閑話、自己強化週間
「ねー、俺の武器変えられるんならさ、もっとシンプルな形にしてくれない? 使ってて地力が上がるような」
ギルドハウスにミナモさんが現れたタイミングで、俺は彼女にそう頼み込む。
「じりき?」
「そう」
「……まぁ、シンプルな奴なら」
ミナモさんは俺の胸元に手を突っ込み、そこからお守りを引っ張り出して勝手に引きちぎる。びっくりするから急にそんなことするのやめてほしい。ミナモさんは、その古風な緑色のお守りを何やら弄っているようだった。
「……恥ずかしいから見ないで」
「今それに何やってんの?」
「“風影刀”。強く振ったら風が出るけど、それ以外の能力は特にないよ。性能はふつう。能力は弱めだから、外に出していられる時間は長いと思うよ」
彼女が差し出したそれをさっそく呼び出してみると、黄緑色にほんのり透き通る、翡翠のような見た目の綺麗な剣。そのまま部屋にでも飾っておけそうだ。輪郭は、曲刀のように刃がうねうねと弧を描いている。
「ありがとう。ちなみに、元の派生とかに戻せたりはしないの?」
「元の? 別に戻せるけど、最初に近い派生は、もう性能足りてないんじゃない?」
“性能”? 派生によって、武器の一発の威力だったりが変わってるんだろうか、後に解放した派生ほど強いとか。
「ふーん。じゃあまぁいいや。またこの派生でしばらく頑張ってみるよ」
「はーい」
しかしこの武器……どこの何?
俺は近所の図書館を訪れていた。目的は魔法の図鑑のコーナー。俺はメインで魔法を扱う訳ではないもの、しかし覚えた魔法はどこでも使える。便利なものは覚えていて損はない。何か新しい魔法を覚えようかと、魔法の図鑑で調べに来たわけだ。
入場料を払い、俺は中に入っていく。
俺は閲覧可能な本棚を巡っていく。目当てのものは大体決まっている、“風”の属性の魔法だ。“風”特化の図鑑はなかったので、いろいろな魔法が載ってる図鑑を手に、近くの机に向かう。
パラパラとページをめくって“風”の魔法の欄を探す。覚える魔法を“風”の中から探しているのは、単純に俺の第一属性が“風”であるからだ。
“大自然系”に属する“風”は、同じく“大自然系”に属する“炎”や“水”などへの属性転化が簡単なものの、属性を変化させた場合には必ず変換に伴い魔力損失が起こる。変換効率は、同じ体系の属性なら7~8割程度、残りの2~3割はどっかに行ってしまう。魔力効率だけで言えば、自身の身体属性と同じものの方が魔法の効率がいい。まぁ実際は、戦闘に有用な魔法は“炎”や“雷”に偏ってしまっており、魔力効率を鑑みてもそっちの出番が多かったりするが。
とは言え、“風”の魔法の中に有用なものが一切ない、というわけではない、と信じたい。まぁ無ければ無いで他の属性から良いのを探そう。
俺は“風”の魔法が載っているページに到達し、中の内容を目で追っていく。なになに?
“エアバースト” ―“風”、初級魔法
風を一点から発生させ爆発、周囲のものを強く動かす。その非破壊性のため、相手を動かす以外にも、自分の緊急回避にも使える。
シンプルな“風”の魔法だ。確かに、咄嗟の移動のための風の爆発、使おうと思えば使える。俺は、魔法を主体とした戦闘スタイルではないため、今までは戦闘に深く魔法を絡めてこなかったが、この魔法は魔力消費が軽そうだ。練習してもいいかもしれない。いったん覚えておこう。
俺は他の魔法も見ていく。
“エアバック” ―“風”、中級魔法
風を強固に固めて空気の塊を一時的に作る。自身の体が吹き飛ばされたり、あるいは高所から降りたりする際のクッションとして有用。空気の抵抗の大きい相手に、空中での勢いを削ぐなどの使い方もある。
これも面白そうだな。“エアバック”。ただ、中級魔法か。高所からの飛び降りや自分が吹っ飛ばされた、なんて時に、俺の中に中級魔法を使える余裕はあるだろうか。たぶん有用なやつなんだろうけど、咄嗟に使えるようになるには結構な練習量が必要に思える。ジャンプして飛んできた相手を止める時くらいはまぁ、今の俺の練度でも使えそう。これもメモだな。
俺は目を滑らせて、他の魔法も見ていく。
“風の爪” ―“風”、中級魔法
ひっかくような鋭い風を発生させる。破壊能力は皆無に等しいが、出来るだけ傷つけたくない相手への、目潰しなどの使い方がある。なお、動く相手の目に当てるにはそれなりの技量が必要。これだけでは戦えないのでブラフのような使い方になる。
“風の爪”か……分かってはいたが、「分かりやすく強そう! 攻撃して相手に打点を入れる!」みたいな魔法が見当たらないな……まぁ“風”の魔法だしな。期待するだけ無駄か。
相手への目潰しか。意外と対人戦とかだったら使えそうな気はする。確かにしょぼいが、魔力の少ない俺にとって、魔力消費の少なく使える魔法というのは、それだけで選択肢に入ってくる。でもまぁ、必要とされる精度の割に得られる結果がしょぼいのはそう。これなら敵の弱点に雷の魔法とか打ち込んだ方が強そうだしな。まぁ一応メモか。
俺は、ページをめくって次のページの魔法も見ていく。
“雲の糸” ―“風”/“引力”、高等魔法
“引力”を“風”の形状に変化、ゴムのような、あるいは樹枝のような風を、片方を空中に作った風の塊にくっ付け、もう反対を指定の対象にくっ付け、引っ張る。双属性魔法。これを使えば、何も足場など用意せずに、空中へ自分や物を引っ張り上げることが可能。上級魔法であり連発は厳しいが、理論上はこの魔法で空を飛び続けることが可能。
もちろん“引力”単体で物を触れずに浮かせて操作することは可能だが、こちらは“風”を混ぜることで、少ない魔力で大きな力を生み出すことが可能。また、この“雲の糸”は、空中の一点へと向かう弾力のある力であり、外側から引っ張り徐々に加速するというその性質上、無理やり外から力を加えてものを動かすという通常の“引力”より、対象への負担が少なく、自身や味方にも使うことができる。
高等魔法だけあって、難しいことが書いてあるな……だがコスパがいいと書いてあった。俺でも使えそう、か? 魔法の効果については、どうやら空中へと引っ張るゴムのような引力を発生させるようだ。
シンプルだが、シンプルなゆえにいろんな場面で使えそう。「この崖のぼるの面倒だなー……」なんて場面でも、この魔法を使えば一発で上まで登れるし、「あそこの道でなんか敵が睨んでるなー」なんて場面でも、この魔法を使えば敵の上空を飛び越えて敵を避けられる。戦闘中に使えばよりダイナミックな動きが出来る。今日見た中で一番興味が高い。
ただ、高等魔法である。あと、さらっと書いてあったが“双属性魔法”ってなんだろう? 俺はまだ習ってないな……どうやって習得するんだろう。原理は分かるが、『“引力”を“風”の形状に変化』という点のやり方が分からない。
“引力”の魔法なら、ジャノメが使ってたあれだろう。その魔法では、岩や土を持ち上げて使うことが多いので、別名“土”魔法、“岩”魔法なんて呼び名もある。俺も魔石で一つ持っているので、練習すれば“雷”のように使えるようになるはずだ。多分。“引力”も“大自然系”の属性なので、魔力の変換効率や習得難度は“雷”と似たようなものだろう。
で、『“引力”を“風”の形状に変化』ってなんだ? この図鑑には説明が載っていない。まぁ、一応メモを取っておいて、ほかの魔法にも目を通しておくか。
俺はその後も、図鑑に載っている“風”の魔法を見ていった。気になった魔法が載っているページは、書士さんに頼んでページをコピーした。




