-強行
夜を乗り越え朝日が昇る。夜の間に寝ずの番を任せていたヒメトラは、交代で今から眠りに入り、俺たちは起きだして朝の支度をしている。
水色の空、世界はほんのり冷たい朝の空気に包まれ、足元を、重い空気が風に押されて流れていく。そろそろ地平線から日が昇る時間だ。広がる砂漠はまだ薄暗い、遠くの空を見れば白じんでいる。
「ねぇ、ヒカリくさくない……?」
と、起き出した少女の一人が、くんくんとしきりに自分の腕やらの匂いを嗅いでいる。
「一日くらい大丈夫じゃない? 昨日、体は拭いたんでしょ?」
「……でも」
俺がそう言っても、ヒカリちゃんは自分の体をまだ気にしている様子だ。別に冒険者だったら一日風呂に入れないくらいよくあることだし、俺は気にしないのだが。
「ちゃんと顔付けて直接嗅いでやれば? にーちゃん」
「変なこと言うな。お前にやるぞ」
べー、と、青髪の少女は、桜色の小さな舌を口から出し、目の下を引っ張っている。
「突入前に、ツバキに身体強化の魔法を掛けてもらうよ。それは外から掛けるものだから、掛けたのに使った魔力分消耗したら魔法の効果は切れる。魔法の効果が切れる前に、出会う敵を押しのけながら、俺たちは渓谷の内部を探索する。目的の品を回収、あるいは魔法が切れそうになったら一時撤退だ」
燃え尽きた焚火の後を囲んで作戦会議。俺の言葉を、ヒカリちゃんとワカナとツバキがそこに座って聞いている。
「ツバキの魔法は、掛けた時に少し体の動かし方が変わるから、突入前に一回動き方を確かめた方がいいかもね。ここまで何か質問はある?」
子供たちは、こちらを見上げて俺の言葉を大人しく聞いている。
「“彼に天使の羽を授けん”」
きらきらと虹色の粒子が生まれ、それは俺の体に触れ、吸い込まれていく。ツバキの片手には、きらきらの金属光沢の小石が握られている。
「おー。なんか変わった感じがする」
腕を上げると、確かに動かすのに抵抗を感じる。まぁこちらは全体的に動作が重くなるが。
「なーワカナ、試しに腕を殴ってみて」
ワカナが俺の体を叩くと、鋭い音がしたがほとんど痛みを感じない。だが触れられた感覚が無くなったわけじゃない。体だけ丈夫になったような、不思議な気分。
「おっけー。じゃあツバキ、ほかの二人にもお願いできる?」
ツバキはヒカリちゃんにその魔法を掛け、そしてワカナにも同じのを掛けた。
「俺は別に必要ないと思うんだが……うん?」
ツバキが放った光の玉が、ワカナの体に触れた途端、黒くくすんで分解されていく。
「あれ? 俺にも掛かったか?」
「……私が、失敗した? もう一回やってみる」
もう一度やったところで、同じ結果だ。彼女の魔法の光は、ワカナの体に吸収されることなく、くすんで無くなる。
「……これ、俺が悪いのか?」
ワカナは自分の手を広げて見ている。
「もしかしたら、ワカナの体質が邪魔してるのかもね」
鬼の血は“干渉系”に属する魔力であり、ツバキが使う天使の力は“天理系”の力だ。四界相性というのがあり、四つの魔力の体系はそれぞれ四つ巴の関係を取っている。“干渉系”は“天理系”に対して有利を取り、逆に“天理系”は“干渉系”に対して不利となる。
「ふーん。まぁ、俺の体はそもそも丈夫だし、体を丈夫にする魔法なら無くていいんだがな」
「じゃあ……そうだね。ワカナはじゃあ、俺の護身の魔道具を持っててよ」
「あぁ? 俺は要らねーつっってんだろ」
「いいから持っとけ」
俺は、腰元の枝豆のブローチをワカナに移した。
「これで……」
いや待てよ、“干渉系”が“天理系”の魔法の邪魔をするなら、“天理系”の魔法が“大自然系”の魔法の発動の邪魔をするのか?
「ヒカリちゃん、いつもの魔法は使える? 少し試してみて」
「魔法?」
ヒカリちゃんは、手の平を上げて何もない砂漠へと向ける。
「“小さな電気”」
ぴり、と、彼女の手の平から多少の電気が漏れ出る。
「確かに。発動に若干のラグが出来てる」
「大丈夫そう?」
「これくらいならまぁ。ツバキの魔法もちゃんと残ってる」
魔法の発動が出来るならまぁ、大丈夫か。身体強化の魔法の解除もない。
「私の魔法は力になれていない……?」
想定外のことが続けて起こって、ツバキが不安そうな顔をしている。
「そんなことないよ、ツバキ。君が居るから今日の作戦があるんだから」




