-7.神域
暗い洞穴の中に立っていた。反射的に上を見上げれば、そこは閉じられている。土だか岩だか分からない天井がある。俺はいつの間にか左右に伸びていく洞穴の上に立っていた。上へと続く穴なんてどこにも見当たらない。
「あぁ?」
また、すぐそこに、先に降りて来た少年が居る。
「……異空間に、飛ばされた?」
“神域”か? ここ。うちの神様がよく呼び出してくる白い空間のような、神性で出来た異空間。俺は、森の中、大地にぽっかりと開いていた巨大な穴の中に飛び込んだはずだ。だが次の瞬間にはここに居る。
「……さっきの人、ここは?」
「おそらく敵の本陣だ。ここのどこかに増殖の主がある」
「そうか。魔神の口にでも飛び込んだのかと思った」
その想像もあながち否定はできない。歩いていて、酸性の沼に出ないといいが。
夢の中を漂っているような、ふわふわとした不思議な気分だった。意識をはっきりさせようとしても、俺はぼーっとただ目の前の景色を見てしまう。そこにはただ洞窟の壁がある。
地上のアリに、かすかに感じていた“神性”の気配が、ここでは均一に空気に“満たされて”いる。目当ての“神性”へと近づいたのは間違いない。
「……まぁ、ここでじっとしていても仕方ない。進むか」
「進むって、どちらに?」
俺たちは一本道の上に立っている。少年が少し離れて立っているが、俺たちは“上”から降りて来た訳であり、どちらが前か後ろかも分からない。
「……それぞれ逆に行くか?」
「二つ目の分かれ道が見えた時は? 君は二人になって、それぞれを探せるの? こんなに早くに二つに分かれない方がいいよ」
一緒に行きましょう! 俺はこんなところであのアリに出会っても一人で倒せないです!
「……じゃあ、俺はあっちに進む」
「一緒に行こう」
俺たちは洞窟の中を歩きだす。洞窟の中は、明かりもないのにぼんやりと明るく、自分で明かりをつける必要が無かった。風はないが空気は重くない、俺たちは中をすいすいと歩いていく。
少しすると、そこには分かれ道があった。Vの字に道が割れており、どちらも同じに見えている。
「……右に進む」
「おーけー」
「俺は頭を使うのは苦手だ。マッピングはお前に任せる」
「はいはい」
少年の後を追って、俺たちは右の道を選び進んでいく。
「……地上に見えたアリの姿が見えんな。ここは敵の本陣じゃないのか?」
「あんだけ地上に出てたし、中がすっからかんになったとか」
少し歩くと、また分かれ道がある。
「……複雑な地形だな」
「あれだけのアリが湧き出してるんだし、内部は広大で複雑な可能性はあるね」
「俺たちで探索しきれるのか?」
「君は、何かあって穴に飛び込んだ訳じゃないの?」
俺が聞くと、彼は黙っている。
「……次は、左に行こう」
「おーけー。別れてても、行き止まりがあれば探索が簡単なんだけど」
俺たちは左の道を選び、さらに奥へと進んでいく。俺たちはアリを見つけられない、ほかの、何者も見つけられない。
「……またか」
俺たちが出会ったのは、またも分かれ道だった。
「君は、広域感知系の能力は持ってないの?」
「持ってれば、俺もお前も馬鹿正直に歩いてきてない」
「そうだね」
俺も“領域”を広げようにも、この地下には風が聞こえないせいでほとんど何も感じられない。
「次は? どうする?」
「これは、俺たちだけで探索が可能な地形なのか?」
「不可能だったら、どうする? 俺たちは帰りに必要な道すら見つけられてない」
「上にまっすぐ突き出れば地上へは出られるだろ」
脳筋な脱出手段が帰ってきた。地上まで穴を開けられる能力はあるのだろうか? 開けられたとして、この異空間に穴が開くだけだと思うが。それでここから出られるかは、分からない。
「どうする? どっちに進む?」
「……右だ」
交替性転向反応だっけ。ダンゴムシと同じ進み方だな。
地下の景色には何の変化もなく、俺たちはただ洞穴の中を歩いていく。時間も距離もあいまいで、俺はずっと同じ位置から動けていないようにも思えてきた。
歩いていれば、次に出会ったのは、またも分かれ道。
「綺麗すぎるね」




