第十話、その場しのぎの手段
「宝石魔法のお店、ですか?」
幌車は俺たちを乗せ、目的地に向けて道の上をガタガタと走っていく。隣で、少女の銀髪が風にたなびいている。車輪が石を噛んで跳ねるたびに、小さなネコの体が荷車の上で跳ねる。
「探したら、最寄りの店が結構近くにあるらしくてね。せっかくだし、行ってみようかって」
「私はいいですけど、急にどうしたんですか? ごしゅじんさまは、魔法使いを目指すんですか?」
荷台の上の荷物の上に捕まった、小さな茶色のトラから声がしている。
「むしろその“逆”だよ。“宝石魔法”は、魔法を使わないために欲しいんだ」
「はぁ。そうですか。お金は大丈夫なんですか?」
「……」
「なんか浪費してましたよね。私には内緒で」
内緒じゃないし。そっちが寝てただけだし。
「むしろその“逆”だよ。お金があったら働かないからね。お金を稼ぐため、お金を得るために消費したんだ」
「無駄遣いでしたよね?」
「無駄遣いでなかったよ」
幌車に乗って進めば道中は加速して、やがて次の港町へ着いた。宿場町、という奴だろうか、それは辺鄙な大陸の縁にポツンとあって、大して規模も大きくなかったが、そこは陸路と海路の交差点に位置している。町に入れば、中はそれなりに栄えている。
俺たちの歩く大通りの両隣には、黒い木材で建てられた家屋が並んでいる。行商や旅人だろうか、おそらくこの町でない人々が頻繁に行き交い、通りは人混みでにぎわっている。
「先生、“宝石魔法”ってのはなんだ?」
「“宝石魔法”はねー。まぁ実態はほぼスキル石と一緒かな。“魔力を流すと特定の魔法が発動するように、内部に魔導の回路が内蔵された魔石”。それが、いわゆる“魔導宝石”ってやつ。“宝石”は人造だけどね。ほら、この前、魚の群れに逢って痛い目見たでしょ? 俺も剣士でツバキも槍だし、どっちも大群の敵の対処は厳しくて、だから、範囲系の攻撃魔法でも取っといたら楽かなって」
「先生は、強くなるために道具に頼るのか?」
ツバキは真面目だからか、そんなことを聞いてくる。
「どうでもいいとこは楽していいんだよ、ツバキ。俺は魔法使いになりたいわけじゃない。かと言って、弱点を克服する前に、その弱点を突いてくる強敵が現れないとも限らない。だから、その場限りの道具でいったん弱点を埋める。いったんね。そして、後でゆっくり自分でその弱点を埋めていく。言ったでしょ? 補助輪は大事」
「……“補助輪”?」
「……あぁえっと、習得するまでの間の補助道具、みたいなものね」
多分、スキル石やその他の力の中にも、範囲系の攻撃手段はあるのだろうが、今回俺がこっちに目を付けたのは、それに頼りすぎないためだ。俺は俺のやりたい動き、伸ばしたい場所があり、それを邪魔しないための補完が欲しかった。それが便利すぎるとダメなのだ。今回選んだ“宝石魔法”は、魔力を消費するし俺の魔力量はそう多くない、自然とそれに頼りすぎる選択は俺は選ばない。習得も(お金を出せば)楽だ。
「お金あるんですかごしゅじんさま」
と、俺の頭の上に乗ったネコが聞いてくる。モンスター用のタグは付いてはいるが、人語を発するネコに、通りの行きかう人々が振り向いて俺の頭の上を見る。
「今日は見るだけだよ見るだけ。欲しいものがあったら稼いでくればいい」
そんなにしないかもしれないし。と、頭の上から冷めた声が降ってくる。
「お金のためにモンスターを狩るようだとそのうち身を滅ぼしますよ」
「いやいや、依頼とかを通してね? 人々の需要に応えてね?」
と、目当ての店が見えた。俺たちはガラス戸を開け、中に入っていく。
「いらっしゃいませー。お目当ての“宝石”などはございますでしょうかー?」
“宝石魔法”。“宝石”の内部には人工の魔導回路が内蔵されており、魔力を流すと特定の属性、威力、規模、形状など、“宝石”ごとに固有の魔法を放つことが出来る。
メリットは、何よりその手軽さ。魔力を流すだけで簡単に欲しい魔法を発動できる、そこに習得の手間も練度も必要ない。デメリットは、魔力操作や属性の習得など、魔法自体の練度が上がりにくい点だ。
俺は店で一つの石を購入した。五万くらいで買えて、意外と安めだった。……若干金銭感覚がマヒしてきているが、まぁ命を預ける道具だ、安いものはあっても高いものはない。
「結局なに買ったんですか?」
と、店先で待っていたネコは、俺の体を再びよじ登り聞いてくる。
「ちょうどいいし、町の外で試用して来ようか」
俺たちは町の中を出て、道を歩いて脇に逸れる。そこにはちょうど良く海があり、海には何もない。遠慮なくぶっ放せる。
手元には、赤と黒の入り混じった複雑な大粒の魔石。それは一般にみられるものとは違い、カッティングが為されていて、一目で人工のものだと分かる。中をのぞけば、複雑に色が混じり、また中には金色の線のようなものが見える。
俺はそれを握りしめ、石の上面を向こう側に向けた。俺は“宝石”の中に魔力を流し込んでいく、それは内部にぐるぐると渦巻いて石が光る、石の内部に複雑な回路が浮かび上がる。
「“ショット”!」
規模は流した魔力により増減、威力は規模に比例、方向は魔石の上面を向けた先、弾速は固定、起爆は任意。石の上の面から赤黒い光が放たれ、放物線を描いて宙を飛んでいく。
「“バースト”!」
俺の操作に、放った光弾は大きな球状に展開、赤い透明な球体がそこに広がる。まるでゲームの爆破予告円のようだ。間もなく爆発、広がった球体の内部に複数の爆発が連鎖して起こる。花火みたい。
「うん。大体欲しい感じになってるかな。範囲を巻き込む攻撃魔法。起爆までちょっとラグがあるか。当てるのにコツが要るね。魔力消費に対する威力はまぁ、実戦で見るしかないかな。足りなければ、魔石を燃料に発動してもいいし」
俺は今の魔法を見て、手元の“宝石”に対する評価を下していく。
「先生はそれに頼るのか?」
と、付いてきたツバキは、まだ不満げな様子で俺のそれを見下ろしている。
「必要な時にはね」
「先生のそれを見ても、私の参考にならない」
まぁ遠投の爆弾だし、“氷”の槍使いのツバキに、参考になる要素はまぁないだろう。それで拗ねてんのか。
「これは、敵をちょうどよく勝てるように調整するための手段だよ。これは必要な保証」
「窮地を経るほど強くなる。先生のその甘えは、先生を弱くするんじゃないのか?」
「君が流星の剣と盾を手に入れる前、君はどうなってた?」
ツバキは押し黙る。
「世界は、俺たちの成長に合わせてくれるほど優しくはないよ。ここは学校の中じゃないんだ。俺たちを殺せる敵は突然、上振れの際限なく現れる。俺たちの命は一つで、死んだら終わりだ。理想だけじゃ強くなる前に“生き残れない”」
銀髪の少女は、黙って俺の言葉を聞いている。まぁ、この石一つですべてがどうにかなるわけじゃないけど。それでも、今の俺たちの弱点をこれは“とりあえず”補填してくれる。
「生き残るってのは大事だよ、ツバキ。これは、そのための必要な手段。分かった?」
彼女は、こくんと、小さく頷いた。隣で、波が押しては返っている。日がキラキラと彼方で輝いている。
「わははわはは! 大量大量! 俺はこのまま世界一の爆裂の使い手になっちゃうぞー!」
俺の前には、大量の無力化した魚の群れが落ちている。ツバキが、俺の手のそれをぱしりと払い落とした。砂の上に赤い宝石が落ちる。
「あぁ! おい、なにしやがる!」
「これは没収します!」
「おい返せ! それは俺の力だぞ!」
「こんなものに頼ってもあなたは何も強くなりません! 強いのはこの“宝石”の力です! 先生の力じゃないです! 目を覚ましてください!」
俺は魔力切れになるまで“宝石”の魔法を使って、海岸に現れる魚の群れを屠り続けた。お金はたくさん稼げた。ツバキは泣いていた。魔力切れになり、砂浜の上でぶっ倒れると、ツバキに馬乗りになられぼこぼこに殴られた。
ツバキの心境
推してたゲームの配信者が突然好きなゲームをやらなくなって人気のゲームばっかやって数字とって喜んでいるところを見る視聴者みたいな感じ。




