第三話、雨の日の勉強会
ゴトゴトと、背後で車輪が音を立てて道の上を走っている。俺たちは自動追尾型荷車を連れ、緑の草原に伸びる道の上を歩いていく。
「先生、そろそろ雨が降りそうだ」
と、隣を歩く銀髪の少女が怪しい雲行きを見上げながら、俺にそう進言してくる。
「そうだねー。いったん荷車を木の脇に止めて、雨が降って来たらじゃあ、雨宿りでもしよっか」
「ごしゅじんさま、雨が降ったくらいで進行を止めないでください」
背後の荷台の中から声がする。そこには、荷物に紛れて一匹のネコが乗っている。
「そうだよね。じゃあ、ヒメトラに操縦石をくわえて雨の中歩いていってもらおう。俺たちは、荷車に乗って幌の下で休むから」
荷台の上のネコは姿勢をもぞもぞと変え、こちらに背中を向けて知らんぷり。
俺たちは大きな木の下で雨の降る世界を眺める。木の葉っぱには次々と雨が当たり、葉っぱを伝ってたまにすり抜けた雨粒が落ちてくる。俺たちは木の下に幌の付いた荷車を止め、荷台の上、その幌の屋根の下で小さく集まって外を眺めている。
「先生、手っ取り早く先生みたいに、強くなるにはどうすればいいんだ?」
幌の下、荷台の木材の上で、銀髪の少女が隣で体育座りをしながら聞いてくる。
「急速な成長は不安定な定着とセットだよ。まぁ、成長が早い才能のタイプも居るけど。ツバキは着実に、しっかりと強くなっていってるから、焦らなくても大丈夫。少しずつ強くなっていこう?」
「そういうのじゃなくて」
こいつ……。少女は澄ました顔で隣の俺の顔を見上げ、文句を言ってくる。
「まぁスキル石とか使えばいいんじゃない? ツバキ、まだ使ってないでしょ」
ツバキの武器は、導器という、魔力や魔法を通す不思議な材質で作られた武器。内包する属性が“氷”で、魔力を通すと魔力の属性が“氷”に変わる。形状は棒。製作者は氷で武器の形を作りながら多様に戦うことを想定していたらしい。
ツバキは主にこの武器を主体にして戦い、よって武器と魔法を絡めて戦うタイプだ。また、ツバキの武器にはスキルスロットという、スキル石を嵌める穴がない。ツバキはまだスキルを使ってない。
「スキル石……でも、本来はスキルって、自分で練習して習得するものですよね。スキル石を使って使えるようになるのは、なんかズルじゃないですか?」
おめーがそのズルする方法を聞いてきたんだろ。
「習得に時間が掛かるからこそ、いろいろなスキルを、石を嵌めただけで使って試せるスキル石が重要なんだ。何事も、実際に試して評価した方が強い」
「でも、先生はあまりスキルを使いませんよね?」
確かに。
「そうだねぇ、最近は、武器と“風刃”系の魔法主体の戦い方だし、もう“潜影”しか入れてないかな」
“潜影”。影に潜って地中を移動し、再び地上に現れる移動スキル。
「相手によってはまた入れるかもだけどね。“剛身”とか、“移し身”とか、“溜め切り”とか、持ってるものは持ってるよ」
「先生が使わないなら、私も使いません」
「強さの段階によってやるべきことは違うよ。君はまだ、強くなるための補助輪が必要な段階じゃないかな。まぁ無理強いはしないけどね。使いたいと思ったら使えばいい、“スキルスロット”も必要だし」
ふーん、と、銀髪の少女は隣で俺の話を聞いている。
「先生の持ってるスキルって、じゃあどんなのですか?」
「聞きたい? 一番使えるのは“溜め切り”だね、これは俺の冒険者の先輩から貰ったものなんだけど―」
小さな幌の下、狭い荷車の中で、大自然と雨音に包まれて、俺は小さな少女にスキル石の授業を施した。
「先生見て、雨の下でオタマジャクシが踊ってる」
彼女のさす方向を見れば、濡れた草原の上、半端に足を生やした大きめのオタマジャクシたちがたくさん並んでいる。彼らは雨の中、雨を体いっぱいに浴びて楽しそうに踊っている。
「オタマジャクシ……追尾……爆発……うっ、頭が……」
「先生? どうしたんだ?」
ゲンソウガエル
雨の中現れ、雨音を操り演奏するカエル。モンスターにしては小型で、二本足で立って歩く。お気に入りの枝を指揮棒代わりに持ち歩く。子供のうちは音を操る能力がないので、ただ雨を浴びて踊っている。




