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教科『異世界』の じかん だよ! ~武器と魔法とスキルを学んで、仲間と共に異世界を歩き、モンスターを倒し強くなれ!~  作者: 藍染クロム
-【幻想巡りのネコと弟子】-

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第九話、課題:群れの対処

 いつの間にか空は白じんでいた。目を開けて体を起こすと、そこは浜の上、背後で森が揺れている、目の前を少し降りて行った先に、暗い海が広がっている。朝の空気がどこからか運ばれてやってくる。太陽はまだ姿を見せてない。俺はくぁと欠伸を漏らし、寝袋の中を抜け出した。



 浜辺の岩の一つの上に、銀色の髪の少女が座り、手元のそれに息を吹きかけると、輪っかから泡が途切れて飛んでいく。少女の前には、そのまま地面に落ちていく泡、風に吹かれ遠くへ運ばれる泡、舞い上がる泡。薄い透明なシャボン玉の中には、淡い虹色が浮かんでいる。少女の口元から、また泡が一つ、離れて飛んでいく。


 そろそろと地面をネコがやってきて、地面を飛び上がってその泡を割った。銀髪の少女は、非難するような目でネコの顔を見下ろしたが、茶色いネコは地面に座り、少女の前で次を待っている。



「強度はさほどないみたいですね」


 俺たちは、旅の行商人から買った杖を、浜の上で確かめていた。


 ツバキが向かいで杖を振り、そこに虹色の濃い鮮やかな結晶の、扇のような壁が現れる。結晶は、いくつかの柱状が重なって現れるようだ。俺が直剣でそれを攻撃すると、結晶は軽い抵抗で粉々に砕け散る。また、残った方も、時間が経過するとぱちぱちと爆ぜて自壊していく。


「信頼できる障壁としては、使いづらいかな。即席の足場にするにしても頼りないね、ツバキの体重なら行けるかもだけど。せいぜい目くらましの壁くらい?」


 どういう想定で作られた杖なのだろうか。製作者だという工房に行ったら、この杖の使い方を教えてくれるのかな、


「……あんまり、使えませんね」


「かもねぇ。特に、ツバキは似た系統の“氷”の“導器”だし、魔力で強度を出せる“氷”の結晶の方が、色々信頼度は高いかも」


 ツバキは、手元の虹色の金属質の杖を見下ろしている。


「……要らない買い物を、させてしまったかもしれません」


「新しいものを買うっていうのは、得てしてそういう側面があるものだよ。たまに、まだみんなの知らない優れたものもある。でも、大抵は外れか、及第点か、良くても既製のものには劣るか。でも、挑戦すること自体は悪いことじゃないから」


 俺がそう言うと、しかしツバキは暗い顔をして俯くだけだ。


「私は……私はただ、先生と同じものが欲しかっただけです。先生とは、武器も、得意な魔法も違うから……」


「そっか。じゃあ、俺がこれの使い方を開拓したら、ツバキにも教えてあげられるね」


 俺が笑いかけると、彼女は再び下を俯いた。


「まぁなんにせよ、今のツバキはそのロッド一本に絞って練度を上げていった方がいいかもしれないね」

「先生は? この杖を使ってみるつもりなんですか?」


「ま、値段分くらいは遊ばせてもらうかな」


 俺は、手元の暗い虹色の杖を見下ろす。魔力消費はそこそこ。良くはないが、思ったより悪くもない。



「ごしゅじんさま、海の方からたくさん来ますよ」


 幌車を連れて、右手に森、左手に浜と海の見える間の道の上を、ツバキと二人で歩いていく。


 ぼーっと道の上を歩いていると、ヒメトラから警告が入る。俺は海の方を眺め、ポケットの中から操縦石を取り出し森の方へ投げた。幌車が投げた石を追って、森の方へと入っていく、俺は剣を抜いて浜の方へ。


 海の上から黒い群れが飛んできていた。


「先生、あれなんですか?」


 ツバキも銀のロッドを抜いて後ろからやってくる。


「鳥……いや、魚の群れだね」


 それは空飛ぶ魚の群れだった。張りの良い体は、筋肉でだろうか、ぱんぱんに膨らんでいる。モンスターにしては小さいが、魚にしてはでかい。メジロ? ブリ? ヒレは薄く透明で羽っぽく見えるが、それで空中を自在に飛んでいるのかは分からない。


「ちょっと数が多いね」


 俺は範囲系の攻撃を持っていない。倒すとしたら、一匹ずつ切りつけて。ツバキも得物は槍であり、出来ることは似たようなものだ。空を飛んでくる黒い魚群は、その数40か50か。ちょっと多いか?

 まぁいいや。所詮は魚だ。一人で二十匹くらい倒せばいけるか……?


「知らないモンスターだから、ツバキはいったん見てて」


「わ、分かった」


 俺は浜の上、さらに前に出ていく。もうすぐ、海の上から魚群の群れが到達する。


「さて……全員俺の剣で切って、三枚おろしにしてやあばばばばばばばばばば」


 数十匹の飛来した魚にひたすらタックルされ続け、俺の体は襤褸切れのように浜の上に転がった。


「せ、先生!」



「思うに、ごしゅじんさまの得意なのって一対一のタイマンだけですよね」


 俺は砂浜の上で二人に介抱される。


 魚群は、俺の体を散々打ちのめした後、空を飛んで帰っていった。ヒメトラが投げたモンスター除けの煙玉が有効的に働き、魚の群れが退散したのだ。


「一撃で倒せる相手が四十体居たら、四十回剣を振れば倒せる、ではないんですよ。最後の一匹は、ごしゅじんさまがその四十回目を当てるまでの間、猶予があるんです。特にごしゅじんさまは防御力に振ってないタイプだし、一撃から余裕が崩れる。相手が雑魚でも一撃当てられて怯んだら、後は数に任せて一方的に殴られる。たかが雑魚だと、敵の数を侮りましたね」


「……面目めんぼくない」


「先生、氷です」


 と、ツバキが濡らして冷やしたタオルを俺の赤くなった場所に当ててくれる。


 数の多い敵、か。確かに、自然界でモンスターは基本的に散見され、群れをなすモンスターはあまり見ない。俺もあまり相手にしてこなかった。


 今回、何が足りなかったというと、“情報処理能力”だ。もちろん、俺の剣では、一度に二、三匹しか切れないという物理的な処理能力も足りていないが、俺は目の前から迫る大量の魚群を前にして、剣も振らずに立ち尽くした。


 動きは見えていたのだ。見えていたから、剣を振り続ければ、もしかしたら結構な数は撃退できたはず。魚が出来たのはタックルくらいで、攻撃されても立ち上がり敵の数を減らし続け、剣を振り続けていれば、もしかしたらさっきの俺でも倒せていた。


 しかし、俺は多数の魚群を前にした瞬間、俺の脳は処理の限界を超え、思考が固まった。何をするかを決めあぐねている一瞬に、敵は押し寄せ、俺は一撃を食らい、後は。


「俺も、まだまだ至らないな……」


 “数で攻められる”か。これは、何も敵の数が多い時だけの話じゃない。例えば、一人の敵が多数の石つぶてを同時に操り攻撃してきたり、あるいは一人の敵が複数の手段を展開して、同タイミングで攻撃を仕掛けてくる。こういった場合も、同じように“数の処理”が求められる。


 別に、今回だけを乗り越えるだけなら、範囲系の攻撃技でも取って、数を減らす手段を身に着ければいい。でも、今回露出した俺の弱点は、それじゃ克服できない。


 これは俺が直すべき“課題”だな……上に行けば、そういう、複雑で同時的な攻撃を仕掛けてくる相手も現れてくれるだろう。俺はもっと上に行くために、この弱点を治さなければならない。


 ツバキは冷たい手ぬぐいを手に、俺の体を甲斐甲斐しく世話してくれる。


「……情けない所を見せてしまったな」


 ツバキは、俺の言葉には反応せず、ただ俺の体に出来た腫れに冷たいタオルを当てている。


「でも、次は勝つんですよね?」


 ツバキは、いつも通り澄ました顔でそう言った。



「先生、それでは行きますよ」


 俺は練習用の木刀を手に、構える。俺の足が砂の地面を捉える。俺の前には二人の少女が立ち、彼女らの手には、そこらで拾い集めたたくさんの石が握られている。


「せー、のっ!」


 二人の手から同時に石が放られた。それは二方向から、俺の体を範囲に放射状に広がり飛んでくる。


 俺はがむしゃらに剣を振り、石を弾きまくった。石はすべての軌道上に俺が居るわけではない、俺に当たりそうなものをとりあえず片端から。さばき切れなかった複数の石が俺の体にぶつかる。これは大丈夫だ、俺の腕にはさばける石の物理的な限界がある、今は、すべての石が俺に当たるか当たらないかを瞬時に判断する、情報的な処理の修行。


「つぎ!」


 彼女たちの腕から、再び石の雨が放られてくる。


トビブリ

 空を飛べる大きな魚。普段は水中で生活しているが、その筋肉を鍛えるため、空を飛んで地上の生き物に勝負を仕掛けに行く。身が引き締まっており非常に美味。熟練の漁師が小さな船の上でトビブリの群れと戦い仕留めるさまはまさに圧巻。



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