第三話、びっくり城(じょう)
「こんにちはー。俺が来ましたよー」
俺が先生の職員室を訪ねると、先生は奥で何やら執務をしていた。
「おや、来ましたか」
いつの間にか、俺と神様は白くてふわふわした空間の中に立っている。
「今回はとあるお城の調査に行ってもらいたいですね」
「お城ですかー? どこの、誰の?」
……まさか、魔王の城とか? と、神様から帰って来たのは淡白な答えだった。
「いえ、それが不明ですね」
「……? 不明とは?」
「そのお城は“未開域”、つまり人類の管理下にない土地に突然出来ていました。現在、どこの勢力の、何のためのお城かは分かっていません。見た目は、日本の城に近い和風な建築で、中に入ると延々と、襖で区切られた“間”が連結されているという構造になっています」
突然現れた和風の城? 中は襖の部屋の迷路?
「ほかに、分かっていることは?」
「そうですね。中で何かしらのモンスター、人型と出会ったという話はないのですが、中では、人為的な、人を驚かせるような仕掛けに延々と出くわすそうです」
「……人を驚かせる?」
「はい。いまだ内部は未知ですが、ケガもなく、危険も見当たらないということで、その城は“びっくり城”という名前で、噂を聞き付けた物好きが訪れ、楽しんでいく観光名所になりつつあります」
「平和ですねー」
問題は今のところ無さそうか?
「しかし、その由来や目的が不明であり、その城全体から私はほんのり“神性”を感じ取ることができます。キョウゲツさんには、この城の内情を調べてきて欲しいですね」
突然現れた変な城の調査か。
「その城全体が“神性”本体そのもの、とかだったらどうするんですか?」
今のところ無機物ばかりと当たっているが、言葉を発して会話できる能力はなくとも、それぞれの神性にはぼんやりと意思のようなものを感じている。城が本体、奴はなんだか人を呼び込んでいるようだ。じゃあどうする?
「危険であれば、そうですね。破壊をお願いします」
「簡単に言いますね」
「私は信頼しているのでキョウゲツさんに全面的にお任せしますよ。方法については、信頼しているのでキョウゲツさんにお任せします」
丸投げじゃねーか。城が突然変形して立ち上がってバトルとかなったらどうするんだ。
「まぁ、噂を聞くに危険度は低い対象ですので。今回は難しいことは考えなくてよろしいかと。行ってとりあえずなんか調べてきてください」
適当だなー。
「そう言えば、前回の“錆の神性”についてはどうなりました?」
俺が持ち帰ってきた“神性”は、この神様がなんやかんやして俺の手でも使えるようにしてくれている。前回持ち帰ってきたそれはどんな力になったのだろうか。
と、俺がその問いを発した途端、神様はずずずと顔を外に逸らしていく。
「……なんですか? 神様。もしかして無くしちゃったんですか?」
「神様は無くしません。違います。その……ワカナさんが。持って行っちゃいましたけど」
は? え? なんで? ワカナはそもそもここに来れんのか? 俺が知らないだけで、神様もとい先生の交流が広いのだろうか。
「……なんで?」
「いや……欲しそうだったから」
俺は共鳴石の探知を利用してワカナの居場所を特定する。まだアイリスの街の中に居た。彼女はとある喫茶店のテラス席で、ふりふりのピンクと黒の可愛い服を着ながら、テーブルに乗ったケーキとお茶を楽しんでいた。共鳴石が無かったら全然見逃してたなこれ。
「やぁ可憐なお嬢さん。向かいの席、空いてるかい?」
俺は一つのパラソルの下、ワカナが座っているのと同じテーブルの席へと着いた。ワカナは若干辟易とした様子で俺の顔を見上げている。
「なんだよにーちゃん。俺のこと好きすぎるだろ」
「“錆……先生の所から錆びた武器を持ち出したのはてめーだな? 出せこら」
「あぁ? なんで。あれは俺がもらった」
「俺が貰ったじゃねぇ、あれは俺のものだぞ」
「あぁ? 俺だって回収手伝ったし、少しくらい借りたっていいじゃねーか。にーちゃんばっかり強い武器もらってずるいぞ」
しかし、それらは俺がいろんな“神性”を集めるための手段となるわけで……まぁ確かに。ワカナに手伝ってもらった恩もある。俺だけ独占するのも違うのだろうか?
「……回収した“それら”は、ほかの厄介なものを集めて回るための力になるんだ。お前がそれを持っていくって言うんなら、じゃあお前も仕事手伝ってもらうぞ」
「あぁ? 仕事? 何の」
ワカナは、ぶつくさ言いながら目の前のケーキを少しずつほじくって食べている。口と態度に目をつむれば、休憩にはずいぶん可愛いことしてんだなこいつ。
「今回は、とある未開の地の“お城”の調査だな」




