-9.事後処理
「私は事前に、あなたに無茶をしないでくださいとお願いしましたよね?」
白い空間の中、ここには俺と先生だけが立っている。現れた机の上には、俺が渡した“凍結”のナイフと黒い石が乗せられてある。
俺が先生のもとに帰ってきて、それを差し出せば褒められるものかと思っていたが、待っていたのは怒り顔の先生だった。
「……いや、だって」
「“だって”ではありません。命は一つしかないんですよ? 死んでしまったらもう生き返ることはできません。今のあなたでは、相当なリスクを冒してきたのでしょう?」
「……現場の判断です」
「それを言えば、私が黙ると思っているのですか?」
いやだってその場の流れで……。
「現場の状況を見るに、敵の力は急激に勢いを増し、放っておくほど被害は増えていっていたでしょう。俺の力ではその被害を端からすべて助けられません、根本をさっさと抑えるべきだと思いました。また、途中で強力な力を持つ勇者に遭遇し、彼の協力で迅速に事態が解決しました。言うほど俺は無茶はしてませんよ、俺一人でどうにかしたわけではないですし、そもそも、自分の力だけでどうにもならないと思っていたら、さっさと撤退するつもりでしたし」
先生は、黙って俺の顔を見下ろし続けている。やがて、彼女は長く、溜め息を吐いた。
「そんなことより、その“神性”はどうするつもりですか?」
と、俺は話を逸らした。俺たちの視線は、白いテーブルの上の凍った塊にいく。
「……そうですね。今回のこれは、少しばかり人類への影響が大きすぎます。敵にするにしても、味方にするにしてもです。また、人類への悪影響をほぼ気にしていないような所も大きな懸念点です。誰の目にも届かぬよう、奥深くに隠すことが、この世界における人類への最良……でしょうか」
「武器にはしないんですか?」
「御しきれないかも、しれません。これは、あなたの意志に従って連れて来た訳ではないでしょうし、外に露出させれば、意に反して問題を起こすかも」
手に入れても厄介だな、今回の。
「そうなんですか。じゃあ、封印? とかするんですか?」
「封印も……難しいんですよね。小さいものならまだしも、これだけ大きなものとなると。私の力では」
「じゃあ、“錆”や“凍結”を使うのは?」
「……格が足りないかもしれませんね。手持ちの“凍結”は本体ではなく末端の力の結晶、“錆”は……相性次第では、一緒に保管しておけるかもしれませんが」
「しれませんが?」
「ワカナさんが持ち出しています」
「剥ぎ取ってきていいですよ」
俺は、凍り付いたその黒い石を見る。
「では、破壊は?」
「私では権限が足りませんね。まぁ、あとは私のほうでなんとかしましょう。今回はキョウゲツさん、本当にお疲れさまでした」
ほうと、先生は息を吐く。まぁ、どうにかなってよかった。
「しかし、あなたに協力したというその“彼”には感謝しなければなりませんね。まさか、今回の“神性”をここまで手早く、回収まで至ることが出来るとは。その彼というのは、作戦に参加した勇者だったのですか?」
「あ、はい。そうですね。“光”の勇者と、そう名乗っていました」
……。先生は無言でバインダーを呼び出し、それを開いてぱらぱらとページをめくっている。
「私の記憶では、“光”の勇者は一人しか居ませんね」
「そうなんですか。有名なんですか?」
「現“太陽の聖剣”の持ち手です。前“大魔王”討伐までにおいて、目ざましい功労を果たし、その“大魔王”や女神の最後を見送った人物だと思われます」
ふーん?
「あの子がラスボス?」
「いえ。“太陽”は“七星”と比べて弱めと聞いていますし、打倒“七星”全部を掲げているあなたにとっては、ただの通過点にしかならないでしょうね」
「別に掲げていませんよ」




