授業:七星と組織
「我々勇者協会には数多くの勇者が所属していますが、最も重要なのは、いつの時も八人の勇者です」
今日も座学らしい。いつも通りの教室、教室の中には十数人の生徒が席に着き、おとなしく先生の話を聞いている。
「勇者協会には、我々人類が長く受け継いできた八本の武器があります。七つは、“七星の神器”と呼ばれる七種の武器、一つは、“太陽の聖剣”と呼ばれるものです」
先生はかつかつと音を響かせ、黒板に文字を書いていく。
「これら八本の武器には、我々人類が国家規模で収集しているエネルギーが詰め込まれ、人類が有事の際、これら八本が我々人類を守るために振るわれます」
七星の神器と聖剣。これらが、文字通りここの人類の切り札。
「これらの八本の武器の使い手は、特殊な過程を経て選定されます。“七星”は、それぞれ異なる七種の武器種の武器であり、この七つの武器種によってそれぞれ大会が開かれ、その中で、最も優秀な成績を収めた勇者が“七星”の使い手となります」
ふーん。七つの武器種の大会の優勝者がそれぞれ”七星”になる。
「“聖剣”の使い手を選ぶ際も、同様に、使い手を選ぶための大会が開かれます。が、大会の優勝者が“七星”とは異なり、“聖剣”を選ぶ大会では上位五十名から百名程度の人間が選ばれ、その後に、その中から“聖剣”が“太陽の聖剣”の勇者を選びます」
へー? ”聖剣”が、使い手を選ぶ? 武器の中に誰か居るの?
「まとめると、“七星”はそれぞれの武器種の大会の優勝者であり、“聖剣”の勇者は大会上位の成績を収め、かつ“聖剣”に選ばれた者となります。“七星”を決める大会の参加者は基本勇者のみですが、“太陽の聖剣”の持ち主を決める大会では一般人も参加します。また、”七星”の大会の武器はそれぞれの七つに縛られますが、”聖剣”の武器種は持ち手によって多様に変化し、よって”聖剣”を選ぶ大会のみ武器種は縛られません。まぁ、とは言え直剣が多いですが」
“七星”は七つの武器種のエキスパート、“聖剣”の勇者は人類全体でとにかく強い奴ね。
「また、“聖剣”以外の、“七星”の持ち手には、それぞれ七つの集団が彼らに付き、“七星”のサポートを行います。これらをまとめて“七星組織”と呼びます。“七星組織”は、それぞれの“七星”と同種の武器を持った勇者たちであり、その多くが、同大会において優秀な成績を残したものたちです」
”七星”がトップに就き、一番でないにしても、優秀な各武器種の上位層がそのサポートに就くと。それが”七星組織”
「これら“七星の神器”、“太陽の聖剣”の使い手の八人が、我々勇者協会の有する勇者の最高峰です。もちろん、勇者には様々な分野が存在し、それぞれ無くてはならない役割を果たしていますが、最も重要なのは、この八人の勇者。この八人の勇者に選ばれるのは、この世界でまたとない名誉です、みなさんもぜひ、この“七星”、“聖剣”の勇者を目指してみてください」
先生はかたんと白い棒を粉受けに置いた。
「今日話した内容は、我々勇者にとっては非常に意味のある話です。後日テストするのできちんと頭の中に叩き込んでおくように」
おー、テストだ。筆記のテストもあるんだ。まぁそこまで難しい話ではなかったしなんとかなるだろ。隣を見ると、同階に住んでいる三人くらいの女子生徒が口をぽかんと開けて黒板を見上げている。
「それ先に言ってくださいよ先生!」
ひと段落し、質問コーナー。
「はい先生」
「はい鏡月さん、どうぞ」
「“聖剣”の使い手は最終的に“聖剣”が選ぶとのことでしたが、選ばれる際の基準とかあるんですか?」
うーん……と、先生は天井の隅を見上げる。
「どう……でしょうね。“聖剣”の使い手の、最終的な選び方ですが、候補者がある程度定まった後は、“聖剣”の刺さっている台座へと候補者が上がり、その“聖剣”が抜けるかどうかを握って試します。“聖剣”を握って抜けた人が“聖剣”の勇者です。それ以上の情報は、出回ってないですね。よって、“聖剣”が持ち手を選ぶとされています」
基準の詳細は不明か。運ゲーっぽくてなんかやだな……まぁ、それが嫌なら“七星”を目指せばいいのか、そっちは大会優勝者だし。
「はい先生」
「はいヨウゲツさん」
「“聖剣”は筋肉で引き抜くことは出来ますか?」
「出来ません。過去に、力任せに引き抜こうとし、台座の岩が刺さったまま地面から外れるという事態が起きています。彼は正式な“聖剣”の勇者として認められませんでした」
でしょうね。
「はい先生」と、ほかの生徒からまた手が上がる。
「“七星”の特定の武器種とは何ですか?」
「いい質問ですね。テストにも出しますよ」
先生が白棒を拾い、ふたたび黒板に文字を書いていく。
「≪水星の”杖“≫、≪金星の”弓“≫、≪火星の”槍“≫、≪木星の”槌“≫、≪土星の”盾“≫、≪天王星の”細剣“≫、そして≪海王星の”大剣“≫。これら七種が、“七星の神器”と呼ばれる武器になります」
先生が書き終え、こちらを振り向いた。これ全部覚える……大丈夫かな……。
「”太陽”は、さっき言った通りなんでもですね。補足すると、“弓”とありますが、これらは戦い方の総称であり、弓っぽく何かを打ち出して戦う武器種は“弓”に分類されます。”大剣”はでっかい武器です。斧は、分類が面倒ですが、人によって”大剣”、”槌”、”盾”、”槍”などに行きます。“杖”は、魔法使いの持つ、魔力操作の補助の道具ですね、小さいもの大きいものあります」
ふーん。じゃあ銃器とかも分類上は弓になんのかね。
「もし“七星”を目指したいという気持ちがあれば、これら七種の戦い方のうち、自分はどれに入るのか、どれが適しているのかは、きちんと把握しておいた方がいいでしょう」
直剣は……そうか、ここに無いから、目指すなら“太陽の聖剣”になるのか。曲刀も多分そう。筋肉もそう。
「はい先生」と、また他の子の手が上がる。
「どうぞ」
「“七星”がすごそうなのはわかりましたが、じゃあ“七星組織”はどうなんですか? すごいんですか? “七星”を目指すにあたって、その“七星組織”に入るのを先に考える、とかもありなんですか?」
「いい質問ですね」
先生はうんうんと生徒の質問に嬉しそうに頷いている。
「そうですね……“七星組織”の構成員の多くが大会上位者であることはそうなのですが……“七星組織”の選定基準は、厳密にはそれだけでなく、あくまで“七星”の補助に回れるかどうかなので、“七星”のサポートに回るならそれなりの実力者でないと、ということで、同大会の上位者が多く入ってるんですね」
先生は悩ましげに答えている。
「ですので、”七星組織”には、強さを少々飛び越えて、希少な能力や有用な能力というだけで”七星組織”には入れることもあります。まぁ、とはいえ過去の”七星”の多くはその前段階で”七星組織”を経験していたりするので、必ずしもそこを通る必要はありませんが、”七星”を目指す際にまず”七星組織”に入ることを目標にする、という考えもいいでしょうね。ちなみに、“七星組織”に入れるだけでも結構すごいことですよ、国命を受けて動く“七星”と一緒に動くわけですから」
「なるほど、よく分かりました」
“七星組織”は“七星”の二次組織。“七星”に次ぐすごい人たちと。でも“七星”だけ、か。
「はい先生」
「はい鏡月さん。どうぞ」
「“七星”をサポートする“七星組織”があるんなら、じゃあ“聖剣”をサポートする組織はないんですか?」
話を聞いているに、”七星”と”太陽の聖剣”は扱いが別枠である。
「“聖剣”をサポートする組織……ですか……そうですね。特定のものはないですね」
先生は簡潔に答えた。
「そうなんですか?」
「えぇ。“太陽の勇者”は、ほかの“七星”とはちょっと毛色が違って……“聖剣”に協力するのは、自分で連れている仲間とか……あるいはほかの“七星”だったり、そもそも勇者協会全体……いえ、なんなら、人類全体が“聖剣”の勇者の協力者? そんな感じに、なりますね」
「そうなんですか」
「えぇ」
権力が強すぎて、人類全体が仲間みたいな感じなのか。それこそ創作の中の勇者、勇者の中の勇者って感じ。街行く人みんなが、その存在を知っている。
「ほかに質問はありますか?」
先生は俺たちの顔を見下ろし、穏やかに話しかけている。




