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教科『異世界』の じかん だよ! ~武器と魔法とスキルを学んで、仲間と共に異世界を歩き、モンスターを倒し強くなれ!~  作者: 藍染クロム
Ep4.蟻の神兵

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-6.会敵2 ーII

「キョウゲツさん。さては命令に違反して戻って来ましたね」


「命令? なんのことだか。俺は迷い込んだ冒険者ですよ」


 はぁ、と、先輩は小さく溜め息を吐く。


「詳しい話は後で聞きましょう、今は、なしで」


「先輩は、無事にテントまで戻っといてくださいね」


 俺は先輩と離れ、穴があるという“中央”の方へと向かっていく。よく見れば、森の地形は微妙に傾斜していっており、窪みの真ん中にその“穴”はあるという。


 先輩に聞いた位置へと向かっていると、その内音と怒号が聞こえてくる。俺は急ぎ足でそちらに向かっていく。小雨が降ってきた、ぽたぽたと服に染みが出来ていく。森は暗く、重い空気が流れている。


 向こうに見えた、一方から迫る、一、二……感覚で感じ取った。その数十二匹。数人の勇者がそこに居り、向こうから迫ってくるアリに対して武器を構えている。


 帰っていいか? これ俺無力だろ。


 森の中、立ち向かう勇者たちのうち、一人が盾を構え、一人が剣を構え、一人が杖を構え、そして残る一人は後ろでうずくまり、見るに剣士だが腕を怪我しているようだ。まぁ一応来たし行くか。


「応援に来ました! 手助けは必要ですか!?」


 俺がそう声を掛けると、余裕の無い声が返ってくる。


「あぁ!!? 何しに来たガキ!!」

「一人がケガしてる! テントまで連れてってあげて!」

「何言ってんだ!! 俺たちだけでここに残れってか!?」


 なんだ、どっちだ? 何をすりゃいいんだ?


「さっさと必要なことを答えろ!!」

「……っ!! 倒すのを手伝ってくれ!!」


 敵は十二匹、横に二、三匹ずつ、縦に長く位置している。正直一匹一匹対処しているような段階ではない、彼らも戦えるようだがおそらくその数はキャパオーバーなのだろう。


 一撃で出来るだけあちらを削る。“神性”を大きく消費するが仕方ない……―


「いったん正面開けろ!!」


「あぁ!? あぶねぇぞ坊主!!」


「いいからどけ!!」


「っ任せるぞ小僧!!!」


 正面に居た盾が、組み合っていたアリの顎を大きくかち上げた、俺は剣を呼び出し、その隣を追い抜き、陣形の最前列へと飛び出た。正面にはもう敵が居り、アリの太い列がある。


「っっっ“烈風刃れっぷうじん”!!!!!」


 剣を真一文字に切り裂いた。空間に斬撃が走る、真横に長く伸びた風の刃は、森の中をまっすぐ飛んでいき、軌道上にあったアリの体を次々上と下に分け、力任せに過ぎていく。列の半分を過ぎたあたりで、それは急激に鈍くなり、そして風の刃は空気に溶けて消えた。


 目の前のアリの体と、間にあった樹とが、切断面でずれ、次々と倒れていく。


「や……やるじゃねーか坊主」


「……かはっ!! の、残りはそっちで行けますか……!!」


 列の奥、三、四匹のアリがまだ奥に残っており、倒れたアリの死体を乗り越えこちらへ向かって来ている。体内の魔力を一気に使いすぎた……頭がくらくらする、俺はいつの間にか地面に両肘を付いて倒れている、意識はあるが失ってないだけ。吐きそう……。


「任せろ! おい残り片付けるぞ!」


 俺が再び立ち上がる頃には、勇者たちが残党を片付け終わっていた。


「助かった。坊主、どこの班だ?」


「……あなた方が、ミズノの所に向かうはずだった“討伐隊”の方々ですか?」


「そ、そうだ。そっちはどうなった?」


「ミズノの所に居た五匹のアリはこちらで処理しました。ミズノは体力を使い果たしたので今は撤退しています」


「……助かった。何から何まで悪いな」


「いえ。それより、戦況はどうですか?」


 リーダーらしき体格のいい男にそう聞くと、髭のおじさんは苦い顔をして答える。


「……不味いな。俺たちは巣の周りのアリどもを“処理”するはずだった。だがどうだ、俺たちが既定の数を倒し終わってみれば、巣の周りに居るアリどもは、俺たちが倒した数を上回って歩いている。倒すほど増えるのか? ってくらいだ。想定以上に敵の戦力が多い、これはもう俺たちの仕事じゃない。残ってる奴らは戦闘を避けて撤退してる、後は上級の勇者の仕事だ」


 作戦本部で聞いていた近況よりさらに悪い、あの人たちは何と言っていた? “ここ数日で数も強さも増してきてる”? どこまでここのアリどもは強くなるんだ?


「……これから、あなたたちは」


「内部の討伐はもう無理だが、俺たちは破れた“網”を埋める。アイビス、お前はどうする?」


 と、腕を抑えてうずくまっていた剣士が話し掛けられる。


「……治癒魔法を掛けろ」


「おい、あんま無茶すんなよ? もう俺たちの仕事はねーんだ」


「場に残る頭は出来るだけ居た方がいいだろ……」


 勇者の一人が魔石を出し、彼に黄緑色の光を振り掛けている。


「坊主は、これからどうするんだ?」


「……俺は中心の穴を確認してきます」


「お、おい、やめとけよ、あそこは敵の本陣だぞ」


「見てくるだけですよ。それでは」


 少し休んだら、体の巡りが少し良くなってきた。体の中は、満たされていた何かがごっそり抜け落ちているのを感じる。


 俺は森の中を走っていく。感知範囲を最大まで広げ、アリとの会敵を出来るだけ避ける。今の彼の言う通り、“中央”に近づいていっても他の人間の姿は見当たらない、代わりに見えるアリの数が増えていく。


 俺は今、ここでどうするべきか? “アリの神性”。聞くだけでも加速度的に強くなっている、もしそれが際限のないものだとしたら、叩くのは出来るだけ早く、今ここ。もし俺が今それが出来るなら、力を尽くしてでもそれをした方がいい。広がった末節が次々と起こす被害を、俺の力だけではすべて救い切れない、叩くのなら今、その本陣を。


 森の中、暗い雲の下、重い風が吹いている空の下で、俺は感知範囲外から何かが降ってきたのを感じた。


 それはいつの間にか目の前にいた。それは、彗星のように空から降って来て、森を突き抜け、地面を長く滑りながら俺の前で止まる。


 目が合った。小さな少年だった。


「勇者協会所属の“光”の勇者だ。救援を受けて助けに来た。現状はどうなってる」


 “光”の勇者? てかどっからやって来たんだ。俺は、彼が現れた元を見るが、大きくたわんだ木々は揺れながら、彼が作った穴を元の形に戻していっている。


「……中級の勇者が穴の周りの地上のアリの掃討の担当、下級の勇者が周囲を囲んで大きく包囲網を作る作戦だったが、どちらも共に戦力不足。敵が事前の想定以上に戦力を持ってる。今は中心付近から撤退し、残った下級、中級の勇者が包囲網に回り、上級の勇者の到着を待ってるところだ」


「了解。おれたちは地上のアリの掃討に回ればいいのか?」


「そうだけど……湧き出すアリの際限が見えない。今回の作戦はアリの増殖を止めるところまで行かないと終わらない、地上のアリの数を減らすのはその事前準備。巣穴の担当は居るのか?」


「アリの増殖を止める? その方法は?」


「この盆樹海の中央に巨大な穴が突如発生、そこからアリは湧くようになった。増殖は穴の中で起こってる、それ以上は分かってない」


 増殖に“神性”は関わってる? それとも“神性”はアリの強化だけか? まだ分かってない。


「女王アリってのが頑張ってんのか? まぁ分かった。要は、アリが湧き出す根元を叩けばいいんだな。……お前は?」


「……その辺の勇者です」


「担当は?」


 担当? あー、遊撃? いや違うな、今は―


「俺は、巣穴の様子を見に行くところだ」


「了解。おれも行く」


 え、俺は無理そうだったら途中で帰るけど……いやまぁ、この人はおそらく応援の“上級の勇者”とやらだろうし、戦闘は彼に任せよう……任せられるか? この子は俺より一回りか二回り小さい少年……いや言ってる場合ではない、


「お前も一緒に来るか?」


「え? 一緒に?」


「“穴”の方向は上から見えた。そっちまで一直線に行く。来るなら手を握れ」


「え、あ、はい」


 移動系のスキルか? と、突然すさまじい力が彼から掛かる、景色が線のように前から後ろに伸びていく。俺たちは気が付けば、樹海の真ん中にぽっかりと空いた巨大な穴の上に飛んでおり、俺たちは慣性に任せて向こうの地面まで辿り着き、ごろごろと森の中を転がっていく。


「今のが穴だな」


 乱暴な移動手段だな! ここまでもそれで来たのか?


「そうだけど、一人で行く気か? 中は危険だぞ。まだ内部は何も分かってない」


 俺は素早く立ち上がりながら、少年に言葉を返す。少年は俺に意見されて不服げな顔だ。


「おれを舐めてんのか? お前こそどうする、見に来ただけか?」


「……俺の目的は増殖の主だ」


「そうか。じゃあ最後まで一緒だな」


 と、彼はさっさと、向こうに見える穴の中へ飛び込んでいく。噓でしょ!? と、ここで待っていれば次々と周囲のアリたちがこちらに気づき、俺へと向かって来ている。……それらのアリは、俺が外で見たそれらと見た目の差はない。中央に集まってる個体は強力、みたいな特徴は別に無いか。


 ここまで来たならもう進むしかない。えぇい、ままよ! 俺は少年の後を追って、穴の中へと飛び込んだ。

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