閑話、チーム・まつろわぬものども ーII
都市ホワイトベル。人間たちが深度“ゼロ”の安全な内地に作った、人の街の一つ。栄えており街の規模は大きく、また、比較的近い位置に多様で豊富なモンスターの狩場があり、それなりの腕を持つ冒険者たちが多く集まっているのも特徴の都市だ。
俺たちの借りたギルドハウスは、その都市の外側に近い場所に位置し、それはホワイトベルの中ではのんびりとした雰囲気の場所にある。建物もまばらで、ここは空も広い。ホワイトベルは、街の中心にいくほど栄えており、中央は人間でごった返している。ミナモさんたちが通うことになる喫茶店も、その中心街にある。
俺は作ってもらった地図を頼りに、魔導で動くバスに乗り、ギルドハウスから中心街へと移動していく。やがて縦長の建物が忙しなく並んでいる中心街へとやってきた。
バスを降りて歩いていくと、通りをたくさんの見慣れない人間たちが行き交っている。人間、居るところには居るもんだな。通りに面して建物の各一階には、おしゃれなカフェやレストラン、服屋などが入っている。意識が高いのか、通りには街路樹も植わっている。
きょろきょろとしながら街を歩いていくと、やがて大きな建物の前に着いた。地図を見て、看板を見て、同じ名前が入っていることを確認し、俺は中に入っていく。
「いらっしゃいませー……おぉ、なんだ、キョウゲツじゃねーか。会いに来てくれたのか?」
中に入ると、入り口で一人の女の子が迎えてくれる。一人の銀色の盆を抱えた、黒白の給仕服をまとった、金髪の少女。その顔も声も俺のよく知るものであり、勇者の学校では同窓だったキララさんだ。
「おいおい、俺はお客さんだぞ。そんな気やすい態度取っていいのかー?」
「残念だがここでは従業員の方が立場が上なんだ。文句があるならこぶしで聞くぜ」
つよい。まぁ、ここは店員全員がモンスターを狩れる冒険者であり、腕っぷしが強く、また人材としても貴重なために、このような強い態度をとることが出来るのだろう。あるいは俺だけ客として舐められてる可能性。
「はっはっは! 客という立場を利用して、勤務中のオレの姿を笑いに来たんだったら残念だったな!」
キララさんがべしべしと背中を叩いてくる。
「あー! キョウゲツくん、来てくれたんだー!」
と、ワカバさんも俺の姿を見つけてこちらにやって来た。彼女の綺麗な黒髪に、その白いフリルがたくさん付けられた黒い給仕服はとても似合っている。今日来て良かったな……。
「こんにちはワカバさん。出来ればここで美味しいご飯を出して貰えると嬉しいです」
「腰が低いね……どうしたの? ……あっ、またキララちゃんが何かしたんじゃないんでしょうねー!」
ワカバさんがキララさんに目を向けると、金髪の少女は途端にそっぽを向く。
「してない」
「暴力をチラつかせられました」
「キララちゃーん?」
「あー? なんだようるせーなー。店長からは“そういうキャラクターの店員でいけ”って言われてんだ。オレ目当てに来てくれる客も居る。お前に文句を言われる筋合いはないねー」
こいつもうキャラクター性で固定の客取ってるの……。
「それは、何度直そうとしてもキララちゃんが“綺麗な店員”を出来なかったからでしょー?」
「あー? 綺麗な店員ってなんだよ」
「あんたらー!! 仕事中に私語ばっかしてんじゃないわよー!!!」
奥の厨房から、女性の大きい声が響く。二人は二人して首を竦めた。
「……いらっしゃいませー! お客様は何名になりますかー?」
「さま」
「一人だよー」
見て分かんないのかー? とか言ったら殴られるなこれ。あまり調子に乗らないでおこう。
「それではあちらのお席にご案内しますねー」
俺はキララさんの背中に連れられて、店内を歩いていく。暗くて、落ち着いた雰囲気のいい喫茶店だった。中は二階建てで、中央は吹き抜けとなっており、視界の左右に一階と二階の席が見えている。奥には料理中の厨房。
俺は二階席の、窓から外の通りがよく見える席へと案内された。通りに生えた街路樹と、下を通りすがる人間たちがここから見えている。俺はテーブルの一つに座って、メニューを渡される。
「持ってくる店員さんの指名とか出来ないの?」
「あぁ? うちを何だと思ってんだよ。んなサービスはねぇ」
キララさんはもう“綺麗な店員”を解除してしまった。……引くまで頼み続けるか。
「……なんだ、もしかしてミナモを見に来たのか?」
「……まだ、ミナモさんだけ見れてないからね」
「はっ、どうせ目当ては最初から一人だろ」
「私語してていいんですか?」
はっ、と、俺の言葉をキララさんは笑い飛ばす。
「んだ、脅しか? てめーが良い子にしてたら、ミナモを連れてきてやろうと思ってんのによぉ」
「キララさん、その服よく似合ってるね。普段は見れない感じがしてとっても可愛いよ」
「あんま適当なこと言ってたら、その薄っぺらい舌引っこ抜くぞ」
本心なのに。短い金髪に白黒の給仕服。その服は何かに仕える立場の人間を連想させるが、それでいて勝気な表情を失っていない。ちゃんと可愛い、額縁に入れて部屋に飾っておけるレベル。まぁ、じゃあ貶しておくか。
「馬子にも衣裳って感じ」
「良く言い過ぎたからって悪く言えば調節できる訳じゃないんだぜ」
「なんかオススメとかないのー?」
「じゃあ、ミナモの作る料理を持ってきてやろうか?」
うーん……。
「それは、別の人とかでも……」
「あいつの手料理は食べたいわけじゃねーのかよ。心配しなくてもちゃんと美味しいぞ? 隣で店長が見張ってるし、レシピもうちのだ」
まぁ、変なアレンジで暴走しないなら、腕は良いしな。
「……じゃあ、それで」
通りを眺めていると、そのうち階段から足音が登ってくる。
「……ほんとに来てるし」
と、そちらを振り向けば彼女は開口一番。ミナモさんは俺の顔を見て、ぼそりとそう呟き、ぺたん、と、テーブルの上にお皿が置かれる。エビっぽい生き物の肉が散りばめられた、白いソースの掛かった麺。ミナモさんが作れたんだろうか。
「また愛想の悪い店員が来たな……」
「うちでは店員の方が立場が強いんだよ。口の利き方には気を付けた方がいい」
ミナモさんは平淡な声でそう言う。
「立場が上だからってあんまりちらつかせない方がいいんじゃないの? それ」
「いらっしゃいませー」
今じゃねーだろ。ミナモさんの格好を、俺は上から下まで眺め下ろす。
「……なに?」
淡い水色の長い髪は今日は散らばらないように結んでまとめられ、頭には白いフリルの付いたカチューシャを付けている。白黒の給仕服は人によって個性があるようで、ミナモさんの来ているそれは、装飾の少ない、落ち着いたタイプのものだった。
「よく似合ってるね」
「視線が気持ち悪い」
「一緒に写真とか取れないの?」
「うちはそういうお店じゃないので。料理頼んで食ったらさっさと帰ってください」
今日冷たいな。いつもか。俺は、ちらと横目でメニュー表を確認する。
「……払えない額じゃないな」
「……ねぇ、もしかして通う気じゃないよね? 言っとくけど、頼んでも毎回私が来る訳じゃないからね?」
俺は二階から、店内を歩いているほかの店員さんの姿を見つめる。
「ほかの店員さんも可愛いから大丈夫」
「それ以上セクハラ発言したら本当に追い出すからね」
それはそうなのだが、彼女は俺を置いてさっさと帰っていってしまった。俺は残されて一人、残された白い麵を慣れない手つきで啜り、食べて進めていく。ふむ。舌が高級な訳じゃないので下手なことは言えないが、ちゃんと美味しい。頑張ってんな。今度はだれか知り合いでも連れてくるか。今度がまたあるかは、知らないけれど。
こと=ことさらに、とても
まつろわぬ=言うことを素直に聞かない
ものども=やつら




