと、ぱちぱちと崩れていくその虹の壁を見下ろしている。


「使えるようになれば、使えるんですか? それは」


「任意で、見た目がそんなに変わらない、強度と魔力消費が異なる壁が作れたら、たとえば軽い壁を乱立させて、その中に重い壁を混ぜたら、相手からしたらどれが重い壁だか分からない。つまり軽い魔力でブラフの壁が作れる」


「先生が考えることって、こすいことばっかりですよね」


「効率的で機能的と言いたまえ。有効だったらなんでもいいんだ」


 まぁ多分、魔力濃度を目で見れる竜視持ちのモンスター相手には、もしかしたら使えない技術かも。どっちかというと竜視を持たない対人寄りの技術にはなるかな。まぁブラフの使い方じゃなくても、コスパのいい壁を“結晶”と“氷”で作れるようになったらそれでも使える。


「ってことで、俺はしばらくここで、今の魔法を練習してみるよ」


「私は?」


「自由にしたまえ。幌車は停めることになるから、その辺でなんかしてていいよ」


 ツバキは、不服そうに俺の顔を見上げている。


「……荷台から、燃料用の魔石持ってきますか?」


「お、手伝ってくれるの?」


「私は槍の練習します。先生が作った壁を片端から破壊していきます」


「そりゃ練習になっていいね」


 俺たちは水の流れる音、葉っぱの擦れる音に包まれながら、川のほとりで魔法と武器の練習をした。壁を壊していくツバキは楽しそうだった。



複合魔法

 一度に複数の、あるいは一点に複数の属性を重ねて掛ける魔法の技術の一種。特に、同時に複数の属性の魔力を操り魔法を出すのは、人間の脳においては至難の業。逆に魔道具なんかでは簡単に実現できる。


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