第一話、幻想巡りのネコと弟子 ーII
「一番大きい肉がごしゅじんさま、次に大きい肉がわたし、残りの一つがツバキのです」
辺りは夜。目の前ではぱちぱちと焚火が爆ぜていて、世界は星空の下。
道の脇に停留用の空き地を見つけた、そこに幌車を止め、地面に残っていた石やらを使い焚火を起こす。俺たちは一つの焚火を囲んで、輪になって座っている。
「なんでだ。私が一、先生が二、ヒメトラが三だろ」
ヒメトラの提案した序列付けに、銀髪の少女は食い付いて言い返している。地味に俺が下にされてるね。
「ごしゅじんさまが仕留めたお肉、ヒメトラが焼いたお肉です。私たちが多く食べるのは当たり前でしょう、ツバキ。分けてもらえるだけありがたいと思ってくださいね」
揺れる焚火の明かりに照らされて、火を囲む俺たちの姿が照らされている。
一行のうち、一人はツバキという少女。冒険者の女の子。いろいろあって俺に懐き、以降、彼女の面倒や修行の手間を俺が見てあげたりしている。長い、ストレートの銀髪の、まだ年若い少女だ。今は外に出ているので、長い髪は後ろで一つに結んでいる。成長意欲が強く、真面目で、あと意外と気が強い。
一行の、もう一人はヒメトラ。和装風味の、俺より一回り年上のお姉さん。だが年上の風格はない。一人というか、一体? 彼女は、砂漠でほかのモンスターに追われている所に出会い、助けると、それから一緒に付いて来るようになった。
元は小型のトラ型のモンスター、人化の術を使えるようで、気まぐれに人に化けては人の町に馴染んでいる。
俺はちらと、隣のヒメトラの姿を盗み見る。人間の形態の彼女は少し露出が多い。和装風味の、下はミニスカート。スカートの下の白い太ももも、広がった裾からのぞく華奢な腕も、結構根本まで見えてしまっていて、ツバキが変な影響を受けてしまわないか心配である。
まぁ、今のツバキの格好は、結構お堅めの冒険者のものなので、露出も少ない。今のところあまり心配はないか。ツバキはもうちょっと肌見せていいんじゃない?
ちなみに、俺も冒険者だ。今は世界を旅して回っている。連れには、荷物を載せる幌車があり、それに合わせて一行の足はそんなに速くない。歩いて、近くの町の噂を聞いて、気になった所からあっちへこっちへ。
ヒメトラは、冷静にツバキに言葉を返しながら、焚き火に木材を加えている。もう調理は終わり、料理は脇の、葉っぱの上に並べられている。
「まぁまぁ、ツバキも頑張ったし、ツバキはまだまだ成長期だから、いっぱい食べさせてあげないとね」
「ほら、先生も私の方が上だと言ってくれている」
「言ってない」
「私は小さいお肉いやですよー」
まぁ、俺もこの中で一番小さいのだと言われると、それは嫌だな……。
「わかったわかった、じゃあ平等に行こう。俺が一番大きいの、ツバキが真ん中、ヒメトラが一番小さいの。で、ヒメトラは量が同じになるよう、俺のから少し取る。これでいいだろ?」
俺の提案に、ヒメトラは頷き、ツバキは不満そうに口を尖らせ、呟く。
「これで終わりだと思うなよ」
「これで終われよ」
夜風が吹いて、火の勢いがいったん強まり、火の粉がぱらぱらと宙を舞う。
「じゃあ、ごしゅじんさまのから一口頂いていいですか?」
「うん。いや、普通に削いで分けたら……」
と、俺の言葉を聞く前に、ヒメトラは葉っぱの上の一番大きい肉を手に取り、大きく口を開けてそれに齧り付いている。間接……、
「いや一口でけぇ! よだれよだれ! よだれが肉に垂れてる!」
ヒメトラは、大きい肉の塊を口にしながらふがふがと何か言っている。
「やっはり調理者であるヒメトラが一番偉いと思いまへんか?」
「食べ始めてから下克上すんな! お前日中はほとんど荷台の上で寝てんだろうが! 下か上かで言ったら下だよ! 分けて貰えるだけありがたいと思え!」
「へ? 家事の地位を下に見へいる?」
「うるせぇ!」
「先生ソース取って」
「自分で取れ! 今先生本体取られてる!」
結局俺がありついたのは、三人の中で一番小さいお肉の塊だった。
コケイノシシ
豊かな森でみられる、森の苔やキノコをたらふく食べて、丸々と太ったイノシシ。体に苔やキノコを載せて運び、自分の食料の繁殖のお手伝い。いいものを食べて育ったお肉は美味しい、みんな知ってるね。
人型を取るモンスター
モンスターの中には、何を思ってか人の姿を取るものが居る。人型のモンスターはよく露出の多い格好を取っており、ヒメトラもその例に漏れない。
キョウゲツの直剣
ギルドの売店で買える、ごく普通の汎用的な製品。特殊な能力はないものの、手に馴染み、使いやすい。“銀化”が施されており、柄まで銀色になっていて、並大抵のことで刃が欠けることはない。
幌車
魔導の原理で動く車。雨風除けの幌が付いている。付属の“操縦石”に向かって走って付いてくる。“操縦石”が鳥に取られたときは大変。




