-仲間集め
和やかな街並みをしばらく歩いていくと、丸太で建てられた大きめのログハウスがある。
「ごしゅじんさま、ここは何ですか?」
俺の頭の上で伸びた猫が、人の声で聞いてくる。ごしゅじんさまと呼ばれるのはなんだか気恥ずかしいな。
「ここは、俺たちのパーティーで借りてる建物だよ」
「パーティー? 仲間がいらっしゃるんですか?」
「うん……まぁ遠からず仲間」
建物を開けると、広い一つの空間、内部には、彼女たちが残していった荷物の抜け殻が散らばっている。彼女たちはバイト先を見つけてから、職場に近いところに寮を取っており、この建物の中で雑魚寝しているところはもう見かけなくなった。
だが、俺もこのホワイトベルの街の利便性を気に入ってきており、何かとこの街に寄ることが多くなっている。ミナモさんの部屋に置いてあった転移陣も、今はこのギルドハウスに置かれている。
転移陣の先は、いまだ森林街に取ってある宿の部屋の中に置いてあるのだが、あれはどうしようか。段々とあちらの部屋は使わなくなってきているんだよな。まぁ、大陸側に転移が繋がっているのは便利なんだけど。
そこに置いてある冒険用の消耗品を補充していると、後ろでガチャリと音がする。
「あ! ここに居た!」
扉を開けて、真っ白い光に包まれ現れたのは、ヒカリちゃんだった。
「あれ、ヒカリちゃん。どうしてここに?」
彼女は勇者の学校で教授を受けている、勇者の見習いの少女。正義感の強く腕っぷしも強い、勇者らしい勇者。
「キョウゲツ、ずっと探しても居ないんだもん。どこに居たんだよ」
「あぁごめん、世界に引っ張られて右に左にね……」
「はいこれ」
と、少女は手に何かを握って差し出してくる。開いた中にあったそれは、共鳴石。
「無くさないでね。ずっと持ってて」
「仰せのままに」
俺は受け取ったそれを見下ろす。その破片は小さくて軽くて重い。
「ネコ飼ってるの?」
と、少女は俺の頭にしがみついているそれに注目している。
「最近拾ったー」
「ふーん」
「ところで、俺を探してたってことは、何か俺に用事があったの?」
「用事? 別に。会いに来ただけ」
彼女はどういう気持ちでそれを言っているんだろうか。なんだか、心の奥がそわそわしてくるな。でも見た目には俺よりいくつか年下の女の子だし、うっかり抱きしめたら法に触れそうだな……。
「っていうか、なんでヒカリちゃんがここに居るの? 誰かから、俺の居場所教えてもらった?」
「……? ここって、私とかキョウゲツとかのギルドハウスじゃないの?」
あれ? チーム“ことまつろわぬものども”に、ヒカリちゃんも入ってんだ? ……俺が知らないだけで、まだ何人か居そうだな。認知させろ。
「まぁいいや。今、丈夫で強い人探してるんだけど、良かったらヒカリちゃんも来ない?」
「え? ……ヒカリ、最近あんま強くないけど」
「……? どうかしたの? 調子わるいの?」
前まで“ヒカリが全部やる!”とばかりの勢いだったのだが、今日は自信なさそうな様子。
「……ヒカリ、強かったのは最初だけだよ。……今は全然」
薄い黄色の短髪の少女は、俯いて声を小さくする。
勇者の学校に入ってすぐ、先生の授業を受ける生徒の中に、彼女は居た。ヒカリちゃんは同期の中では際立って強く、俺たちをさっさとおいて一人でどんどん先に進んでいた記憶がある。けれど、最近ヒカリちゃんの戦う姿は見ていなかったが、その実力が伸び悩んでいたりするんだろうか。
とか言ってー、本当は強いんでしょー? とか、気安くからかわない方がいい気がするな、本当に悩んでるのなら。でも、まだ俺より全然強かったら泣いていいかな。
「ふーん? ちょっと危ない場所を攻略するのに、仲間を探してるんだけど……じゃあ、ヒカリちゃんは来ない?」
「……キョウゲツのこと、守ってあげられないかもしんないけど」
「別にいいよ、俺は俺で戦えるしね。それに、今は強い武器もあるんだ。危ないときは、俺がヒカリちゃんを守ってあげる」
「……じゃあ、行く」
いたたたたた、俺は思わず上を見上げる。おいヒメトラ。俺の頭に爪立てんな。何が気に入らない。
「あと、ツバキもキョウゲツのこと探してたよ」
……やばい。
俺は転移陣を飛んで、急いでツバキが拠点にしているはずの町の一つにやってきた。ヒカリちゃんに教えてもらった通りの宿屋の部屋を訪れると、眠そうな彼女が出てくる。俺を見て、ぱっと彼女は目を覚ます。
「先生!!」
「ツバキ、久しぶりー」
彼女は特段、気を崩しているというような様子は無かった。いつも通りの、澄ました顔のまじめな少女。今日は珍しく喜色を前面に出している。
「先生! 来てくれたのか! さぁ中に入って! その頭の猫はなんですか?」
俺は宿の部屋の中に通される。ツバキはしばらくここで生活しているのか、彼女の匂いが多少中に立ち籠もっている。部屋の中には、冒険者道具や荷物やらが置いてあるだけ。俺が渡した赤銅色の盾と剣も、あの銀色のロッドも、そこにある。
俺は中に入って椅子に座った。彼女はベッドに腰かけている。冒険者用の寝泊まりする宿だろうので、そこまで広くもないし豪華でもない。
「最近どう? 調子いい?」
「……」
俺がそう聞くと、ツバキは黙って顔を逸らしていく。
「……世界は、私の力ではどうしようもないことばかりだ」
「あはは、始めたてはそんなもんだよ。一歩ずつ登っていって、ふと振り向いたら高い場所に立っている。高い位置に登るほど、世界は自由に動かせるようになる。今はただ一歩ずつ、目の前の坂を登っていこう」
「先生も、最初はそうだったのか?」
「先生も最初は一般人だったよ。ツバキの年だと、まだ剣すら握ってない」
それから、俺は最近のツバキの話を聞いていく。どうやら順調に冒険者を進めていっているようだった。ヒカリちゃんとも、知り合ってからたまに一緒に遊んでいるらしい。二人とも、同年代のお友達ができたようで何よりだ。
「―先生は? 今日はこれから暇なのか?」
「今日……というか、今は抱えてる要件があって。この後はもう帰らなくちゃだねー」
「……そうか」
ツバキは、物悲しそうに俯く。
「……それはいつ終わるのか? 私は、付いて行ってはダメなのか?」
「ツバキはぁ……」
うーん。今のツバキが行ける範囲だと、深度“1”とか“2”とかだよなぁ……。あそこのモンスターは、軽く見積もっても“5”くらいはありそうだったし……。まぁ強い仲間で固めて、俺が“神性”で介護すれば、あるいは……いや、でも逃げ場がないしな……。
「……まぁ、付いて来てもいいけど。危ないところは手前で待ってもらうことになるかもなんだけど。それでも付いて来る?」
「行く」
即答だった。可愛いなぁ。俺が、ベッドの上にちょこんと座るツバキの頭に手を伸ばし、その頭を撫でていると、再び俺の頭の猫が爪を立ててくる。なんなの? お前は、孫悟空が頭に付けてる輪っかみたいな役割なの?




