閑話、授業:対人・ヒカリ
「キョウゲツ、時間出来たよ」
と、ギルドハウスに淡い黄色の髪の少女が訪ねてきて、そう言った。
「あれ、もう双属性のやつは習得できた?」
「まだ。でも、裏でこつこつ続けていくよ。キョウゲツは、剣の練習がしたいんでしょ? ヒカリが見てあげる」
「いいのー? ありがとー」
俺たちは“闘技場”にやってきた。“闘技場”とは、内部に特殊な結界のようなものが張られた空間で、内部で起きた負傷は外に出ると無かったことになる。ダメージが過剰に蓄積して、あるいは致命的な一撃を食らうと、その瞬間外に放り出される。魔法などで消費した魔力は回復しない。そういう空間。
人類は常に魔物などの外敵と睨み合う関係なので、競技としての私闘は人類の中では人気な部類に当たる。このコロシアムも、さすがに各自治体ごとには無いが、各地に点々と存在している。
中では、冒険者や勇者、あるいは民間の私闘勢など、戦闘を好む人間たちが鎬を削り、己の技を磨きあっている。
入場料を払い、トンネルをくぐって内部に入ると、広いグラウンドの上にはすでに何人もの人間が居り、剣や魔法を手に戦っていたり、休憩していたりする。グラウンドの周囲を囲む観客席には、暇な一般人がちらほら観戦に来ている。
「ヒカリちゃんは、こういった闘技場には来てたりするの?」
「中にはあんまり。でも、暇な時に観客席で見てたりする。参考になる技とか魔法とか見れるから」
なるほど、ヒカリちゃんはこういった所で勉強してたのか。
「それより、ルールどうするの?」
「うーん……“武器破壊”とかでもいい? 俺が、あんまりまだ対人に慣れてないし」
ヒカリちゃんの体に、傷つかないとはいえ剣とか振り下ろせないし。
“武器破壊”とは、“闘技場”内のルールの一つ。それぞれの武器に耐久値が課せられ、ゼロまで削られたら負け。あまり実戦向きではないが、互いの武器が守るべき弱点となり、攻防の繊細な切り替えや戦略が見られる人気のルール。
他には、体に的を付けて壊し合う“的破壊”や、特にルールなしの“全身戦闘”がある。
「まぁなんでもいいよ」
「おっけー」
「武器は、それぞれ持ってるやつ? 魔法やスキル石は使用可能?」
「よく分かんないから全部ありで。武器は……」
まぁ、剣の腕を磨くだけならシンプルな木刀とかの方がいいだろうが、今日は新武器も含めた自分の戦闘スタイルの総合的な完成度を高めるために来ている。できれば手持ちの武器でやりたいな。
「今、自分で持ってるのでも大丈夫?」
「いいよ」
武器によっては、武器性能の差だけで勝負が決まることもある。俺はヒカリちゃんの武器のレベルに付いていけているだろうか。まぁ瞬殺されたら泣きついて持ち替えをお願いしよう。
「それじゃあ、やろっか」
黄色い髪の少女は、自分の武器を呼び出して、背中を向けて向こうへと歩いていく。少女の手にあるのはシンプルな装飾の小さめの直剣。ずっと見ているやつ。
俺も自分の武器を呼び出した。新調し、緑色の翡翠のような刀身、形状は曲刀、日本の刀に比べると少し幅が広く、刃が描く曲線も大胆だ。“風影刀”、強く振れば風が起きるという。要るか? その効果。
と、ヒカリちゃんは離れたところで立ち止まり、こちらを振り向いた。
「準備はいい?」
「いつでもいいよー」
俺は剣を構える、ヒカリちゃんは、その剣の切っ先を俺へと向ける。
「“決闘”」
「“決闘”」
ヒカリちゃんは、低く、その体を屈ませた。俺は左手を剣から外してヒカリちゃんの居る方向へと構える。
ヒカリの体が動いた、彼女は一直線に剣を構えてこちらに走ってくる。
「“エアバック”!」
彼女の進行方向に不可視の空気の塊が置かれる、彼女の体はそれに飛び込み、魔法は効果を発揮して彼女の体はいったんその場に止まるが、魔法は消え、彼女は気にせずすぐに走ってくる。まぁこんなもんよな。
「“エアバースト”!」
次に、俺は彼女の真隣に空気の爆発を生じさせる、と、少しタイミングがずれたか、ヒカリの右後方に空気の爆発が発生させるが、一瞬彼女の姿勢と軌道を乱せたくらいで、彼女はすぐに立て直して走ってくる。作れる“隙”は、これくらいね。
俺は諦めて剣を握る、ヒカリちゃんはもう、すぐそこの地面に居る。
“武器破壊”のルールの肝は、剣で攻撃したとき、相手の剣で受けられると、双方の剣にダメージが行くという所だ。そして問題は、どっちのダメージの方が大きいか。
どういった方向から攻撃すれば、より攻撃側のダメージが少なく、防御側のダメージが大きくなるか。下手をすればカウンターを食らい、弱点である武器に大きなダメージを貰う。攻めのターンは常に守りのターンも負っている。
ヒカリちゃんは……小さいな、ヒカリの足がすぐそこの地面を蹴る、彼女の剣はまっすぐ俺の喉元を狙っているようだ、彼女はそこの地面で踏ん張り、剣の刃を俺の喉元へと振り上げてくる。
ルール“武器破壊”は、武器に“も”、ダメージが設定されただけで、喉や心臓などの急所をやられれば一発で退場負けなのは変わらない。別に体を攻撃してはいけないというルールはない。
彼女の剣の起点は低い位置にあり、俺の肩の位置だと、剣で打ち合おうとしても、すり抜けたり、あるいはかち上げられたりして守りにくいな。ごめん……と思いながら、俺は足を上げて彼女の肩を狙う。
俺の足が彼女の肩を捉える直前、少女の体はさらに沈んだ、俺の足は空を蹴り、彼女の剣の軌道が複雑に曲がり俺の腿の裏の健を切られた。
俺は痛みに頭がくらみ、気が付けば体を押され、俺は背中から地面に付いたらしい。持っていた剣は手から弾き飛ばされ、最後に見えたのは、彼女の剣が俺の喉に振り下ろされる所だった。
気が付けば俺は闘技場の外に立っている。
「からめ手よりも先に、敵の命を終えるまでの算段を付けよう。その過程で、妨害されたり逃げられたりで邪魔されたら、補助の魔法とかスキルを使って、敵の手を邪魔しつつ追い詰める。“敵の攻撃をあらかた見届けてから動き出そう”みたいな考えだと、今みたいに瞬きしてる間に戦闘が終わるよ」
「はい……はい……はい……」
俺はグラウンドの脇の方に立って、少女に、彼女の扱う速攻の戦法についての教授を受けていく。




