第二話、狩り狩りクエスト
カランコロンとドアベルが鳴る。中に入っていけば、店の中は暗く、そこに見えるカウンターには酒瓶の類が並べて置いてある。カウンター越しに、壮年の白い髭のおじさんがコップを持って磨いている。
「……いらっしゃいませ」
「ここが、この町のギルドですか?」
「……冒険者の方ですか。ようこそ、我が町へ」
*
草原の丘を乗り越え下り、進んでいる道の先に人の町が見えてきた。そんなに大きくはない集落、町の周囲を囲うモンスター除けの為の柵も、その辺の木材で作られたおざなりなものだった。
ツバキは、モンスターとの連戦で疲れ、後ろの荷車で小さな猫と一緒になって寝ている。俺は荷台を引っ張る石を持ってその前を歩き、みんなを引き連れて町の中へと入っていく。
「おや、旅の方ですか」
と、町の住民らしきおじさんが、俺の顔を見つけて寄って来てくれる。
「あてのない旅をしておりまして。この町には宿はありますか?」
「宿ですか。一軒だけありますよ。と言っても、普段は使っていない空き家なのですが」
「屋根があるだけ十分ですね。あと、モンスターの素材などを換金できる商店などはありますか? あまり、手持ちにお金を持っていなくて」
俺がそう言うと、住民おじさんは興味深そうに目を丸める。
「おや、もしや冒険者の方ですか?」
「そうですね。俺と、後ろで寝てる子もそうです」
「まだお若いのに……大人も連れず、あなたたちだけで旅を」
「腕には多少自信がありますよ」
おじさんは、信じられないような目で、俺と、背後の荷台の少女を眺める。ここら辺ではあまりモンスターとか戦闘とかが一般でない、平和な地域なのだろうか。
「冒険者の方……でしたら、私たちの町では、少し不便を感じるかもしれませんね」
「おや。と言うと?」
「うちには立派なギルドもなく……一応、依頼所はあるのですが、酒場の端っこに張り出しているのみです。この町には冒険者が居らず、受ける者も……。換金は、町の商店ならやってくれるでしょう」
「そうですか。ありがとうございます。モンスターなどでお困りなら、ぜひ声を掛けてください。お力になりますよ」
と、俺は町民のおじさんに見送られ、教えられた商店の方へと歩いていく。
荷物を片付け、さっそく依頼の張り出しがあるという酒場の前までやってきた。
「しょぼい町だな」
「こらツバキ」
「お酒の匂い……ヒメトラはお店の前で待ってます」
小さなネコが銀髪の少女の頭を滑り降り、地面へと軽く降り立つ。ぺたぺたと歩いて道の脇へ、そこで後ろ足をあげて顎の下を掻いている。
「んじゃ、入ろっか」
ドアを開けると、扉の上部に付けられたベルがカランカランと鳴っている。俺たちは、暗い店内へと入っていく。
小さな酒場だった。カウンターの前に椅子が並び、あとは店内にいくつか机と椅子が並んでいる。カウンターの中には白い髭のおじさんが立っていて、入ってきた俺たちに多少目を驚かせて迎える。
「……いらっしゃいませ」
「ここが、この町のギルドですか?」
「……冒険者の方ですか。ようこそ、我が町へ」
カウンターはLの字に折れ曲がり、その手前の右の壁に依頼書が貼られた掲示板が取り付けられているようだった。依頼書というか……なんだ? 目撃情報? そこには、付近で見かけられたらしいモンスターの目撃情報がいくつか張り出されている。ここでは、どうやらモンスターの出現自体が珍しい場所のようだ。
「……それらの依頼を、片づけてくださるのですか?」
「こういうのも依頼って言うんですか?」
「……」
「あぁ、すみません、自分の知ってるものと、形態が違ってて」
「……確かに、ここの“依頼”は、依頼主も、その報酬金も、載せられていませんね」
冒険者ギルド。役割はいくつかあるが、その大きな役割の一つが、モンスターの討伐依頼の仲介所である。ギルドには、モンスター以外にも町のお使いの依頼なども集まっているが、ギルドの依頼と言えば、基本、このモンスター討伐依頼であり、また冒険者と言えば、モンスターを狩る自由業の人間たちである。
依頼主は大体、ギルドやそこの自治体、あるいは民間の個人なんかが出しており、その依頼主によって仕事の成功報酬が支払われる。しかし、ここの町にはギルドがなく、また依頼主とその討伐成功の報酬金がないようだ。狩っても、モンスターの素材だけが利益。
まぁいいや。普通に野良を歩くよりモンスターは見つけやすいだろう。情報も利益。冒険者はモンスターを倒さなければ金がない。
「依頼書は三つ……」
その掲示板は少し高い位置にあり、手前で銀色の少女の頭が精いっぱい背伸びしてその内容を読み取ろうとしている。
この町の付近のモンスターの目撃情報は三つ。一つはデスツチノコ、一つはコンゴウヘビ、一つはクミテガエルのものだろう、依頼書には、それぞれ姿や情報などが記載されている。また、小さな紙が一つあり、“森の奥で恐ろしい影を見た”という、噂か分からないような情報まで載せられている。
「先生、どれから行く?」
「まずはコンゴウヘビだねー。その次にデスツチノコもやっとこうか。クミテガエルはまぁ、放置でいいでしょ」
「やって、くださるのですか?」
と、脇から声がする、カウンターのおじさんだった、彼は思わずといった様子で声を出したようであり、俺が彼に目を合わせると、慌てて小さな声で「すみません」と言っている。
「冒険者ですからね」
俺は彼にそうとだけ言って、掲示板に目を戻す。
「先生、なんでこの石のヘビが一番? 太った紫が一番危険そう。お金に目がくらんだ?」
銀髪の頭が下からそう言っている。そこの紙にはそれぞれモンスターの情報が記載されている。コンゴウヘビは、簡単に言うと首の真下に透明な魔石を生やす白いヘビであり、その石は高く売れる。デスツチノコは、ずんぐりむっくりした紫の太ったヘビ、体内に人間を殺せる毒を持っている。
「コンゴウヘビはねー、原理はまだよく分かってないんだけど、近くによくモンスターを引き寄せるんだ。放っておくとここら辺にモンスターが増えちゃうかも。この町には冒険者が居ないって言うし、最低でもここだけはやっておきたいね」
ふーん、と、銀髪の少女から若干の納得の声が上がる。
「じゃあ、そのデスツチノコは? 危なそうだよ?」
「そうだね。そこには書かれてないけど、デスツチノコは基本人間から逃げるし、肉に毒はあるけど、わざわざ殺して食べでもしない限り毒性は問題にならない。いったん後でいいかな。まぁ、死んだ時に肉の毒が地面に移っちゃうから、見つけられるなら処理しときたいね」
「なら、クミテガエルは?」
「クミテガエルは、でかめの、人型に近いモンスターだし、見つけた時の威圧感はあるけど、やってくることはただ組み手を仕掛けてくるだけだから、相手してもしなくてもその内どっかに行くよ。特別凶暴な個体とかでなければ放置でいい」
「ふーん」
と、ツバキは掲示板に張られた紙を興味深そうに見上げている。残念ながら、そこに張り出されているのはここの住民からの目撃情報であり、今俺が言ったような情報、ギルドに置いてある図鑑のように詳細な生態はそこから読み取れない。
俺は手帳を出して地図をメモし、そこに書かれている目撃のあった場所を記していく。
「じゃあ行こっか」




