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教科『異世界』の じかん だよ! ~武器と魔法とスキルを学んで、仲間と共に異世界を歩き、モンスターを倒し強くなれ!~  作者: 藍染クロム
Ep2.赤砂河(あかさごがわ)

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閑話、引き取り拒否?

「私もそろそろレベルが上がってきたし、場のレベルを一段上げて、別の狩り場へと移動したいと思っている」


 赤砂河攻略後、ツバキはまだ俺の居るギルドハウスの近くに滞在していたらしい。ツバキが、このギルドハウスを訪ねてきた。ツバキは、俺の出した椅子に座ってお茶を飲みながらそう言ってくる。


「そこで、先生と一緒に住む」


 灰色に近い、まっすぐな髪の少女は、まっすぐに俺を見つめ、澄ました顔でそんなことを言ってきている。


「確定事項みたいに言うのやめようね。住まないから」


「どうしてだ? 私と先生とで一緒に住む部屋を借りるんだ、一人で借りるより安く済む。お互いにメリットがある」


 いっちょまえにメリットを提示して交渉か。


「適したレベルの狩り場に移動するために拠点を移すんだろ? 俺とツバキでは強さに何枚か差がある、つまり適したレベルの狩り場も異なる。その点で言うのなら、俺たちが住むべきは別々の狩り場の近くだ、どっちかに合わせればどっちかから遠くなる」


「私が先生の所に合わせる」


「わがままを言え。まだ成長の足りてない今のお前は、もっと自分に適した効率的な選択肢を選ぶべきだ。移動費も移動時間も、腕の回らない時期じゃきっと大きな負担になる」


 俺が重ね重ねそう否定すると、ツバキはしゅんとして下を向く。


「……一人では、さみしい」


「……」


「冒険者の中に、私と同年代の同性なんてなかなか見つからない。話の合う知り合いが居ない」


 ……ツバキはまだ、小さな女の子だ。それを承知で自分で選んだ道、とは言え、覚悟だけではどうにもならない所もある。


 俺の周りには、小さい女の子(に見える)の冒険者の知り合いがいくつか居る。


 シラアイがその一人、彼女は中性的な見た目で、自身を男児に見えるようにして立ちまわっていた。ワカナはなんか知らんが男性に変われる。その二人は二人とも、“小さい女の子”という弱そうなレッテルから逃れて動いていた。ジャノメは普通に女の子だが、彼女はその制御しきれない溢れる龍脈が自衛の手段になっていた。


 じゃあツバキは? 彼女はまだ年若く、強い力もなく、鬼の血のように特殊な体質もない、元は普通の女の子。下卑た冒険者に見つかり、付け狙われたとして、彼女はどうやって身を守る? 俺はいつもツバキと一緒に居るわけじゃない。ツバキは、ほかに知り合いが居たか、ヒカリちゃんとは友達になっていたようだがヒカリちゃんには勇者の責務がある。


 ツバキは、ツバキはじゃあ、小さい女の子という立場の自分を、どうやって自分一人で守っていく? 今までは何もなくて、じゃあこれからは?


 俺は目の前のツバキに目を戻す。彼女は、萎れた様子で俺の顔を見上げている。ずっと一緒に居られる訳じゃない、でも、この子と一緒の部屋を取るくらいであれば、俺も彼女の男除けに貢献できるのでは無かろうか?


 知らない子じゃない。捨て置く訳にはかない。ただ手を入れすぎる訳にもいかない。ラインはどこだ? 同棲は……いや同棲はアウトじゃないの? 知らん家の子だぞこの子は。落ち着け俺。


「ヒメトラが、行きましょうか?」


 と、床から声がする。そこに置いてある猫入れを見れば、ヒメトラは、今は起きているようだった。


「……いい、のか?」


 俺が聞くと、ヒメトラは淡々と答えてくれる。


「正直思ってはいたんです。ヒメトラは危険な場所は好みません。しかし、ごしゅじんさまは、そう言った場所によく足を向けるようです。私はその度に付いていくべきでしょうか? それとも家の、安全な所で帰りを待っているべき? ヒメトラは、ごしゅじんさまと一緒に居たいです。ヒメトラは一人は嫌で、危険な所も嫌です」


 小さなトラは、小さな箱の中で寝返りを打ち、ツバキの居る方向に目を向ける。


「しかし、そこの子はまだまだ弱いようです。行くのは、ヒメトラにとっては安全な狩り場。ご主人様が居ない間、寂しいもの同士、一緒に居るのもいいかもしれません。ご主人様の懸念事項も、一つ減らせます。ヒメトラは満足です」


「……俺と、一緒に居たいんじゃ、なかったのか?」


 もう、行っちゃうのか? ずっと連れ歩いて……いや、俺はそう、危険な場所ばかりに行くのだ。俺はずっと、この温かい毛玉を、どこへでも連れ回す訳にはいかない。


「ご主人様はじゃあ、ずっと家の中に居て、ヒメトラと一緒にごろごろしてくれますか?」


 答えは、否だろう。俺はまだやるべきことがある、やりたいことも。


 小さなトラが、箱の中を這い上がり、こっちに置いてある椅子のある所までぺちぺちと歩いてやってくる。ぼふんと、白煙が立ち上り、そこにヒメトラの人間の姿が現れる。彼女はただ立って、手をツバキへと差し伸べて、問いかける。


「どうしますか? ヒメトラを連れて行きますか? ツバキ」


 ツバキは、差し伸べられた彼女の手を、ただじっと見下ろした。そして、再びヒメトラの顔を見上げて、その目を見た。


「私は先生と同棲がしたいだけだ。邪魔をするな」


「ご主人様、この子供の教育がなっていないようです。私が済ませて来ますね」


「お前の俺の教育もなってないだろ」


 気まぐれな猫は、居なくなる時も不意だった。居たのはほんのひと時だったが、俺がこのギルドハウスから、猫入れを片付けることはないだろう。


 数日後に、その箱の中にヒメトラが戻ってきていたのを見つけた。飽きたらしい。彼女は今日も、何食わぬ顔でごろごろと箱の中の布を乱している。


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